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【特別企画】人気闇配信者ヤミッチさんにドッキリを仕掛けてみました

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僕がお兄さんに買われてから2年程が経ったある日の事、僕のスマホに見慣れない相手からLINEが入った。

「…え、この送信者、お兄さんが所属してる闇事務所だよね。間違えて送って来たのかな」

その頃には企画を通じて仲良くなった闇世界の色々な職業の人(闇なので大半アレ気味だが基本は善良)や僕と同じく元だったり現在進行形でアレなペットの子等の知り合いもそれなりに増えていたが、お兄さんの闇事務所から僕に直接連絡が来たのは初めてだった。

文面をよく読んでみると、送信先を誤った訳では無く間違いなく僕に宛てたメッセージだった。

「え。…ふーん、なるほど。そういう企画かあ」


それから数日後、僕は相手から指示された都内某所の落ち着いた個室タイプの喫茶店に来ていた。

嘘を言って心苦しいが、お兄さんにはちょっと遠くのスーパーを開拓してみるとか適当に説明しておいた。

「ああ、もふおさんですね。初めまして。私はヤミッチさんの所属する闇事務所W∩∩∩のスタッフです」
「初めまして、よろしくお願いします。…闇だからかもしれないけどすごい事務所名ですね」
「ええ、表世界の有名企業とかと被ってはまずいので出来る限りそういう危険性の少なく、それでいてさほど下品では無くかつインパクトのあるネーミングにしようとこうなりました」

「な、なるほど。…それで、闇事務所さんからお兄さんにドッキリを仕掛けたいので僕に協力して欲しいとの事ですが、具体的にどんな事をすればいいんでしょうか。あまりに悪趣味だったりお兄さんを傷付けるような事はしたく無いんですが」

「ええ、それは勿論配慮しておりますのでご安心下さい。もふおさんも今はすっかり元気とはいえ大変苦労されて来ましたもんね。簡単に言うと、ささいな勘違いからもふおさんが機嫌を損ねてしまい出て行ってしまったのですが、紆余曲折を経て某所で再会しそこでネタバラし、という流れです」

「あー、そういう感じですか。それなら全然良いですよ。一瞬とはいえお兄さんを騙しちゃうの気が引けますが、お兄さんもアレな企画は散々やってるしネタバレしたら笑って許してくれると思います」
「はい、ヤミッチさん倫理観と性癖はアレですが良識はあるしとても優しい方ですもんね。倫理観がアレなのは我々全体的にそうですし」
「…そ、そうですね」

「ではご協力頂けるという事で感謝いたします。実行予定日は来月の〇日辺りで、もふおさんはご自宅を出られた後某県の温泉旅館で待機して頂こうと思います。もちろん交通費や宿泊費は全て我々が負担いたしますので」
「はーい、分かりました。企画とはいえ太っ腹ですねー」
「ええ、ヤミッチさんともふおさんすっかり闇動画界隈では有名で人気者ですし、おかげさまで我々闇事務所も売り上げ好調ですしね。闇世界なので一般の株式市場に上場はしていませんが。では、実行日が近付きましたらまた連絡いたしますのでよろしくお願いします」


そんな訳で僕はお兄さんの所属する闇事務所のドッキリ企画に協力する事になった。

お兄さんに隠し事など一切したくは無いのだが、イタズラを仕掛けるなど初めての事なのでちょっと背徳感やドキドキもあり楽しみに実行日を待ち、その間も普通に家事をこなしたりアレな動画撮影や配信に参加したりし日々を過ごした。

そうしてついにドッキリ実行日はやって来た。

「えーっと、闇事務所スタッフさんからの話だと今日の午前中辺りにまたアレ企画の為の闇の荷物が来るんだけど、それがいつぞやみたいにお兄さんの想定を上回るアレな代物で僕がまた引いたり怒って出て行っちゃう、って流れか。…流石に死体とかじゃ無いけど相当アレですがすいませんって言われたけど、どれだけヤバい物が来るんだろ」

とかちょっと怖々しながら家事をしているとチャイムが鳴った。

(ピーンポーン)

「あー、また闇Am〇zonさんからアレ企画用の荷物だね。はーい、今出まーす」
「あ、僕出ようか?今回はアレって分かってるから大丈夫だよ」

「うーん、結構アレって聞いたから私が受け取って開封するよ。もふおにあまりにえげつない物見せたくないし」
「そっか、それなら良いけどさ」


そうしてお兄さんがまたアレ気味な配達員さんから荷物を受け取り、動画撮影や配信を行う部屋にやや大き目な段ボール箱を置きベリベリと開封した。

「…え、ちょ、うわあ」
「んー、お兄さんそんな顔してどうしたの?…って、う、うっわ」

それは覚悟をしていた僕ですら一瞬脳が理解を拒むくらいにえげつない、この上なくアレな代物だった。

(…い、いやこれマジでえげつないな。っていうかこれかなり悪趣味だと思うんだけど。ちょっと引き受けたの後悔して来た)

「…も、もふおこんな物見せちゃってごめん。いや私もここまでアレとか聞いてないんだけど」
(…え、えーっと今更引き返せないしとりあえず怒って出てかないとだよね。うーんでもドッキリとはいえお兄さんにあんまり酷い事言いたくないしなー、どうしよ。適当にアドリブで罵倒するか)

