だるまっ子入手して恋人になるまでRTA

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番外編 闇心理学者が暗殺者をやっていた頃の事

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私の家庭はお世辞にも良質とは言えない物だった。

経済的にはそれなりに裕福で外面は良かったものの、家庭内では物心付いて間もない頃から少しでも気に食わない事があれば酷く罵られ、躾の範囲内で済まされる程度だが手を上げられたり罰と称し食事を減らされる事もあった。

そんな訳で実家では心の休まる暇も無かったが、運悪く通っていた学校もかなり風紀が悪く中学時代は暴言を吐かれたり物を隠されたり、酷い時は無理矢理呼び出され暴力を振るわれる事もあったが体面ばかり気にする両親は不登校や転校も許さなかった。

暴力を振るわれた時は反撃しようかとも思ったが私はそれ程身体能力には長けておらず、そんな事をすればまた両親からどんな罵倒をされるかと思うとそれも出来なかった。


テストの時以外は保健室登校をしたりどうしても辛い時はこっそり公園等で時間を潰したりしどうにか凌いでいたある日、私程では無いがそれなりにいじめを受けていたクラスメイトの男子と偶然避難先の公園で出会い親しくなった。

負け犬同士ではあるものの気軽に話せる仲間が出来たのは嬉しく、それを励みに頑張って教室に行く日も多くなった。

それから少し経った頃、私の誕生祝いを渡したいからとその子から人気の無い夕方に校舎の裏庭に呼び出された。

どうしてそんな時間と場所で、とも思ったが心から誕生日を祝ってもらうのなど初めてだったので喜んでその場に行くと、突如泥水を被せられ上階からゴミも多数ぶち撒けられた。

ドッキリ大成功~、お前みたいなカス祝う奴なんている訳ねえだろバーカ等罵声を四方から浴びせられた。

私を嘲笑するいじめっ子達に、誘導お疲れ、お前なかなかやるじゃんと肩を小突かれ気まずそうに私から目を逸らすその子がいた。


それから全てがどうでも良くなり、その日の晩私は自室で睡眠薬を大量に飲み手首も切ったが成功はしなかった。

体裁ばかり気にする両親は当然私の心配などせず、搬送先の病院で目を覚ました途端人騒がせな事はやめろ、近所で噂になったらどうしてくれる等また罵声を浴びせられた。

その後も家の外で何度か自死を試みたが、結局成功はせず次第に面倒になりやめた。


そして相変わらず保健室登校だが勉強は幸い出来る方だったので、親の指示した高校に進学したがもう将来などどうでも良かったので登校するふりだけしてまともに通う事は無かった。

渡されていた食費や交通費で毎日旧型自販機で酒を買っては人気の無い場所で飲んで現実逃避したり、昼間からやっていて身分証を求められないチェックの甘い酒場で飲んだりしていた。

だがそんな年齢確認をまともにしないアレな店なだけに経営者もまともで無かったようで、ある時そういう場末のバーで法外な値段を請求された。

当然高校生に払える訳もなくバイトもしていなかったので支払いを拒否したが、なら臓物売りさばいて元取ってやるよと奥から出て来た明らかにガラの悪い男たち数名に囲まれた。

どうでも良かったとはいえそんな最期は嫌だったので必死で抵抗し、数名は火事場の馬鹿力でどうにか倒したもののやはり相手が悪く私は殴り倒され拘束された。


だが全てを諦め失う物の無い私の雰囲気に男たちは利用価値を見出したのか、そのバーを経営していた要するに反社会組織の本部に私は連れて行かれた。

それから流されるままに私はその組織で鉄砲玉として生きる事になった。

身体能力には長けておらず銃や刃物の扱いもそこまで優れてはいなかったので、それならと組織が呼んだ怪しげな術師に催眠術や洗脳の方法を教え込まされた。

私には素養があったようですぐに催眠や心理誘導の技術を会得し、その力を活かし敵対組織の有力者を暗殺したりアレな洗脳を活用し組に不利益になる情報を改竄したりし、数年でそれなりに名の知れた暗殺者となった。

当然褒められた事ではない自覚はあったものの、生まれて初めて存在を認められ、自分の力で居場所を得られたのは嬉しかった。

催眠を会得して少しした後、失踪後に関係者全員死亡したら怪しまれるのでそれは控えたが両親や私を酷くいじめた学生達にはえげつない催眠をかけ、全員一生もののトラウマを植え付けてやった。

