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【悲報】遭難しました

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「…こんちゃーす、ヤミッチでーす。…えー、ただ今私ともふおは大変な窮地に陥っていまーす」
「…いやお兄さん、こんな状況で撮影止めなよ」


「いやー、職業病なんでそこはごめん。…はい、見ての通り現在地は某県の人里離れた山奥でーす。なぜこんな事になったか経緯を説明いたしますと、数日前何度か動画でコラボして仲の良い、令和の闇スティーブ・ジョ〇ズを自称する闇エンジニア兼カリスマ経営者さんのプライベートな別荘に招待されまして。喜んでお受けして闇ジョ〇ズさんと一緒に自家用ジェットで別荘に向かっていた所突如闇ジョ〇ズさんの持っていた自社製闇スマホが大爆発し、機体がものの見事に真っ二つになり私ともふおはここに放り出された次第です」
「墜落前にどうにかパラシュート装備して着地に成功したから、僕もお兄さんもほぼ怪我は無くて良かったけどね」

「もふお冷静に対処してくれてありがとねー。離れ離れになっちゃったパイロットと至近距離で大爆発した闇ジョ〇ズさん大丈夫かなあ」
「まあこういうアホな流れなら大丈夫なんじゃない?闇ジョ〇ズ自称するようなアレな人なら最悪死んでも文句言えないだろうしさ」

「うーん確かに。危ない事言っちゃうけど実際のジョ〇ズも結構アレな所あったし有名なカリスマ経営者って大半アレな所あるしね。ほら某SNS買収してクソ改悪しまくるあの人とかさ」
「あー確かに。正直あの人暗殺されないかなー」
「うん、あの人裏世界でも相当嫌われてるからその内誰か仕事人さんとか雇うかもね。あの人クラスだとガードも相当固いだろうけどね」
「仕事人さんには頑張って欲しいね」


「それで怪我はほぼ無くて良かったけど、相当山奥みたいでスマホも圏外だしどうしようか。一応手荷物は掴んで脱出できたけど、別荘でご馳走になる予定だったから水や食料もほとんど持って来てないしね」
「うん、電波入って人の居る所に行けるのがベストだけど検討も付かないし取り急ぎ水と食料と寝床確保しようよ。幸い向こうで僕も料理しようと思ってたから、フライパンやナイフくらいならあるし」

「いやー、本当もふお料理出来る子で助かったよ。という訳で頑張って水場や休憩できそうな所を探すとしましょう」
「あーお兄さん、今はデジカメで撮影してるから良いけど救助呼ぶためにスマホの電池はなるべく温存しておいてね」
「はーい、了解」


そうして私ともふおはしばらく木々をかき分け進み、数十分ほどで小川を見つけた。

「あー、綺麗な川がありました。とりあえずこれで水は確保できましたねー」
「うん、でもそのまま飲んだら危険だから煮沸してから飲もうね。小枝集めて火起こさないと」
「うーん、サバイバルで火起こしっていうと木の棒と板こすり合わせるイメージだけど、アレ結構大変って言うけど大丈夫かなあ」
「まあ、僕の義肢優秀だしたぶん大丈夫だよ」

「あ、そういえば向こうで花火しようと思って花火セットとチャッカマン持って来たんだった。それ使いなよ」
「あーそれは助かる。お兄さんありがと」


「はい、という訳で問題なく火は起こせました。こういう場合どのくらい煮沸すれば安全なのかなー」
「うーん、流石に僕も水道止められた事は無いから詳しくは知らないけど。とりあえず10分くらいやっとけば十分だと思うよ」
「あー、水は生存に不可欠だから結構滞納しても止まらないって言うしね。ガスや電気停められるだけでも大変だけど」
「うん、底辺時代はロウソクとか常備してた。ガス停められた時は七輪と練炭で料理してたし」

「うわー、本当大変だったね。というかしんどい事聞いちゃうけどそんなに困窮してたなら生保とか受けられたんじゃない?シングルマザーならたぶん行けると思うんだけど」
「うん、僕もある程度大きくなってそういう制度あるって知った時母親に役所に相談しに行こうよって言ったんだけどさ。痛いお花畑脳だからそんなみっともない事出来ない、きっと今に王子様が助けてくれるからって聞く耳持たなかった」