「…も、もふおー?引くのは分かるけどお願い何か言って」

「…き、企画とはいえこんなアレな物取り寄せるとかサイテー!お兄さんのモケーレムベンベ!ゴライアスハナムグリ!」
「…な、なんか独特な怒り方だね」

「もー、お兄さんきらい!しばらく出て行かせてもらいます!じゃーね!」
「も、もふお待ってー!!」

僕は事前に用意していた着替えや荷物をまとめたリュックを持って、傷が付かないように気を付けつつそれなりに乱暴に玄関ドアを閉め自宅マンションを後にした。


「…い、いやーマジでえげつなかった。もう僕18にはなってるもののアレ間違いなくR22くらいでしょ。ちょっと吐きそう。うー早くここ離れなきゃだけどすぐ電車乗るのキツいかも」

そんな訳で適当にタクシーを見つけ少し離れた駅まで走ってもらい(若干気分悪いのでゆっくりめに運転してもらった)、そこから電車を乗り継いで大型バスターミナルから闇事務所が手配した観光バスに乗り、僕は指定された温泉旅館へ向かった。


一方マンションに取り残されたお兄さんはというと。

「も、もふおだから誤解だよ~。いや本当なんでこんなえげつない物来るの、クレーム入れたいくらいなんだけど。うーんでも闇Am〇zonさんも敵に回したら何されるか分からないしなあ、いやそんな事言ってる場合じゃ無いか」

「…うーん、何か斬新な罵倒をされたけど間違いなく引いて怒ってるだろうし、あんなアレな物見たら今度こそ数日は帰って来ないかも。昔出て行った時と違って今はそれなりにあの子もお金持ってて身分証もあるし、急に行っても泊めてくれそうな知り合いやお友達とかそこそこいるだろうし。…うーん、どこ行ったんだろう」

「うーんうーん、こういう場合だと闇興信所さんよりは闇世界に繋がりのある探偵さんとかの方が良いかもなあ。…じゃあ、あの人とか頼るかあ」


その数時間後、私は都内某所の一階が喫茶店のいかにもな雑居ビル内にあるアレ気味だが基本は良心的な個人経営の探偵事務所を訪ねていた。

「…なるほどな、そういう訳で引いて出て行ってしまったその子の居場所をどうにか突き止めて欲しいって訳かい」

その事務所内のソファで、ソフト帽に黒のスーツでハードボイルドな雰囲気の漂うやはりいかにもな探偵さんに私は相談していた。

「ええ、あの子も今はもう改名が済んでクレカは無いもののキャッシュカードや身分証は持ってますし、家事や動画協力費という事で定期的にお給料も渡していますので彼の年齢にしては結構貯金があると思います。アレ業者のおばあさんや親しい友達等の所にも行っていないみたいでして、全くどこに行ったのか見当も付かないんです」

「…ふむ。当然そういう過去なら親族は頼らねえし除外だな。そうすると何処に行きそうかな。話からすると過去がアレだし派手な金遣いは好まないタイプだろう」
「だがそんな傷心状態であまりに安い宿でも気が滅入るだろうし、自宅からは距離を置きたい気分だろうな。そうなると海外とか国内でもあまりに遠方では無いがそこそこ離れた場所の、超高級って程では無いがそれなりのホテルや旅館とかにでもいるんじゃねえのかな」

「おー、なるほど。そういえばもふお、今度撮影の帰りとかで良いので落ち着いた温泉に入りたいなとか言ってました」

「そうかい。じゃあその子の好みそうな本州内の旅館に探りを入れてみるかな。仕事柄観光協会や宿泊施設にもそれなりに知り合いはいるからな。当然個人情報だし簡単には教えちゃくれねえだろうが、年若い子が家出して危険が伴うのでとか言っとけばどうにかなるだろう。嘘は言ってないしな」
「ありがとうございます、どうかお願いします。もふおしっかりした子だし義肢が強いので一人でもそれなりにやってけるとは思いますが、やっぱりまだ若いですし心配なので」

「ああ、あんた趣味と倫理観はアレだが良い奴だしな。任せときな」


俺はブラックコーヒーを啜りながら依頼者に悟られないよう考える。

(…さて、後で隙を見て闇事務所に連絡しとくか。流石に速攻で見つかったら俺が有能過ぎて怪しいし、適当に数日空けて連れてくかな)


それからさらに数時間後、某県のそこそこ山奥にある落ち着いた結構立派な温泉旅館にて。

「…はい、ええ。2日後くらいにうまい事言って連れて来て下さると。了解しましたー。どうもご協力ありがとうございます。では失礼しまーす」

通話を終了した闇事務所スタッフさんが僕に向き直る。

「ああ、もふおさん。ヤミッチさんがあなたを探すためアレ気味だけど基本は良心的な探偵さんを頼ったそうなのですが、速攻で連れて来たら怪しまれるので2日くらい空けてこちらに誘導して来て下さるそうです。おそらくこんな流れになると思い、ヤミッチさんが頼りそうなそういう探偵さんや機関等にはあらかじめ口裏を合わせて頂くように周知しておきましたので」
「あー、そうなんですか。分かりましたー」