私を裏庭に連れ出したあの子もそうしようかと悩んだが、おそらくあれは本意では無かったのだろうと思いその子だけは見逃した。


どうせ自死も考えたくらいで将来などどうでも良かったのだし、このまま暴力団として一生を終えるのも悪くはないか。

そう思いながら気付けば5年程が過ぎていた。

その日私と部下のチンピラ数名は長年敵対していた組織の本部に殴り込みをかけに来ていた。

「いやあ兄貴、ここまでは案外楽に来れましたねえ。まあ、俺達にかかりゃ当然ですがね」
「ああ、この組の奴等ビビってんのか警備も思った以上に手薄だしな」
「まあどんな巨漢や凄腕が来ようと、俺達地獄の切り込み隊長に敵う奴なんていねえでしょう」

部下の如何にも頭の悪そうなチンピラ共が余裕綽綽に語り掛ける。

「そうですね。ですが油断はしないように」

こんな掛け算の九九も出来なさそうな低能な奴等に兄貴と呼ばれるのも不本意だったが、他に呼ばれたい呼称も思いつかないし否定せず適当に流した。

聞いてもいないのに何度も名前や殺した人数を自慢げに語っていたが記憶領域をそんな事に費やすのも無駄なので、脳内ではこいつらの事を適当にチンピラAとかBと呼んでいた。

「さーて、そろそろ組長の私室だよな。おそらくラスボス級の強い用心棒が控えてるだろうが、まあどんな化け物が来ようと余裕でさぁ」
「ああ、先月栃木最強と言われた組も壊滅させたしなあ」
「さっさと組長のジジイの首持ち帰って、キャバ嬢侍らせて打ち上げしようや」

油断するなと言った傍から舐め切った発言をする部下達に突っ込みの一つも入れようかと思ったが、これから戦闘が控えているのに無駄な労力を費やしたくないので流す事にした。


そうして事前に入手した屋敷の見取り図を確認しながら、最奥の組長の私室に辿り着いた。

「…あ、ババア?」
「見張りがこいつ一人とか、何かの罠か」
「何だこの婆さん家政婦か。まさか組長の女って事もねえだろうが」

組長の部屋の襖の前に居たのは、なぜか長い竹槍を持ち割烹着を着て、銀色がかった白髪で丸眼鏡をした小柄な老婆だった。

その老人を見た瞬間、ふと脳裏にもう10年近くも忘れていた記憶が蘇った。

私が物心付いてから間もなくに病で亡くなってしまったが、悪辣な家族の中でたった一人私に味方してくれた優しい祖母が居た事を。

酷く罵倒されたり躾と称し折檻をされる度私をかばい、そんな怒鳴らないで、子供は長い目で見てのびのび育ててあげなさいと彼女は両親を窘めてくれた。

私が病弱でなければ何とか連れ出して一人で育ててあげたいのに、そうできなくてごめんなさい。

事あるごとに彼女はそう申し訳なさそうに私を撫でながら言ってくれた。


彼女が今も元気でいたならば、私にも別の人生があったのだろうか。

そんな不毛な事を考えていたが、眼前の老婆の声で現実に引き戻された。

「そのどちらでも無いよ。まあある意味掃除当番ではあるがねえ。悪いが容赦はしないよ」

老婆は持っていた竹槍を目にも止まらぬ速さで部下のチンピラAに突き立てた。

「あ、がっ???」

チンピラAの口中に深々と竹槍が刺さり貫通していた。

「ひ、ひっ、何だこのババア。舐めんじゃねえクソが」

慌てふためいたチンピラBが拳銃を抜き老婆を狙ったが、恐ろしい速さで彼女は竹槍を死体から引き抜きチンピラBの手に叩きつけ、すぐにその拳銃を取り落とさせた。

「…ったく、余計な事言ってる暇があったらさっさと撃てってんだよ。まあこの距離なら躱せる自信はあるがね」

そのまま老婆は血に濡れた竹槍をチンピラBの眉間にぶっすりと突き刺し、すぐに引き抜いた。

「…え、あばばばば」

情けない断末魔を上げ、チンピラBもすぐに倒れ動かなくなった。

「ち、畜生こんなクソババアに殺られてたまっか。この前俺栃木最強の筋肉モリモリマッチョマンも殺ったんだぞ」

それはほとんど催眠をかけ身動き取れなくした私の功績だろう、そう突っ込みたかったがそんな暇も無いので流す事にした。

「ああ、あの子ならおしめを替えた事もあるよ。小さい頃からアタシが鍛えてやってたんだがねえ。まあこういう家業だし覚悟はしてたが、あの子の仇討ちをさせてもらうよ」
「え、ちょ、は??」

