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「合コン行ったのか? 彼女できたか?」
「行くには行ったけど、俺、ああいうのあわないんだってわかった。もちろん彼女なんてできてない。もう無理に作ろうとするのやめるよ」
「陽翔なら、その好きな子にだって想い伝わるよ」

 俺の片想い相手が自分だとは思わないからそう言えるよな。でも、俺が好きなのが自分だとわかったら絶対に言わないだろ。
 涼介を想う気持ちだけなら誰にも負けないのにな。でも、それ以前の性別で負けちゃってる。
 そう思ったら、ムカムカしてきた。吐きそうだ。

「ちょっとトイレ」
「吐きそうなのか?」

 心配げな涼介の言葉に頷き、トイレへ急ぐ。
 吐いた花は黄色いチューリップだった。またか。黄色いチューリップは何回吐いただろう。望みがないのなんてわかってるから、念押しのように吐かなくていいのに。黄色いチューリップを吐くたびに落ち込む。
 部屋に戻ると涼介が心配そうな顔をしていた。俺が吐くたびに心配してくれる。 

「大丈夫か? でもそんなに吐くほど好きなのか? 今は俺といるのに」

 涼介といるからだけど、それを言えるわけなくて。ただ頷くしかない。吐くほど好きなのは事実だから。でも、なんで涼介がそこで辛そうな顔をするのかがわからない。

「告白すればいいのに」
「できないよ。困らせちゃう」
「でもこのままだと陽翔が辛いだろう」

 辛い。それは事実だ。でも涼介を困らせたくないし、何より今の関係を崩したくない。この関係をなくしてしまうなら想いなんて告げなくていい。花吐き病なんて嫌だし治したいけど、涼介との仲をそれと引き換えになんてしたくないんだ。何よりも優先しようとしてくれるんだ。それだけで十分だろう。

「花吐き病は嫌だけど、友達として大事にしてくれてるから」
「それでいいのか」
「うん。それで満足しなきゃって思ってるよ」
「陽翔……」

 そう言うと涼介が泣きそうで辛そうな顔をする。

「そんな顔するなよ」
「でも陽翔が可哀想で……」
「仕方ないよ。叶わない相手だもん。そういう涼介だってそうだろ」
「そうだけど。でも陽翔が辛い想いしてるのを見るほうが辛い」

 優しいな。涼介はほんとに優しい。優しいからこそ、それに甘えちゃいけないんだ。

「でも俺は涼介が辛い想いしてるのが辛いよ」

 俺がそういうと辛いのか嬉しいのかわからない顔をする。
 
「俺たち同じこと言ってるな」
「そうだね」

 そう言ってお互い笑う。俺が涼介が辛い想いしているのを見たくないのと、涼介が俺に思うそれとは意味が違うけどいいんだ。幼馴染みとして友人としてそう思ってくれてるんでもいいんだ。贅沢言ったらバチがあたる。

「涼介、お腹空いた」
「もう夕食の時間か。なんか食いに行くか? あ、でもおばさん」
「食べてくるとは言ってない。涼介は?」
「俺は適当に食べておけって言われてる」
「じゃあうちくる? 今からいらないって言ったら明日、食事抜きになっちゃうから」
「はは。おばさん強いからな。じゃあ陽翔のとこ行こうか。でも俺の分作ってないよな」
「父さんの分あるから大丈夫だよ。行こ」
「うん」

 そう言って、二人で俺のうちへ帰る。
 ここ数日仲違いしてたけど、それはとても辛いことだとわかったし、まるで自分のことのように心配してくれる涼介がやっぱり好きだと思った。
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