「あ、同じようにあなたを販売していたアレ業者のバイヤーさんや親しい間柄の闇配信者さんとか、そういうアレなお友達等にも心配しないよう周知済みですので。どうかご安心下さい」
「そうだったんですか。僕もよく遊んだり会う子達にはこっそり伝えておいたんですが、だからそんなに驚いて無かったんですね」
「ええ、そういう事です。本気で捜索されたり心配されてしまっては大変ですからね。もふおさんすっかり裏世界では有名人ですし。アレ業者のおばあさんなんか企画伝えた時大笑いしてましたよ」

「あはは、そうなんですか。確かにあのおばあさんそういうの好きそうですもんね」
「ええ、あの人もかなりハードな人生送って来たそうですが豪快で元気な方ですからね。ではヤミッチさんが来るまでどうぞご自由にお過ごし下さい。進んでされているとはいえ毎日家事を一手に担われて大変でしょうし、たまにはゆっくり羽根を伸ばして下さい。義肢が目立つでしょうから、結構立派な露天風呂付きの部屋を取りましたので」

「色々ありがとうございます、お気遣い助かります。でもせっかく立派な旅館だし大浴場も入ってみたいなー。割と深夜まで解放してるみたいだし、人の少ない時間帯に行ってみようかな」
「ええ、どうぞどうぞ。あと探偵さんの依頼料もネタバラし後我々が持ちますのでご心配なく」

「わー、本当太っ腹ですね。…あ、あとなんか流れ的に心配なんですが。実はこの旅館曰く付きで出るとか、ヤバい宿泊客がいて殺人事件が起きるとかそういう事は無いですよね」
「ああ、勿論それは調査済みでそんな曰くは無い普通の旅館ですし、見た所アレそうな客もいませんでしたのでご安心を。あーここから30キロ程行った所にいわゆる因習村的なのがありますが、まあこれだけ離れていれば大丈夫でしょう」
「こ、怖い」

そんな訳で離れてはいるものの田舎基準ではそこそこ近場にある因習村の存在に不安を感じつつ、僕はスタッフさんの厚意に甘えて温泉旅館を堪能する事にした。


とりあえず結構立派な部屋付き露天風呂を楽しみ、その日の夕飯時。

「わー、牡丹鍋美味しいな。僕猪殴り殺した事はあるけど食べた事はほとんど無いし。仕方ないけどあの大猪持って帰れなかったの残念だったなー。流石にまた取りに行く訳にもいかないし」
「ああ、あの回いまだに再生数伸びてて人気ですもんね。いやー義肢とはいえ200キロ級の大猪殴り殺すとかもふおさん凄いですよね」
「あはは、あの時は僕も本当必死でしたので。意外に戦えるって事が分かって良かったですけど」

「ええ、ヤミッチさん闇配信者だし主人公の宿命で仕方ないですが、もふおさんもしょっちゅうトラブル遭遇して結構戦闘しますもんね。ほら例の新婚旅行の時も大変でしたよね。アレは闇世界とはいえ色々まずい物映り過ぎてお蔵入りになっちゃいましたが、絶対視聴数稼げたろうに勿体ないですよねー」
「あー、あの時は本当に死ぬかと思いました。実際ほぼアレな人のみでしたが死者ちょっと出たし。アレは公開したら流石に別の意味で消されそうなんでお兄さんも投稿を控えましたけどね」
「まあ、あの人とか出ちゃったらそりゃ公開出来ませんよねー」
「あの人は正直怖すぎてもう会いたくありませんが、あの時出会った例の子達は今も時々遊んだりしてますね」
「ああ、あの子達も大変だったのに明るく元気にやってて偉いですよね」

とかなんとかアレな思い出話に花を咲かせながら美味しい夕飯に舌鼓を打ち、楽しく日々は過ぎて行った。


そんなこんなで2日後のお昼ごろ。

「あ、このお茶菓子美味しいし売店で売ってたらお土産に買ってこうかな」
「ええ、どうぞどうぞ。それも我々が持ちますので」
「えー、流石にそこまでさせちゃったら申し訳無いですし、そのくらいは自分のお金で買いますよ」
「まあ、これも経費で落ちるでしょうしお気になさらず。もふおさん過去のせいか基本控えめでそんなにお金使わない方ですし」

そうして断りつつもスタッフさんは遠慮なくと入り口付近にある売店までついてきてくれた。

「えーっと、あーあった。8個入りくらいで十分かな。あ、あとこの湯呑み可愛いな。これも買っとくか。あー普段手紙とか出さないけどせっかくだし絵はがきも記念に買おうかな」
「ええ、どうぞご自由に。全額我々が持ちますので大丈夫ですよ」
「いやいや、本当にここまで出させちゃ申し訳無いですしお気遣いなく」

そう言っていると、近くをお腹の少し膨らんだ若い女性と同じくらいの年齢に見える男性が通りかかった。

「大丈夫かい?安定期とはいえ気を付けてね」
「ええ、ありがとう。…あ、君ごめんなさい。少しぶつかってしまって」
「あ、全然平気ですのでお気になさらず。失礼ですが妊婦さんですか?」

「ええ、少し前に分かったんだけど。安定して来たから彼が結婚記念にと温泉に連れて来てくれたの」
「ああ。…彼女は結構良い家柄の娘さんなんだけど、残念ながら僕はそれほど良い身分ではなくてね。当然厳格なご両親からは反対され別れさせられそうになったんだけど、子供が出来たと判明したら一生責任取るならとどうにか結婚を許してもらえたんだ。本当は海外とかもっと良い所に連れて行ってあげたかったんだけど、済まないね」

