切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼

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Move on2

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 いつもの時間にお店に行き、店の掃除を始める。そして今日のブレンドコーヒーを決める。今日はコロンビアとブラジルをベースとした苦みのあるブレンドにした。
 『カフェ・ルーシェ』は2年前にオープンしたばかりのコーヒー専門店だ。中学時代にコーヒーにハマり、大学を卒業してから将来店をオープンできる知識を得るために専門学校に週3回・1年間通い、オーナーとなるための知識とバリスタの資格を取った。そして専門学校へ通う傍ら市内にある『カフェ・サンク』でバイトとして働いた。
 専門学校を卒業した後は『カフェ・サンク』でフルタイムで働き、オーナーの正門まさかどさんに徹底的にコーヒーのことを仕込まれた。正門さんはコーヒーに関しては煩い人なので、専門学校の講師よりも正門さんの方が怖かった。でも、その分しっかり実力はついたと思う。だからこそ25歳でカフェをオープンすることが出来たんだと思っている。
 お店をオープンしてから2年間、こんな若造のお店だけど、ありがたいことに常連さんもボチボチ出来ている。そして正門さんは『カフェ・サンク』の定休日にたまにぶらりとやってきてはダメ出しをしてくる。だから味に関しては自信を持っている。
 掃除を終えた後は10時に札をOPENにする。1日の始まりだ。

「湊斗くんおはよう」

 オープンして5分後に吉澤優馬さんが花束を抱えてやってきた。優馬さんはファッションデザイナーをしていて、常連さんの1人だ。

「おはようございます。今日は早いですね」
「湊斗くんの誕生日だからね。それに話したいこともあって。とりあえず、はい。誕生月花の赤い薔薇27本」
「うわ、ありがとうございます。生けなきゃ」

 優馬さんから薔薇の花束を貰い、さっそく花瓶に生けてカウンターの隅に置く。花があると店が明るく感じる。

「やっぱり花があるといいですね。優馬さん、今日は何にしますか?」
「今日のブレンドは何?」
「今日はコロンビアとブラジルベースの苦みのあるものですよ」
「じゃあ、それにしようかな」
「はい」

 ハンドルにネルフィルターをセットし、挽いた粉をセットしてゆっくりと淹れていく。うちの店は正門さんから教わったネルフィルターでコーヒーを淹れている。手間を考えると紙の方がいいのだけれど、ネルドリップの方が味がまろやかになるのでペーパーフィルターに移行することができない。せっかくコーヒーを飲むなら美味しい方がいい。

「湊斗くん。他のお客さんが来たら困るから単刀直入に言うけど湊斗くんのことが好きなんだ」
「はい……えっ?」

 コーヒーを淹れながらなのでついうっかりと「はい」なんて言ってしまったけれど、言った後に意味がわかった。

「好きって……」

 コーヒーが好き、とかそういう意味じゃないよな?

「恋愛の意味でだよ」
「そんな……」
「今付き合っている人はいないんだよね?」
「いえ、なんというか……」
「返事は今じゃなくていいから。ゆっくり考えて」
「いや、でも……」

 ずっと好きな人がいる、そう言いかけたところで常連の舞さんが入って来たので話はそこで中断されてしまった。

「湊斗くん。誕生日おめでとう」

 舞さんはそう言って店に入ってくる。舞さんは大手不動産会社に勤めるOLさんだ。不動産会社なので水曜日がお休みなので水曜日の朝は美味しいコーヒーで目を覚ましたいからと言って朝1で来ることが多い。

「ありがとうございます。今日は何にしますか?」
「今日はグァテマラをお願い」
「はい」

 さっきの優馬さんとの話の続きをしたいけれど、この後はランチの後の一杯にくるお客さんが来るだろうから話は出来そうにない。それでも気になって優馬さんを見るけれど、優馬さんは優雅にコーヒーを飲んでいた。どこかでお客さんが途切れれば……。そんな風にそわそわしながらグァテマラを淹れた。
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