「うっわー、本当どうしようも無いね。気の毒に」
「…正直それ言われた時は部屋密閉して練炭炊こうかと思った。結局それも悲しくて出来なかったけどさ。それから数年はクソ過ぎたけど、でも最後はお兄さんに会えたわけだし今は我慢して良かったと思ってるよ」
「うん、本当頑張ったね。えらいね」

「よし、もうこのくらいで十分だと思う。少し冷めたらペットボトルに入れておこうね。あとは食料だけど、まあ僕は過去がアレだから最悪1日くらいは食べなくても我慢できるし。お菓子とかちょっとあるからお兄さん全部食べて良いよ」
「うーん、でもそれじゃもふおが可哀想だし半分こしようよ。もふお食べ盛りなのにこれ以上我慢させちゃ気の毒だしさ」
「うん、ありがと。一応この川魚も少しはいるけど、流石に義肢高性能とはいえ素手で捕まえるのは厳しいかもなー。まあたぶん食べられる草とか木の実とかあると思うけどさ」
「いやー、もふおそういう知識も豊富で本当助かるよ。私もそれなりに山奥やアレな秘境とかは行くけど大体そういう時は闇ハンターやアレ冒険家さんとかが一緒だしさ。一人で墜落してたらたぶん詰んでたよ」
「ありがと。まあ正直こんなスキル身に付けたく無かったけどさ。じゃあまだわりと暖かい時期だし今日は最悪ここで火を焚いて寝るとして、あとは食料探しに行こうか」
「うん、秋の初めくらいで良かったね」


「はーい、という訳で今度はもふお先導のもと食べられる物探しです。あ、立派なキノコ生えてる。もふおこれ食べられるんじゃないの?」
「あーそれドクツルタケ。名前で分かるだろうけど別名死の天使って言われてて食べたらほぼ確実に死ぬ猛毒キノコだから絶対食べちゃ駄目だよ」
「うわー、そうなんだ。綺麗だし知らなかったら食べてたかも。ありがとねもふお」
「うん、キノコは専門家でもたまに間違えるくらいだし、知識無かったら基本野生のは食べないほうが良いよ」

「そっかー。あ、じゃあこのブルーベリーみたいな木の実は?見た目は美味しそうだけど」
「あー、それはヨウシュヤマゴボウだね。見た目美味しそうだしゴボウって付いてるけど実も根も毒あるから食べちゃ駄目だよ。死亡例もあるらしいし」
「そうなんだー、怖いね。いやー本当もふおそういう知識豊富で助かったよ」
「あ、あれたぶんサルナシだね。僕も食べたことは無いけどキウイみたいな味で美味しいらしいよ。あーあとフキもあるね。だいぶ大きくなってるからそんなに美味しくないかもしれないけど、よく茹でれば行けると思う。摘んでいこう」
「おおー、本当もふお頼りになるよ。ありがとねー」


「えー、意図せず培われたもふおのサバイバルスキルが存分に活かされてますねー。あ、うり坊いる可愛いなー。ほらこっちおいでー」
「…いや待ってお兄さん、うり坊いるって事はたぶん近くに親も」

とか言っていたら近くの木々をかき分けて体重200キロはありそうな殺気立った雰囲気の大猪が現れた。

「ひ、ひええええ。どうしようもふお。逃げないと」
「…え、えっと確か猪って背中を向けて走って逃げると習性で追ってくるはずだったから、向き合ったままゆっくり後ずさって。それで木はあんまり登れないはずだからあそこの木の上に急いで逃げて。お兄さん木登り出来る?」
「うーん、あんまりやった事ないから不安だけど頑張る。あーのぼり棒にアレ擦り付けるのは気持ち良くて好きだったけど」
「いや今そんなどうでも良い情報いらないから。状況考えて。ほら僕手伝うから早く避難して」