「良いのよ。気持ちだけでも嬉しいし、ここも十分素敵だから。大変でしょうけど私達、この子と一緒に幸せになるわ」
「そうだったんですか。でもご両親にも許してもらえたなら良かったです。どうぞお幸せに」

「ありがとう。じゃあお部屋に戻りましょうか」
「ああ、そうだね」

そうして温和そうな夫妻は去って行った。

「…あー、仕方ないとはいえもふおさん、過去を思い出して辛く無いですか?」
「ええ、このくらいなら大丈夫ですよ。あの男性誠実そうな人でしたし、良い身分では無いとはいえこういうちゃんとした温泉に来れるって事はすごく貧乏って訳じゃ無いでしょうし。僕ももう昔の事なんで平気です」
「そうですか、それなら良かったです。ではお会計行きましょうか」


一方その頃、もふおのいる旅館がある県にお兄さんと探偵さんはタクシーで向かっていた。

「いやー、2日弱で突き止めて下さるなんて探偵さん流石ですね。頼りになります」
「ああ、知り合いの観光バス会社の従業員がそれらしい子が数日前に乗って、ある旅館前で降りたと教えてくれてな。当然家出人捜しのためとはいえ大事な個人情報漏らしたのがバレたら首にされかねないんで、くれぐれも内密に頼むとの事だ」
「ええ、守秘義務ありますもんね。絶対誰にも言わないので安心して下さい」

(…まあ、全部筋書き通りだからそれも嘘っぱちなんだが。この兄さんもエンターテインメントの為ならかなり体張るタイプだし、趣旨が分かりゃあ笑って許してくれるだろ)

その時ラジオでニュースを聞いた普通のタクシー運転手が私達に語り掛けた。

「へえ、今日の午前中都内で数名の武装した男達が銀行強盗やらかして、駆け付けた警官や警備員銃撃して現在も車で逃走中ですと。アレ気味な世界とはいえ怖いですねえ」
「うわー、私も詳細は言えませんが仕事柄それなりに物騒な生き方してますが怖いですね。撃たれた人達大丈夫かなあ」
「ああ、俺もさっきスマホで調べたが被害者は重傷だが幸い全員命に別状は無いようだ。元々相当悪どい事をやらかして最近出て来たヤクザ崩れみたいな奴等で、海外逃亡の資金にしようと手近な銀行を狙ったみたいだな」
「わー、早く捕まって欲しいですね。なんか流れ的に嫌な予感がするし」
「まあ、そんな偶然行先で強盗と出くわすなんざそうそう無いだろう。すみませんが運転手さん、法定速度オーバーしない程度に急いでもらえますかね」
「はいよ、了解しましたー」


そんなこんなでそれから更に数時間後、再び旅館にて。

「ああ、探偵さんから連絡がありましたがもうすぐこの旅館にヤミッチさんが着くようです。ドッキリなので最初はちょっと怒り気味に対応お願いします」
「はーい、分かりましたー」
「で、事前に旅館にも許可を取って大広間を一時的に貸し切らせて頂きましたので、そこでヤミッチさんを待ちましょう。もふおさんが怒り気味でヤミッチさんが焦った所に我々が突入してドッキリ大成功~、って感じで行きましょう」
「了解でーす。あ、じゃあトイレ済ませてすぐ大広間行きますね」

そして小用を済ませ、間もなく僕はスタッフさん数名が待つ大広間へ向かった。

「あー、お兄さんには悪いけどドッキリとか初めてだからわくわくするなー。お兄さんの反応が楽しみ」
「あはは、そうでしょうね。まああの人も闇とはいえエンタメはしっかり理解してる方ですから、すぐ察して面白いリアクション取って下さいますよ。では我々はカメラ用意して、襖の向こうで待機してますねー」
「はーい、よろしくお願いしまーす」

と和やかにお兄さんを待ち構えようとしていた所、突如ドカドカと目出し帽とかサングラスとマスクなどをして銃火器やナイフを持った男達が数名押し入って来た。

「え、これも仕込みの人達ですか?」
「…い、いえ私もこれは聞いてませんし、こんなの台本にはありませんが。…これ、たぶんガチの人達ですね」
「え、えええええ」

明らかに物騒な雰囲気の男達は僕達に銃火器を突き付け凄んだ。

「我々は本日午前中に都内の銀行を襲撃した強盗グループだ。逃走用のヘリ要求のためお前達には人質になってもらう。逃げようとしたら即刻ハチの巣にするぞ」
「う、うっわー。確かにさっきニュースでやってたけどよりによってここに来なくても」
「うーん、もふおさん持ってますねー。まあ主人公補正ってやつですかね」
「…い、いやこういう主人公補正は嫌すぎるしそんな事言ってる場合じゃ無いでしょスタッフさん」

とかアレな闇配信者を常日頃相手にしてる故かこんな状況でも妙に暢気なスタッフさん達と僕は、強盗達に両手を後ろ手に縛られて大広間に並んで座らされた。


「リーダー、乗り込んだ際に従業員と宿泊客に結構逃げられちまいましたね」
「まあ結構立派な旅館だし数十人程度いただろうしな。こちらは5人だし仕方ない、これだけ人質がいれば十分だろう」