老婆は稲妻のような勢いで竹槍を突き出し、チンピラCの心臓を深々と刺し貫いた。

「…え、ひ。お、お母ちゃん」

チンピラCはそのまま息絶えた。


「あーあー全く、いい大人でも大概最期はこういう情けない事言って死んでくんだからみっともないねえ。…さて、見た所あんたが本命のようだね。今ので分かったろうがババアだからって遠慮はいらないよ、むしろ手を抜かれちゃ失礼だ」

「…ええ、そうさせて頂きます。その見事なお手前、さぞ名のある仕事人とお見受けしました」
「まあそれなりにね。よっぽどのモグリでもなきゃあ、《竹槍弁天》と言えば分かるだろう」

「…ああ、聞いた事があります。激動の戦後を竹槍一本で生き抜いたという伝説の女傑ですね」
「まあ、財布に余裕が出来てからは大人数の時はショットガンとかも使ったが。基本はこれ一つで勝負してたね。…ふむ、悪いがあんた見た所身体能力は大した事なさそうだが。細身でも見かけによらず力の強い奴もいるが、あんたが筋骨隆々のあの子をどうやって倒したんだい」

「ええ、仰る通り私の身体能力は大した事はありません。その代わりこういう武器があります」

私は懐から鎖の付いた振り子を取り出し揺らした。

「…なるほどね、催眠使いかい。精神力の強さには自信があるアタシを一瞬で術にかけるとは、若いくせにやるじゃないか」
「ええ、この力でお陰様でそれなりの暗殺者として鳴らしています。並みの人間なら自由に口もきけなくなる所ですが、貴女も流石ですね。ちなみに一瞬でも振り子を見たらもう自力で解除は出来ませんよ。盲目の仕事人を相手にした事もありますが、そういう相手にも対策し音声だけで術にかける技能も身に付けています」

「…ちっ、厄介だね。道理で最近あんたの組が急速に勢いを伸ばしてる訳だ。派手にやらかしてる割に鉄砲玉の情報もほとんど上がってこなかったしね」
「ええ、この力を知られ先手を打たれたら面倒ですので目撃した相手は一人残らず始末していました。では、ご老体にあまり乱暴はしたくはありませんが。…申し訳ありませんが、止めを刺させて頂きます」

私は懐から短刀を抜き、切っ先を老婆の首筋に向けた。


「……」

硬直したまま真っ直ぐにこちらを睨みつける老婆の姿に、再び亡き祖母が重なった。

顔や背丈は目の前の老婆と然程似ていないが、どうして今になってこんなに彼女を思い出すのか。

止めを刺すのを一瞬躊躇ったが、任務のため老体とはいえ見逃すわけにはいかない。

迷いを振り切るように目を閉じ首を小さく横に振ったその時、右肩に焼けつくような痛みが襲った。


「…な」

慌てて右肩に目を遣ると、深々と竹槍が突き刺さっていた。

「…ったく、身動き取れなくしたとはいえ相手の目の前で目をつぶるとか舐めるんじゃないよ。最後まで油断は禁物だよ」

そのまま老婆は私の股間を思い切り蹴り上げた。

「…どうやって、催眠を解いたのです」

容赦無い金的を喰らい悶絶しそうになるのをどうにか理性で抑え、短刀を取り落とし蹲ったまま私は問いかけた。

「ハイテク系には頼りたく無いんだがね、得体の知れない相手だから念の為と割烹着の袖口に小型スタンガンを仕込んでおいて良かったよ。全くババアに無理させないどくれ、心臓マヒにでもなったらどうしてくれるんだい」

「…成程、目を閉じている隙にスタンガンを自身に押し付け痛みで強制的に催眠を解除したのですか。…あれ程強固な催眠をかけていたのに僅かとはいえ手元を動かせるとは、感服いたしました」
「伊達に終戦間もなくから仕事人やってないよ、あんたみたいな催眠使いもそれなりに相手して来たしね。実際に闘り合うのは久々だったが。…さて、じゃあ悪いがお仕置きさせてもらうよ」

