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序章
第0話
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時刻は午後10時をちょっとすぎたところ。
この時間帯にもなると、人々はもちろん町は心地良い眠りへと就く。
しかし未だ活動している者が多い近年では、むしろここからが本番だとそう言わんばかりに活発に動く輩がとても多い。
それを果たして良しとするか否かは、この際さておき。
少なくとも需要があるのは、配神者にとって共通の認識でもあった。
「やっこーんこん! クズノハ神社のカミ様! 葛葉ハルカだよー! 皆今日も配信に来てくれてありがとぉー!」
そう言って、大きなモニターの前で身体全部を使ってアピールするカミ。
さらさらと流れる金色の長髪はさながら黄金のように美しくて、同様の毛並みに包まれた狐耳と尻尾はさぞ、とてもいい触り心地だろう。
そんな様子を――一見すると女のようにしか見えない男は、口を堅く閉ざしたまま静かに見守っている。
「今日は僕のマネージャーと一緒にある企画を一緒にやっていきたいと思いまーす!」
「おい、ちょっと待て! 今日はそんな予定は聞いてないぞ」
「だって、今言ったばっかりだもん」
悪びれる様子もなく、さも当然と言わんばかりのハルカに男はムッとした顔で彼女の頭に拳骨を落とした。ごつん、という鈍く重い音色はさぞ痛そうだ。案の定、ハルカは頭を擦りながら涙目で男の方を恨めしそうにじろりと睨む。
「いったーい!! ちょっと、いきなり殴るなんてひどいじゃん!」
「当たり前だこのバカ狐! いつもいつも、突拍子のないことはするなって言ってるだろうが!」
「たまにやるから面白いんじゃない!」
「お前のたまにはたまにじゃないんだよ!」
配信とは、本来リスナーを楽しませるためにある。
彼らのやり取りは単なる喧嘩で、しかし本気ではないのでそれが暴力に発展することはない。
それは画面越しにいる数多のリスナーも重々理解していて、コメント欄の内容は比較的穏やかなものが多い。
より厳密にいえば、もっとやれ、と二人のやり取りを心から楽しんでいる節さえもある。
『いいぞーもっとやれーwww』
『や、やはりハルいぶコンビはてぇてぇでござるなwww』
『仲良すぎてうらやまwww』
『パンツ何色なん?』
一部に関しては、配信の内容に不相応なものも混じっているがハルカと男……カミとヒトのコンビの支持率は極めて高い。
しばらくして、男の口から大きな溜息がもれた。
両手は小さいながらもあがっていて、それは彼が降参の意を示したことに他ならない。
呆れた面持ちのまま、男は静かに口火を切る。
「あぁもう、俺が悪かったから。いい加減企画の方にいかないと飽きられるぞ?」
「あ、そうだった。えぇ~と、それじゃあここは偉大にして寛大なカミである僕が、このおっちょこちょいで間抜けで寝坊癖のあるマネージャーを許したところで――って、だから女の子を殴るのはよくないってば!」
「覆水盆に返らずって言葉、知ってるか? 俺はいつだって遠慮しないぞ、お前には」
「なんでさ! もう、あとでお説教だからね! それじゃあ今日の企画を早速やっていくよー!」
配信は、滞ることなく順調に進んでいく。
コメント欄は依然として盛り上がり、時間が経過するにつれて同接数も緩やかながらも伸びていく。
そんな中で男は「なんでこうなったのかね……」と、もそりと呟いたその言葉はとてもか細い。
強い風も吹けば呆気なくかき消されそうなぐらいのささやき、ハルカの狐耳は聞き逃さなかった。
くるりと男の方を見るなり、はて、と小首をひねる仕草はなんともかわいらしい。
「今なんか言った?」
「いんや、なんにも言ってないよ……。それよりもそれ、いただきな」
「あぁぁぁぁぁぁぁ! 僕が狙ってたのにぃ!!」
「早い者勝ちだ」
和気藹々とした時間がどんどん過ぎていく。
(本当に、どうしてこんなことになったんだろうなぁ……)