強盗犯達の会話を聞いて、僕は隣で拘束されているスタッフさんにこっそり話しかけた。

(あいつら全部で5人みたいですね。焦ってたのか僕の義肢には気付いてないっぽいし、隙を見てこのロープ引きちぎってスタッフさん達の拘束も解きますね)
(ありがとうございます、もふおさん高性能の義肢で助かりました。我々もあなたや本職の方には劣りますが仕事柄ある程度荒事慣れはしています。法に触れない程度ですがスタンガンとかの護身具も持ってますので、隙を突いてどうにか反撃しますか)
(ええ、そうしましょう。流石に5人一度はきついですが、数名ずつ不意打ちすればスタッフさん達もいれば倒せると思います)

「リーダー、逃げ遅れた宿泊客を一人捕まえました」

その時大広間に強盗犯が一人、僕達と同じように後ろ手を縛られた女性を連れてやって来た。

「…あ、あの人」

その人は先ほど売店で会った妊婦さんだった。

「…や、やめて下さい。お腹に赤ちゃんがいるんです。乱暴な事はしないで下さい」
「ふん、妊婦なら同情も引きやすくて都合が良い。こいつらと一緒に座らせておけ。身重なら素早くは動けないだろうが逃げられないよう目を離すな」
「はい、リーダー」

妊婦さんは僕の傍に銃を突き付けられながら座らされた。

「…大丈夫ですか。大変な事に巻き込まれてしまいましたね」
「…ああ、君も捕まってしまったのね。…夫が手を引いてくれていたんだけど、逃げる時すごい人混みではぐれてしまって私だけ捕まってしまったの。…あの人、無事に脱出出来ていると良いけれど」
「…ええ、きっと大丈夫ですよ。逃げた人も結構いるでしょうし、すぐ警察や救助が来てくれるはずです。安心して下さい」

(…くそ。僕やスタッフさん達だけならどうにかなるかもだけど、妊婦さんも見張られてるとうかつな事出来ないな。どうしよう)

(…お兄さん、もうすぐ来るはずだけど。大丈夫かな)


それから少し後、お兄さんと探偵さんは旅館前に到着した。

「…え、なんか人だかり凄いんだけど。団体さんが丁度着いたって訳でも無さそうだし、なんか物々しい雰囲気だけどどうしたんだろ。え、パトカーも停まってる。何事?」
「…おいおい、これは筋書きにねえぞ。こりゃガチの事件か」
「え、筋書きとかガチってどういう事ですか?」
「あー、まあ後で落ち着いたら説明するわ。運転手さんありがとうございました、こんな時にすいませんが領収書お願いします。宛名は無しでいいです」
「…ほ、ほんとにこんな時ですね。まあ分かりました。はいどうぞ、どうかお二人ともお気を付けて」
「おし、じゃあとりあえず様子見に行くかね」
「え、ええ。もふおが心配だしそうしましょう」

そして私達は旅館の周りを物々しそうに包囲している警官に話かけた。

「あのーすみません。家族がここに宿泊してるんですが、一体何があったんですか?」
「ええ、実は数十分前にここに逃走中の強盗グループが立て籠もりまして。人質が数名いて現在説得と交渉中なんです」
「うわー、嫌な予感が的中しちゃった。…あの、人質の中にひょっとして十代後半くらいの、髪がふわふわした可愛い男の子っていたりします?」
「…ああ、ご家族の方ですか。先ほど強盗犯が人質の映像を公開したのですが、それらしき少年が拘束されていますね」
「う、うっわー。どうしよう。うーんもふお義肢が強いとはいえ、銃器持った複数人相手だと流石に厳しいだろうなあ」

「やれやれ、兄さんとその子もツイてねえな。俺も仕事柄それなりに修羅場慣れはしてるし拳銃程度なら持ってるが、真っ向から突撃して全員相手は流石に無理だろうな。…警官さん、強盗達は全員で何人くらいか分かりますか」
「はい、銀行を襲って逃走中の者は5名のようですね」
「なるほど。たぶんその子以外にも、中にそれなりに荒事慣れしてるであろう兄さんの闇事務所スタッフが一緒に拘束されてるだろうからどうにか反撃して頭数減らしてくれるといいんだがな。さてどうするかな」
「え、何で私の闇事務所スタッフさん達もいるんです?それに探偵さんがどうしてそんな事知ってるんですか」
「あーまあ、無事終わったら全部説明すっから。…警官さん、俺は東京で私立探偵をやってるこういう者です。ここの県警にも知り合いが数名居るんで俺の名前を言えば分かるはずです。俺も協力させてもらえませんかね」

探偵さんは名刺を警官に差し出した。

「…そうですか。問い合わせてみるのでお待ちください」

数分後県警に連絡を取ったらしい警官が戻って来た。

「お待たせしました、確かに〇〇警部が合同で捜査した事があると確認が取れました。ご協力感謝します」
「ええ、それで相手はたぶん逃走用ヘリでも要求してるでしょうが、ぶちこまれる前から相当殺してる凶悪犯どもだし要求を呑んでも大人しく人質を解放してくれるとは限らないでしょうね」
「…我々もそう考えています。人質の中に子供の他にも年若い妊婦がいるようでして、送って来た映像ではその人に容赦なく銃器を突き付けていました」
「うわー、誰でも駄目だけど妊婦さんにそんな事するとか最低ですね」
「全く、弱者をダシに使うとか男の風上にも置けねえな」