「…ええ、お互い仕事ですからね。ご遠慮なくどうぞ」


―私の人生もここまでか、まさかこんな老婆に終わらされるとは。

まあ、どうせ死にぞこない流されるままに来た人生だし、つまらない相手に殺されるよりは余程良い。

そうぼんやりと思っていた私を襲ったのは、強烈な平手打ちだった。

「…どういう事です」
「だからお仕置きだって言ったろう。ババアだからと情けをかけられるのは心外だが、アタシを殺すのを一瞬躊躇ったあんたはこのチンピラ共ほどクズでは無いようだしね。今日だけはこれで勘弁しといてやるよ」

そう言って、老婆は私の肩に刺さったままの竹槍を引き抜いた。

「…服の下に防弾ベストやプロテクターを付けていたのに貫通するとは、恐ろしい硬度の竹ですね」
「ああ、遺伝子組み換えの強化アレ竹で作ってる特別製だからね。100人突いても折れないしチタン合金も貫くよ。止血は自分でするんだね、流石にそこまで面倒見きれないからねえ」

「…ええ、そうします。救急キットもあるのでお構いなく。…しかし、私を見逃せば貴女も処罰されるのではありませんか」
「まあ、ここの組長とは長い付き合いだ。あんた一人逃した程度笑って許してくれるだろうよ。かっこ悪いが止めを刺そうとしたらぎっくり腰になったとでも言っとくかねえ。ははは」

「…どうして、見ず知らずの私にそこまで情けをかけるのです」

老婆は目を細め静かに言った。

「…あんたはね、昔のアタシと同じ目をしてるんだよ。誰も頼れる者がいなく、一人ぼっちで生きていた奴の目だ」
「…そうでしたか」

「…アタシは空襲で親兄弟も皆死ぬか生き別れになった。自分一人生きるので精一杯の時代で、金も無い娘を養ってくれる物好きなんていなかった。だがアタシは体を売ったり媚びを売るのも嫌な頑固者だったから、こういう物騒な世界で生きていくしかなかった」

「あんたも若いのに鉄砲玉なんてやってるって事は色々あったんだろうよ。だが今は時代も違うし、そんな凄い力があるんならもっと真っ当な生き方も出来るだろう。こんな物騒な世界からはとっとと足を洗って、これからは殺しなんかやめて真面目に生きな」

何の見返りも無いのにそんな事を言ってくれる人間に、私はその時初めて出会った。

「…貴女も、苦労されたのですね」
「まあそういう時代だし仕方ないさ。今は良い思い出だと思ってるよ。長く生きてるうちにここの組長みたいにヤクザだが正義感のある信頼できる相手や善良な友人にも恵まれたし、仕事人なのは引かれつつも旦那や子供も出来たしね」

「…それは何よりです。…しかし高校もまともに行かず、若くして落ちる所まで落ちた私に今更どんな道や出会いがあるというのでしょう」
「何言ってんだい、あんたまだ20そこそこくらいだろう。生きてりゃきっと良い出会いもあるさ。戦国時代だって人間五十年って言うくらいだし、今は平気で百まで生きれる時代だ。人生まだまだこれからだよ」

「…ふふ、貴女にそう言われると立場がありませんね」
「ああ、アタシも百までまだまだしぶとく生きるつもりだよ。しかしあんたみたいな若造に苦戦させられるとはね、そろそろ引退も真剣に考えないとかねえ。生涯仕事はしていたいが、さてこれから何をするかな。じゃあほら、組長には適当に言っとくからさっさと帰りな」

「…ええ、そうさせて頂きます。どうぞ貴女も、末永くお元気で」


そうして私はアレが痛むので若干内股気味に、負傷した右肩を押さえつつ老婆に背を向けその場を後にした。

ちなみにチンピラA~Cの死体は放置して帰ったが、気付かれていないと高を括っていたようだが商品の違法薬物に勝手に手を付けたり横流しして私腹を肥やしているような奴等で組織内でも近々粛清を考えていたので問題無かった。