そうしてもふおに義肢で押し上げてもらい、どうにか私は結構太い枝の上に登る事ができた。

「ふー、ありがとね。もふおも早く登って来てー」
「うん。…ってあいつ明らかに突進する動作してる。うわーやば、ど、どうしよ」

その刹那、大猪は恐ろしい勢いでもふお目掛けて突進して来た。

「も、もふお危ない逃げて―!って、う、うわー!!」

咄嗟に身を乗り出しもふおに手を伸ばした私だが、捕まっていた枝がバキリと折れそのまま落下してしまった。

真っ逆さまに落下した私は偶然、もふおに激突寸前の大猪の頭にヒップアタックをかます形になった。

「ブモオオオオオ」
「ぎ、ぎゃー!!!」

不意に頭部へ一撃を喰らった大猪は怯み体を激しく左右に揺らし、私はすぐに振り落とされ地面に転がった。

「お、お兄さーん!!ち、ちくしょうこんな所で死んでたまるか、人間なめんなオラァ!」

僕は義手を固く握りしめ、大猪の眉間に全力で一撃叩き込んだ。

「プギイイイイイ」
「てめえちょっとデカいからってイキってんじゃねえ、牡丹鍋にしてやんよ死ねゴラァ!!」

そのまま無我夢中で猛烈なラッシュを大猪に叩き込み続け、たまにかかと落としとかも決めたりした。


10分くらい後。

気が付けば僕の目の前には、ぐったりと倒れ動かなくなった大猪の死体があった。
うり坊は怯えて逃げたのかどこかに消えていた。

「う、うわー。義肢とはいえ素手で大猪殴り殺すとかすごいねもふお」
「…ぜえぜえ。…うん、火事場の馬鹿力ってやつかな。うわー仕方ないけど義肢毛まみれでかなり獣臭くなっちゃった。川で洗わないと。…っていうか免許無いのに猪殺しちゃったけどこれ鳥獣保護法とか引っかからないかな」
「うーん、まあこれは緊急避難で仕方ないだろうし罠や銃使ってないから大丈夫じゃない?いやー、これで当分食べ物には困らないね。お魚捌けるもふおなら猪の解体もきっと出来るよ」

「えー、流石に僕も猪解体はした事ないし自信無いなー。許可取って野生化したヌートリアやアライグマ捕まえて解体くらいならやった事あるけど」
「それなら行けるんじゃないかな。ってあ、ヘリ飛んでる。闇ジョ〇ズさん達が何とかして救助呼んだのかな。どうにかしてこっちに気付いてもらおう」

「うーん、でも狼煙炊くのじゃ間に合わないかも。…あ、お兄さん花火セット持ってるんだよね。ロケット花火あったらそれ信号弾代わりに打ち上げれば気付いてもらえるんじゃないかな」
「あーそれいいね。じゃあすぐチャッカマン使って打ち上げよう。お願いします、気付いて下さーい」

僕達は急いで花火セットからありったけのロケット花火を取り出し、着火して打ち上げた。

少し後ヘリは進行方向を変えこちらに向かって来て、ある程度高度を下げ縄梯子を降ろしてくれた。


「あー良かった、気付いてくれた。助かったねもふおー」
「うん、割とすぐ救助されて良かったね。怪我もほぼ無かったし」

「あー、でもせっかくこんな大物仕留めたのに持って帰れなくて残念だね。もふおの仕留めた猪食べたかったなー」
「うーん、まあ解体する暇も無いし仕方ないよ。あー帰ったら早く義肢洗わないと。めっちゃ獣臭い」

「あはは、仕方ないよ。闇ジョ〇ズさんも大爆発してそれどころじゃないだろうし、そのまま帰宅コースだろうね。…あー、吊り橋効果かサバイバルして興奮して来たから帰ったらまたアレしない?」
「あー確かに僕も何かムラムラして来た。いいよー」


「いやー、という訳でお呼ばれ山荘デートのはずがまさかのサバイバル回になってしまいましたが。すぐ救助されたし死地を乗り越えもふおとの絆も更に深まりましたし結果オーライですね。では闇視聴者の皆様、ご視聴ありがとうございました~」
「もー、だからそんな挨拶してる場合じゃ無いでしょ。まあありがとうございました~」

※ちなみに闇ジョ〇ズは瀕死の重体だったが帰還後すぐに企業お抱えのマッドサイエンティストと闇医者に改造手術を受けサイボーグとして蘇り事なきを得た。
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