「…お、お願いします。どうか妻と子供を早く助けて下さい。一緒に逃げていたのですが、人混みではぐれてしまって」

人質の旦那さんと思しき若い男性が近くの警官に悲痛な訴えをしていた。

「…あの人も気の毒ですね。私も戦闘能力はほぼありませんが出来る限り手伝います。催涙スプレーくらいなら持ってるので」
「ああ、あんたも戦闘力はアレだが悪運と回避スキルはなかなかだしな。まあ警官無視して単独突入する訳にもいかんが、突入時は期待してるよ」

それから少し後、警官さんが私達に話しかけてきた。

「ヘリの手配が出来ました。あと5分ほどでここの駐車場に到着するようです。犯人を刺激してはまずいので要求は呑みましたが、旅館を出て来た所を確保する予定です」
「ええ、分かりました。確保時は俺も手伝いますよ」
「私も、出来る限り足を引っ張らないよう援護します」

「…もふお、どうか無事でいて」


ちょうど同じ頃、大広間では。

「リーダー、警察から連絡がありました。ヘリがもう間もなく来るそうです」
「分かった。では副リーダーのこいつは大広間で人質を見張っててもらうが、残りはヘリの様子を見に行け。俺もすぐに行く」
「分かりました。よし、お前ら行くぞ」
「おう、これで悠々と海外生活出来るな。ははは」

そうして強盗犯は二人を残し大広間を出て行った。

「…さて、悪いがあいつらは囮になってもらうとして。ちょうど裏口にこっそり昔のツテを頼って手配してもらった車も着いたそうだから、俺達はそっちに乗り込んでとっとと別ルートから逃げるか」
「ああ、そうだな。俺とあんた以外はムショ内で知り合った程度の関係だしな。俺達全員かなり過去やらかしてるから警察も相当警戒してるだろうしな」
「だな。一応俺も行かないと他の仲間に怪しまれるので行っとくが、たぶん玄関出たらすぐ確保されるだろうから目くらましに発煙弾投げてすぐ戻る。警官隊が混乱してる隙に裏から逃げるぞ。見つかった時の為に人質も何人か連れて行こう」
「了解だ。流石用心深いな」
「じゃあ行ってくる。すぐ逃げられるよう準備しとけ」

そう言ってリーダー格の男も出て行った。

(うっわー、容赦なく仲間も切り捨てるとか本当最低ですねこいつ。でも見張り一人になったからこれなら行けそうですね。すぐロープ引きちぎってあなたの拘束も解きますね)
(はい、どうもありがとうございます。自由になったら私もすぐスタンガン構えときますんで)

僕は見張りの目が向いてない隙に義肢に力を込めロープを引きちぎり、気付かれないよう注意しつつ隣のスタッフさんの拘束も急いで解いた。

「…うう、お腹が、痛い」

その時、銃を突き付けられている妊婦さんが苦しそうに呟いた。

「…え、そう言えば強いストレスがかかると流産する事もあるって聞いた事がある。…おいお前、流産でもしたらどう責任取るんだ。人質なら僕達だけで十分だろ、この人を解放しろ」
「駄目だ、安全地帯に逃げ切るまでこの女も連れて行く。妊婦が居れば検問も甘くなるだろうからな」
「…お前、本当に最低だな」

「何とでも言いな。ふあー、流石に昨日の深夜からずっと起き続けだときついな。運転手いるし車乗り込んだら寝るか」

強盗犯が銃を下げて眠そうに大あくびしたのを見て、僕は隣のスタッフさんに耳打ちした。

(…あいつ、だいぶ気が緩んでますね。僕がぶん殴ってなんとか銃取り上げますんで、そうしたら押し倒して拘束してもらえますか)
(ええ、分かりました。いつでもどうぞ)

そうして眠そうにしてる男に僕は殴りかかり、怯んだ隙に腕に思い切り手刀を叩き込み銃を取り落とさせた。

「一人ならこっちのもんだ、覚悟しろオラァ!」
「な、お前どうやって拘束を、ぎゃあああ」

拘束の解けたスタッフさんが腕を苦しそうに押さえる男にスタンガンを当て、そのまま組み伏せ解いたロープを使って手足を縛り上げた。

「よし、これで大丈夫でしょう。他の方もすぐに拘束を解きますので、皆さん急いで逃げましょう。妊婦さん、大丈夫そうですか」
「…は、はい。何とか行けると思います。ありがとうございます」

僕はすぐに残りのスタッフさんや妊婦さんのロープも解き、妊婦さんを気遣いながら急ぎ逃げる事にした。

「えーっと、玄関は残りの奴らがいるでしょうし、裏口も仲間がいるんですよね。出くわしたら危ないしどこから逃げましょうか」
「そうですねー。近くの中庭とかから塀を乗り越えて逃げますかね。妊婦さんにあまり無理はさせたくありませんが、我々が手伝えばどうにか行けるでしょう。外に出ればすぐ保護してもらえるでしょうし」
「ええ、そうしましょう。じゃあ皆さん行きましょう」


一方その頃、正面玄関付近で事態を見守るお兄さん達は。

「ヘリが来たな、強盗犯達もすぐ人質を連れて来るだろう。警官隊に続いて俺も銃撃してどうにか武装解除させる。兄さんはずっと俺の後ろで構えといてくれ」
「…はい、どうかよろしくお願いします」