それから一人所属する組織の本部に戻り、老婆に返り討ちに遭い命からがら逃げ帰って来た旨を組長に詫び、組織お抱えの闇医者に手当てを受けた。

そして一月程が経ち肩の傷も癒え問題無く生活出来るようになった頃、私は再び組長の部屋を訪れていた。

「…ったく、もう70過ぎだってのにあの婆さんも元気なもんだ。今度はさらに重武装した部下大勢付けて行ってもらうからな、次はヘマするんじゃねえぞ」

「…いえ、恐れ入りますがそれは出来かねます」
「あ?どういう事だ」

「誠に申し訳ございませんが、本日にて自己都合退職させて頂きます」

私はすかさず振り子を取り出し、組長の目の前で揺らした。

その後すぐに本部中の構成員にも同じように強力な催眠をかけ私に関する記憶を抹消し、私に関するデータや資料も全て処分し本部を後にした。

「…さて、これからどうするか。一先ずはきちんと学校に通い直すかな」

「人生まだまだこれから、か。…ふふ、まあそう言われればその通りかもしれないな」

私はその時久々に、将来に希望を持てるようになっていた。


その後私は必死に勉強し高卒認定資格を取得し、予備校なども通い1年ほどかかったがそれなりの大学に合格する事が出来た。

私は催眠の能力を平和的に活用しようと思い、改めて心理学を専門に学ぶ事にした。

暗殺者時代の貯金はそれなりにあったのでそれを切り崩し生活し、派手な遊びは控えたが予備校や大学で出来た善良な友人と時々飲んだり小旅行に行く事はあった。

かつては現実逃避や極道仲間とのつまらない付き合いの手段でしか無かった酒だが、気心の知れた相手と飲む酒は美味く楽しい物だと初めて知った。

流石に暴力団に居た事は伏せたが、気心の知れてきた相手には家庭環境やいじめのせいで一時期かなり身を持ち崩した事を打ち明ける事はあった。
打ち明けられた友人達は皆私の境遇に同情し慰めてくれた。

それから大学も無事卒業し、やはり一度ドロップアウトしていたのと当然暴力団に居た事は履歴書に書けないため就活には苦労したが、在学中お世話になった善良だが実は趣味が相当アレな教授が裏世界でアレなペットにされたり理不尽な目に遭い心に傷を負った子供達のメンタルケアの仕事を紹介してくれた。

暴露された教授の趣味に引きつつもその世界に入った所予想外にやりがいがあり、数年で闇の世界ではあるが高名な心理学者として大成する事が出来た。


忙しくアレながらも充実した日々を過ごし、気付けばあの老婆に諭され暗殺者を引退してから10年以上の歳月が流れていた。

風の便りではあの老婆はその後間もなく仕事人を引退し、やはり闇の世界に関わりが深いものの戦いからは縁遠い職に就いたそうだ。

もう会う事も無いだろうが、あの老婆にかけられた言葉はずっと忘れず大切に胸に秘めていた。

あの老獪さと力強さなら宣言通り百までは生きられそうだが、彼女の幸福と長寿をずっと願っていた。

そんなある日、仕事で知り合った闇世界の関係者に面白い動画があると薦められた。

ある有名闇配信者がだるまの少年を買い取り、決して嫌がる事や悪質な手段は用いず平和的に恋仲になれるまでのタイムアタックをしてみたという倫理的に相当アレかつ悪趣味な企画があると。

表世界でも裏世界でも動画の類は然程興味は無いし、悪趣味過ぎるので視聴を断ったが始まりは相当アレだがとても感動するので是非と強く推され、付き合いと患者達との話題作りの為に仕方なく視聴する事にした。


内容は確かに始まりは相当悪趣味で引いたもののペットで買われた少年と闇配信者との交流に胸を打たれたが、それ以上にある部分が私の目を引いた。

それは闇配信者がだるまの少年を購入するために赴いた、アレな業者の店主だった。

勿論個人や店舗を特定されないよう厳重に顔や音声は加工されていたが、仕事柄洞察力は自信があったのでその言動の癖と、そして何より過去に竹槍使いの仕事人として鳴らしていたという情報から間違いなく彼女だと確信した。

「…ああ、貴女もお元気なようで何よりです」

私は聞こえる訳も無いがPCモニタの向こうの彼女に静かに微笑んだ。




「…お風呂空きましたのでどうぞ、お父さん」
「ああ、ありがとう。ようやくそう呼んでくれるようになって嬉しいよ」

「…はい、もう家族になって1年以上経ちますし、ずっと親切にしてくれてますし」
「ああ、そんなに他人行儀に話さなくて良いよ。もっと気軽に本当の親のように接しておくれ。その方がそそるしね」

「…え、そそるって、何がですか」
「ああ、まあこっちの話だよ。…ふむ、ちょっと大事な話があるし、悪いが一緒に私の寝室まで来てくれるかい。ちょうど君お風呂上りだしね」