必死な形相で抵抗するハルカを右隣に、男はそんなことをふと思った。
この時間帯にもなると、人々はもちろん町は心地良い眠りへと就く。
しかし未だ活動している者が多い近年では、むしろここからが本番だとそう言わんばかりに活発に動く輩がとても多い。
それを果たして良しとするか否かは、この際さておき。
少なくとも需要があるのは、配神者にとって共通の認識でもあった。
「やっこーんこん! クズノハ神社のカミ様! 葛葉ハルカだよー! 皆今日も配信に来てくれてありがとぉー!」
そう言って、大きなモニターの前で身体全部を使ってアピールするカミ。
さらさらと流れる金色の長髪はさながら黄金のように美しくて、同様の毛並みに包まれた狐耳と尻尾はさぞ、とてもいい触り心地だろう。
そんな様子を――一見すると女のようにしか見えない男は、口を堅く閉ざしたまま静かに見守っている。
「今日は僕のマネージャーと一緒にある企画を一緒にやっていきたいと思いまーす!」
「おい、ちょっと待て! 今日はそんな予定は聞いてないぞ」
「だって、今言ったばっかりだもん」
悪びれる様子もなく、さも当然と言わんばかりのハルカに男はムッとした顔で彼女の頭に拳骨を落とした。ごつん、という鈍く重い音色はさぞ痛そうだ。案の定、ハルカは頭を擦りながら涙目で男の方を恨めしそうにじろりと睨む。
「いったーい!! ちょっと、いきなり殴るなんてひどいじゃん!」
「当たり前だこのバカ狐! いつもいつも、突拍子のないことはするなって言ってるだろうが!」
「たまにやるから面白いんじゃない!」
「お前のたまにはたまにじゃないんだよ!」
配信とは、本来リスナーを楽しませるためにある。
彼らのやり取りは単なる喧嘩で、しかし本気ではないのでそれが暴力に発展することはない。
それは画面越しにいる数多のリスナーも重々理解していて、コメント欄の内容は比較的穏やかなものが多い。
より厳密にいえば、もっとやれ、と二人のやり取りを心から楽しんでいる節さえもある。
『いいぞーもっとやれーwww』
『や、やはりハルいぶコンビはてぇてぇでござるなwww』
『仲良すぎてうらやまwww』
『パンツ何色なん?』
一部に関しては、配信の内容に不相応なものも混じっているがハルカと男……カミとヒトのコンビの支持率は極めて高い。
しばらくして、男の口から大きな溜息がもれた。
両手は小さいながらもあがっていて、それは彼が降参の意を示したことに他ならない。
呆れた面持ちのまま、男は静かに口火を切る。
「あぁもう、俺が悪かったから。いい加減企画の方にいかないと飽きられるぞ?」
「あ、そうだった。えぇ~と、それじゃあここは偉大にして寛大なカミである僕が、このおっちょこちょいで間抜けで寝坊癖のあるマネージャーを許したところで――って、だから女の子を殴るのはよくないってば!」
「覆水盆に返らずって言葉、知ってるか? 俺はいつだって遠慮しないぞ、お前には」
「なんでさ! もう、あとでお説教だからね! それじゃあ今日の企画を早速やっていくよー!」
配信は、滞ることなく順調に進んでいく。
コメント欄は依然として盛り上がり、時間が経過するにつれて同接数も緩やかながらも伸びていく。
そんな中で男は「なんでこうなったのかね……」と、もそりと呟いたその言葉はとてもか細い。
強い風も吹けば呆気なくかき消されそうなぐらいのささやき、ハルカの狐耳は聞き逃さなかった。
くるりと男の方を見るなり、はて、と小首をひねる仕草はなんともかわいらしい。
「今なんか言った?」
「いんや、なんにも言ってないよ……。それよりもそれ、いただきな」
「あぁぁぁぁぁぁぁ! 僕が狙ってたのにぃ!!」
「早い者勝ちだ」
和気藹々とした時間がどんどん過ぎていく。
(本当に、どうしてこんなことになったんだろうなぁ……)
必死な形相で抵抗するハルカを右隣に、男はそんなことをふと思った。
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