だが間もなく出て来た強盗犯達は少し様子がおかしかった。

「…妙だな。数が少し少ないし人質が全くいないぞ。普通連れて来るもんだと思うが。まあ人質がいないなら攻撃しやすいがな、じゃあ警官が攻撃したらすぐに行くぞ。気を付けてな」
「は、はい。探偵さんもお気を付けて」

「総員、確保せよ!」

そうして武装した警官隊が強盗犯に発砲し激しい銃撃戦が始まったが、数の差と探偵さんの正確な援護射撃もありこちら側に被害も無くすぐに制圧された。

「くそっ、こんな所で捕まってたまっか」
「リーダー、どうします。…ってあれ、リーダー?」
「え、すぐ来るって言ってたのに。え?」

その時、突然強盗犯達の背後から強烈な煙幕が立ち込めた。

「うわ、何これ」
「…くそ、ひょっとしてこいつら囮で別の場所から逃げる気か。ガスマスクでもあれば良かったが仕方ねえ、息止めて突っ込むか。兄さんは危ないからここで待ってな」
「わ、私も行きます。もふおが連れて行かれるかもしれないのに放っておけません。肺活量にはそこそこ自信あるので」
「そうかい。その愛は立派だがくれぐれも気を付けてな。じゃあ行くぞ」


私達は口元をハンカチとかで塞ぎなるべく煙を吸い込まないよう気を付けつつ、正面玄関から突入した。

「…うー、薄目でもきついなこれ。目が痛い~」
「催涙弾とかじゃ無いようでまだ良かったがな。確か人質が拘束されてるのは大広間だったか。急いでそこに行こう」
「はい、案内板あって良かったです」

そして旅館内に点在する案内表示を頼りに私達が大広間に向かうと、慌てた様子の声が聞こえて来た。

「お、おいお前どうしたんだ。くそっ、人質の奴らどうにかして逃げやがったのか」

「あー、もふお達逃げれたんだ。良かったー」
「あの様子からすると残りは一人ってとこか、なら俺だけでも何とかなるだろう。兄さんは危険だから物陰に隠れてな」
「はい、お願いします探偵さん」

そうして探偵さんが素早く大広間に銃を構え乗り込み、倒れて拘束された仲間に気を取られている強盗犯の腕を撃ち抜いた。

「ぐっ、てめえ何だ、警官じゃねえな」
「この兄さんの依頼でな、人質を返してもらうぜ。他の奴等ももう確保された。さっさと投降しな」

「くそ、上手い事行ってたのにこんな所で終わってたまるか。あいつら中庭から逃げたって言ってたな。捕まえてやる」

男はそう言って懐から何かを取り出し床に叩きつけた。

その瞬間激しい閃光が走り、探偵さんは目を覆い怯んだ。

「うわ、ちくしょう閃光手榴弾か」

光が収まった頃には、男はもういなかった。

「…あーくそクラクラする、サングラスしてくりゃ良かったぜ。まさかあんな物も持ってやがるとはな。…って兄さん一人で行くな、手負いとはいえ危ねえぞ」

「も、もふおー!!」

私は探偵さんの制止も聞こえず無我夢中で中庭に走っていた。


僕達は大広間そばの中庭に出て、比較的塀の低い所を見つけそこから脱出を試みていた。

初めにスタッフさん達数人に塀を乗り越え向こう側に降りてもらい、残りのスタッフさんと僕で妊婦さんを押し上げ補助しつつ脱出してもらった。

周囲にいた警官隊がすぐに気付いてくれ、妊婦さんを受け止めてくれた。

「よし、妊婦さんも無事保護されて良かった。じゃあスタッフさんも早く逃げて下さい。僕は義肢強いし最後で良いので」
「分かりました、お言葉に甘えさせていただきます。玄関に向かった奴等も全員捕まったようで良かったですね」

そして最後のスタッフさんも無事向こう側に飛び降りた時、残ったリーダー格の強盗が腕を押さえながらやって来た。

「ちくしょう、他の奴等もう逃げやがったか。まあガキ一人で十分だろう。てめえ、両膝撃ち抜いて動けなくして連れてってやる。反撃するとかナメた真似しやがって」

男が拳銃を僕の足に向けた。

「も、もふおに酷い事するなー!!!」

「え、お、お兄さん!?」

もの凄い勢いで走ってきたお兄さんが、男に飛びかかりもつれ合いになった。


そして、銃声が響き渡った。

「…え」

「…ぐ、ぐふっ」

お兄さんの脇腹が撃ち抜かれ、みるみるうちに地面に血だまりが出来た。

「…え、そ、そんな」
「ち、畜生てめえ舐めた真似しやがって。オラ行くぞガキ」

「…お前、絶対許さない。地獄に落ちろゴラァ!!!」

僕は全力で義手の拳を握り、ブチ切れながら男の頭部をぶん殴った。

「ウボァァァァ」

何かかなり嫌な感触がしたがそんな事は気にせず、僕はお兄さんに駆け寄った。

「…お、お兄さん。しっかりして」
「…うう、もふお。無事で、良かった」

「…うん、僕は全然平気だけど。お兄さんどうしてあんな無茶したの。僕義肢だし膝撃たれても平気なのに」
「…それでも、もふおが少しでも傷付く所なんて、見たく、ないから」