「…え、は、はい。…良いですけど」
「ほら、そんなに他人行儀でなくもっとフランクで良いから。さあ、一緒に行こう」

「…はい、いえ、うん。…分かっ、た」


そうして僕は不穏な物を感じながら、養父と寝室へ向かった。

僕が寝室に入るなり、義父は部屋の内鍵をカチャリと閉めた。

「…え、どうして鍵をかけるの」
「あいつには邪魔するなと言ってあるが、あのバカ女の事だから忘れて入ってくるかもしれないしね。そうしたら台無しだしねえ」

「…え、邪魔とか台無しって、何」
「何って、こういう事だよ」

義父は僕を強くダブルベッドに押し倒し、乱暴にパジャマのボタンを外した。

「…え、やだ、何するの。嫌だ、そんな事、しないで」
「あーここまで長かった、流石にいきなり押し倒す訳にもいかねえしよお。1年以上あのバカ女の痛い言動我慢して付き合うのマジで苦労したわクソ」

「…や、やだ、やめて。来ないで」
「ってぇなこの野郎引っかきやがって、血出たじゃねえかクソ。あー萎えた、ヤらせてくれねえならじゃあもうお前いらねえわ。ったくお前高校まで行かせるのにいくらかかったと思ってんだよ。知り合いのクソ医者呼んでアレして売り飛ばして少しでも元取るか」

「…え、そんな、やだ」



「…ん、あーおはよ、お兄さん。…あれ、どうしたの?何かしんどそうだけど」
「…うん、もふお少しうなされてたから。たぶん義父にアレな事されかけた時の夢だと思う」

「えー、そうだったんだ。ほとんど覚えてないけど。嫌な気分にさせちゃってごめんね、お兄さん」
「…いいよ、あれだけ酷い目に遭えばやっぱり簡単には忘れられないよね。…もふおみたいな子達のための闇カウンセラーさんとかいるらしいし、すぐそういう人呼んでカウンセリングしてもらおう」

「えー、そんな悪いしいいよ。本当ほぼ覚えて無いし、あいつもう死んで僕今幸せだし。またお金かかっちゃうし気にしないで」
「…いや、こんな可哀想なもふお見てたら私も辛いし、これもたぶん裏ペット保険使えるから気にしないで。すぐ呼ぶね」
「…そっか、本当気を遣わせちゃってごめんね」


それから数時間後、すぐに闇心理学者さんが来てくれ丁寧にカウンセリングや嫌な意味では無い催眠療法をしてくれた。

「…はい、じゃあこの振り子をしばらく見てね。副作用などは一切無いから大丈夫だよ」
「あー、確かに何か嫌な気分薄れて来た気がします。ありがとうございます」

「良かった。これで当分は大丈夫でしょう。…とても強い催眠をかければ辛い記憶を完全に抹消したり改竄する事も出来ますが、この子にとってはそれは逆効果でしょうから控えました」

「先生、ありがとうございました。…そうですね、確かに完全に忘れさせるのもそれはそれで酷だと思います」
「…ええ、僕もそう思いますので大丈夫です。お兄さんとの出会いを無かった事にしてしまいますし」

「そう思えていて何よりです。…私は然程流行りの動画などは見ない方なのだが、君の事は裏世界では有名だから知っているよ。本当に大変な人生だったのに前向きに明るく生きていて偉いね」
「あ、そうだったんですか。どうもありがとうございます。お兄さんに買われるまではもうクソ過ぎましたが、今は毎日幸せですので大丈夫ですよ」

「それは良かった。…私も家庭環境にかなり問題があって、昔酷いいじめにも遭っていてね。詳しくは言えないが一時期相当な所まで落ちてしまったんだよ。…だから、君の気持ちはよく理解できるよ」
「…ああ、そうだったんですか。あなたも大変でしたね」

「…そうだね。だがそんな酷い生き方をしていた時、私に真剣に向き合って叱ってくれる人に初めて出会ってね。それからもう一度真面目に生きてみようと思い、時間はかかったが闇ではあるものの心理学者として身を立てられるようになったんだ。あの人には本当に感謝しているよ」
「それは良かったです。その人も幸せになれていると良いですね」


「ああ、会ったのは一度きりだが最近今も元気にやっていると知って安心したよ。では、またいつでもお呼び下さい」
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