百夜の秘書

No.26

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浴室にて

一、

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*1話より少し前の時間軸のお話。

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「旦那様、この書類はどちらに直せば?」
「ああ、それならこちらにおくれ」

 蝶は書類を渡しながら、時計を見た。あと、三十分。
 蝶はこっそりと膝をすり合わせた。

「こちら、印鑑が抜けていますが」
「おや、本当だ。助かるよ、蝶」

 蝶は印鑑を取り出しながら、時計を見た。あと、二十分。
 蝶はその場で数回、控えめに足踏みをした。

「期限が近いものはこの箱の中に入れておきます」
「そうだね。ありがとう」

 蝶は箱に書類を入れながら、時計を見た。あと、十分。
 蝶は、天藍に見えない角度で内股を強くさすった。

 七時の鐘がなった。

 天藍は書類から顔を上げた。

「ああ、勤務時間が終わったね。……おいで、蝶」



 蝶は、天藍の書斎奥の私室に通される。
 その薄暗い部屋で、蝶は焦る気持ちを落ち着けて、自分の服をたくし上げた。
 そこには、天藍が着けさせた貞操帯、そしてぷっくりと膨らんだ下腹が現れる。
 その腹の中には、十時間排出されなかった多量の水分が詰め込まれていた。
 天藍は微笑み、貞操帯の鍵をカチャカチャと開けながら、

「こんなことをしても、君は一度も恥ずかしい姿を見せてくれないね」
「旦那様の思い通りにはさせません。お給料はきちんと頂きますからね」

 そう平然と答える蝶だったが、内心は焦っていた。
 早くトイレに行きたい……早く……!!
 蝶はぎゅっと目を瞑り、欲求に耐える。
 そうして、貞操帯が外された。

「溜まってるはずなんだけどなあ」

 不思議そうに首をひねる天藍に、その膨らんだ下腹をすりすりと撫でられ、ビクンと蝶の身体が震える。

「触らないでください。勤務時間は終わったはずですが」
「ああ、ごめんごめん」

 ……も、だめだ、漏れる、漏れる……!!
 蝶は服を下ろし、耐えきれずもじもじと足踏みをしながら、

「では、失礼します」

 蝶はそう言って、逃げるようにその場を去った。



「っ、ふーっ、ふーっ……!」

 蝶は呼吸を荒くしながら、最上階の廊下を、早足で歩いていた。もう、彼の頭の中は小水をすることしか考えられなかった。
 目指すは、この階にある従業員用のトイレ。そこには、部屋から二十秒もしないで着く。
 この階には基本、天藍に用のある者か蝶のような上級職の者しか訪れないため、階のトイレはいつも空いていた。
 だからそこに着けば、確実におしっこができる。
 そう思うと一層、蝶は我慢ができなくなった。

 早く、早く早く早く……!!
 蝶は、耐えきれず前を抑えた。
 トイレの入り口はもう見えている。
 もう少し、もう少しで!!

 そう思って蝶がやっと着いたそのトイレには、しかしいつもと違った光景が広がっていた。

「え……?」

 一人の清掃員が床にスプレーを巻いている。蝶は慌てて前を押さえていた手を後ろに組んだ。
 清掃員はこちらに気づいたようで、軽く会釈し、

「あっ、蝶様、お手洗いを使われますか? すみません、今漂白剤を撒いていて……あと十分お待ちくださるか、下の階へ行ってもらえませんか?」

 やっとトイレへ行けると思ったのに、予想していなかった妨害。

「……わ、わかりました……」

 そう頷きながらも、蝶の腰は強い尿意にゆらゆらと揺れ出す。
 あと十分我慢するか、エレベーターに乗り五分かけて下の階へ行くか……。
 しかし蝶にとっては、そのどちらも無理な話だった。
 蝶は今にももらししてしまいそうなほど、我慢に我慢を重ねていた。

「……はーっ、あっ、もーっ……!!」

 早くしたいのに、できると思ったのに……!
 トイレから離れ、誰もいない廊下で前をぐにぐにと強く揉み込み、意味のない言葉を呟きながらその場で足踏みをする。
 ……だが、蝶は既に、この件の解決策に一つ気づいていた。
 蝶は前を抑えたまま、非常に不本意に思いながら、元来た道を急いで引き返した。



「旦那様……!」
「おや、蝶。どうしたんだい?」

 蝶は天藍の書斎のドアを開ける。
 すぐ戻ってきた蝶に、不思議がる天藍。
 蝶は羞恥心に耐え、彼に頭を下げた。

「お願いします、部屋のお手洗いを貸してください……!」

 解決策、それは天藍の部屋のバスルームを借りること。
 蝶は耐えきれずその場で足踏みを繰り返しながら、

「階のお手洗いが使用できなくて、その、私、もう……!」
「ああ、そういうことならいいよ」

 天藍は、あっさりと承諾した。

「……え、良いのですか?」

 てっきりまた何か無茶な条件を提示されるのかと思っていた蝶は、その返答に拍子抜ける。

「減るものではないしね。おいで」

 天藍は微笑んでそう言って、椅子から立ち上がり、蝶を招く。

 書斎奥の彼の私室を抜けて、バスルームのドアの前へ着いた。
 天藍がドアを開け、蝶はその中の部屋を見て、呆気に取られた。

「うわ、広い……」

 バスルームには、手前に洗面台、奥に身体を洗うスペースとジャグジーつきの湯船がある。
 そして、蝶はあと数歩の場所にある便器を見て、反射的に小水を漏らしてしまいそうになり、慌てて足をすり合わせた。

「つ、使ってもよろしいでしょうか?」

 モジモジしながら切羽詰まって言う蝶に、天藍は微笑みかけ、

「蝶がおしっこしてるところ、見ててもいい?」
「は?! これ以上変態を晒して幻滅させないでください! 出て行ってください!!」
「あはは、厳しいなあ。じゃあ、ごゆっくりどうぞ」

 そう扉が閉まり、天藍がいなくなるなり、蝶は急いで便器に腰掛けた。
 ビシャアアアアーーーー……
 座った途端、蝶のおしっこが勢いよく放たれる。

「はあ、はあ、はあぁ……」

 ビシャアアアアーーーー……
 開放感に、気持ちが良すぎてクラクラする。
 可愛らしい蝶に似つかわしくない、激しい放尿を続けながら、蝶は改めてバスルームを見渡した。
 どこもかしこも綺麗だ。それに広すぎて落ち着かない。

「まあ、用が足せるならどこでも良いけど……」

 蝶は長い放尿を終え、一息つき、やっと軽くなった身で便器から立ち上がった。



 それから次の日。
 今日の蝶は、いつもより焦っていた。
 勤務時間が終わる二時間前になった頃から、おしっこがしたくて堪らないのだ。一時間前には既に、蝶の先端がじわりじわりと熱くなってきている。
 思い返せば、午後天藍に着いて顧客に会ってきたとき、勧められたカップ一杯の紅茶を飲んでしまった。
 そのせいで、いつもより膀胱に水分が溜まっているらしい。

 しかし、天藍の思い通りに自分の恥ずかしい姿など絶対に見せてやるものかと思う蝶は、足踏みをしたい気持ちを必死に耐え、時折天藍の目を盗み、足をすり合わせる程度の仕草で、強い尿意を我慢していた。

 そして、その日の勤務時間が、やっとあと十分となった頃。

「そうだ、蝶なら僕のバスルームを使っても良いよ」
「……え?」

 天藍の隣でデスクの書類を仕分けていた蝶は、顔を上げた。
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