「…うん、それは嬉しいけど。でも僕もアレ企画について行って危険な目にしょっちゅう遭ってるじゃない。まあ運良く大概無傷で済んでるけどさ」
「…あはは、そうだね…でも、気付いたら体が勝手に動いてたんだ…もふおとケンカしたまま終わるなんて、絶対嫌だったから。…アレは配送事故だろうけど、でも、嫌な気持ちにさせちゃって、ごめん、ね…」
「…いや、アレは確かに僕もかなり引いたけど。でもそんな事でお兄さんの事嫌いになったりなんかしないよ。あの時言った事は全部嘘だから。…お兄さんの事、何があっても大好きだから。…だからお願い、もう喋らないで」

「…ああ、そうだったんだ。…うん、怒って無くて、良かった。…もふお、天国に行ってもずっと愛してるから。…私の事完全に忘れられたら悲しいけど、もふおはまだ若いし。…他に素敵な人見つけて良いから、幸せに、なって、ね…」

「い、嫌。そんな事言わないで。お兄さん以上に素敵な人なんてこの世にいないよ。お願いお兄さん、死なないで、目を開けて。…神様お願い、お兄さんを連れて行かないで」


「ああ、俺が治療しよう」

その時突然、一人だけ劇画調でマントを羽織りガタイの良い男性が謎の擬音と共に現れた。

「え、ど、どちら様ですか」
「俺はここから30キロ程行った所にある因習村で診療所をやっている闇医者だ。仕事の帰りにここを通りかかったので様子を見に来たが丁度良かったな。すぐオペに取りかかろう」
「あ、は、はい。お願いします」

そして1時間くらい後。

「もう問題無い。幸い弾は貫通していたし内臓もさほど損傷していなかったからな。傷跡も全く無いので心配いらない。食事や入浴も通常通り行って構わない」

「いやー、闇医者さん本当にありがとうございました。あなたは命の恩人です」
「本当ありがとうございましたー。1時間で完治とか神業ですね。危なくない因習村で良かったー」

「それから君が殴った男は相当危険な状態だったが、アレな奴とはいえ一応死んだらまずいだろうから救命はしておいた。一生後遺症は残りかねないがこういう奴だし構わないだろう」
「あー、ありがとうございます。嫌な感触したし正直殺っちゃったかと思った」

「本当に助かりました。どうかお礼させて下さい」
「いや、愛する者の為にその身を投げ出すなど大人でもなかなか出来る事ではない。良い物を見せてもらったよ。それで十分だ」
「うわー、人格も立派とか素晴らしいですね。本当ありがとうございましたー」


そうして一人だけなんか世界観が違う凄腕闇医者さんは去って行った。

「いやー、ヤミッチさん大変でしたね。ご無事で何よりでした」
「ええ、闇医者さんのおかげです。しかしドッキリだったなんて参ったな~。あはは」
「もー、僕も嫌な予感はして警戒してたけどまさか強盗乱入するとは思わなかったよ。死ななくて良かったー」

「いやー本当我々もこれは想定外でした。なんかすっかりドッキリどころじゃ無くなったし。まあ絶対話題になるし結果オーライですね。あ、妊婦さんももうすっかり体調回復したそうですのでご安心下さい。助けてくれたもふおさんにとても感謝してましたよ」
「あ、それは良かったです。ご夫妻ともに優しそうな方でしたからね。幸せになって欲しいですね」
「ええ、この世界かなりアレで変態的とはいえ良い人は大概幸せになれるし大丈夫でしょう」

「やれやれ、全く兄さん連れてくだけの楽な仕事のはずがとんだ修羅場になっちまったな。スタッフさん交通費と依頼費お願いしますよ」
「ええ、お任せ下さい。探偵さんも良い仕事して下さいましたし色を付けておきますので」
「いやー、まさか探偵さんもグルとは驚きました。ドッキリとはいえ闇事務所も酷いことするな~」
「ははは、まあヤミッチさんも良識あるとはいえ相当アレな企画やってるし良いじゃないですか。ある意味もふおさんとの出会いもドッキリみたいな物ですし」
「うーん、まあそう言われればそうですけどアレ全部ドッキリで済ませられたら僕かなり複雑ー」

「あはは、大丈夫だよ。もふおの事愛してるのは全部本当だから。…あー、また修羅場をくぐり抜けてもふおへの愛を再確認したらめっちゃムラムラして来た。もふおー、折角立派な旅館だし早速しようよ」
「えー、僕も確かに結構興奮してるけどお兄さん撃たれて死にかけた直後じゃん。自重しなよ」

「いやー天才闇医者さんのおかげでもう超元気だし大丈夫だよ。お風呂やご飯もOKって言われてるしさ。死の淵から蘇ったせいかいつも以上に性欲湧いてなんか私わくわくして来たぞー」
「もーお兄さん、そんな変態サ〇ヤ人みたいな事言わないでよ。まあ元気ならいいよ」
「ええ、明日まで宿取ってありますのでごゆっくりどうぞどうぞ。ただ10時チェックアウトなので盛り上がり過ぎて寝坊しないで下さいねー」
「はーい、了解でーす」


「はい、という訳でまさかのリアル強盗乱入で我々がドッキリさせられてしまいましたが全員無事だし盛り上がったので結果オーライですね。では闇の世界に夢とドキドキをお届けする闇事務所W∩∩∩がお送りしましたー。闇視聴者の皆様方、ご視聴ありがとうございました~!」
「ありがとうございました~。じゃーもふお部屋行こー」
「ありがとうございました~。うん、行こ行こー」
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