上 下
15 / 55

しおりを挟む
 月曜日、学校に行くと案の定拓真がかみついてきた。

「陽翔! なんで土曜日先に帰ったんだよ」
「ごめん。ちょっと急用でさ」
「ふーん……」

 と言いながらも信じ切ってはいない目で拓真は俺を見る。

「ほんと、ごめんって。で、彼女できた?」
「できてねーよ。今回不発な」
「でも、なんか喋ってたじゃん」
「あぁ、なんかノリが良くて話しやすい子いたからさ」
「その子と付き合えばいいのに」
「ないな。あの子は友達タイプ。それよりさ、お前が帰ったから結梨花ちゃんがお前の連絡先知りたいって言ってたぞ」

 あの子、拓真にも訊いたのか。あの場で交換しないのが返事のつもりだったんだけど。

「あー。ID訊かれたけど、適当に帰ってきたんだよね」
「なんだよ、結梨花ちゃんじゃダメだったのか」
「あの子が、っていうより、やっぱり今はまだ無理だなって。彼女作るのはもうちょっと先かな」
「そっか。じゃあさ、またそのうち合コンでも行こうぜ。それまでは受験生らしく勉学に励むか」
「そうだね」

 かみついてきたわりには、すんなりとわかってくれるのがありがたい。拓真のこういうさっぱりしたところが好きだな、と思う。

「宿題やってきた?」
「やってきたよ」
「見せて。よくわからないとこあったんだよ」

 そう言って教科書とノートを出す拓真に小さく笑った。

「ほら、これ」

 鞄からノートを出し、拓真に渡す。ノートを受け取る拓真は完全にいつも通りで俺はホッとした。

 そして昼休み。
 いつものように屋上で拓真と食べる。と言っても梅雨で、ここ数日は教室で食べていた。それが今日は天気が良くて暖かいので数日ぶりに屋上に来た。外で食べるのは空気が良くて美味しく感じる。と言ってもいつもの母さんが作ってくれた弁当なんだけど。

「あー。期末、今月だぁ」
「勉強しなきゃな」
「えー。近くなってからでいいじゃん、テスト勉強なんてさ」
「俺はテスト勉強しないよ。いつもやってるから」
「うわ、何今の。陽翔、そんなに真面目ちゃんだっけ? 昨年とかもっとのんびりしてたじゃん」
「そうだけどさ、高三だよ? 俺、大学落ちたくないもん。少しでも早く獣医になりたいんだから」
「それすごいよな。俺も夢とかあればもっと真面目にやるのかな? 俺、なーんにもないもんな。ただ、みんなが大学行くから行くだけで」
「拓真だって何かあれば違うよ」
「そうなのかな。でも、今は何も考えつかないや。ま、仕方ないか」

 そう言うと拓真は、腕をあげ、ぐっと背筋を伸ばす。さっぱりしてあっけらかんとしたのが拓真の持ち味だ。とは言え、勉強はした方がいいと思うけどな。この分だと、試験が近くなったら教科書片手に教えて攻撃だろうな。でも、多分拓真は大学に受かるだろう。
 拓真自身が言っている通り、今の成績で十分受かるところを志望しているから、特に成績が下がったりしない限り大丈夫なはずだ。そういう俺も今の成績なら合格すると言われている。それでも、獣医という志望から、ギリギリじゃなくて余裕を持って受かりたいと思ってるし、大学入学後も苦労をしたくないから今頑張っているだけだ。元々は俺ものんびり屋で、試験勉強なんて試験が近くなってからやっていたタイプだ。

「そろそろ教室戻るか。五時間目移動だもんな」
「そうだな」

 五時間目は音楽なので、音楽室に移動だ。弁当箱を持って屋上から降りたところで、涼介が彼女である女の子に平手打ちされているところに出くわしてしまった。
 なんでこんなところにばかり出くわすんだろう。この間はキスシーンで、今度は平手打ちかよ。
 そう思っていると、一瞬涼介と目があってしまったので回れ右して屋上に戻るわけにもいかず、かと言って階段を降りるわけにもいかずに俺と拓真はその場で立ちつくした。

「涼介なんて知らない! もう顔も見たくない。さよなら」

 彼女はそう涼介に吐き捨てるとその場を立ち去った。一部始終を見てしまった俺は、少し腹が立っていた。何があったのか知らない。知らないけど、平手打ちはないだろう。しかも一方的にさよならなんて。あんたがふったその男が欲しくて欲しくて仕方ないやつがここにいるんだよ。と、そう思ったところで吐き気がしてきた。ここで吐くわけにもいかず、口に手をやり急いで近くのトイレに駆け出す。
 なんとかトイレまで間に合い、口からでてきたのは花ではなく四葉のクローバーだった。四葉のクローバーは幸運って意味じゃないのか? と呆然と四葉のクローバーを眺めた。

 四葉のクローバー。
 ――私のものになって
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...