百夜の秘書

No.26

文字の大きさ
29 / 35
蝶よ花よ

二、

しおりを挟む
「……本当に、旦那様って変態ですよね」
「へぇ、いいの?上司にそんな口を叩いて」
「ッ…」
 不意に前を触られて、蝶はびくりと肩を跳ねさせる。
 そのまま、寝室に連れて行かれた。
「……そんな大きなの、本当に入るんですかね」
 広い寝室は薄暗い。寝台に寝かされながら、蝶は天藍のソレをちらりと見て言葉をこぼす。
「まあ、無理にはしないよ。……蝶は、指でも気持ちいいもんね」
 天藍がそう言いながら、潤滑油を自分の手に垂らす。そのまま蝶の蕾に指を当て、つぷりと入れた。
「……っ、は…ッ」
 くちゅ、くちゅと、微かに水音を立てながら、その孔を責められる。
「んっ……も、さっき、十分…ッ」
「切れないように念入りにしないと。……君は、中の前立腺を弄られるより、抜かれるときの感覚の方が好きだよね」
「ッ…ぁ、っ…」
 ちょうどイけないくらいの強さで、二本の指で中を執拗に責めたてられる。
 快楽を感じる箇所を、完全に把握されている。蝶はただシーツに埋まり喘ぐことしかできなかった。
 その開いた口に、口付けをされる。入ってきた舌に蝶は気づき、その天藍の舌を軽く噛んだ。
「……痛いなぁ」
「口付けは嫌です。…それより…早く……っ」
 このままだと、自分が自分でなくなってしまうような気がする。早くイって、この熱を解放したい。
 蝶は天藍の肩を引き寄せ、懇願する。しかし、天藍は身体を離した。
「君は、あまり僕のことを理解してないんだね」
「……え?」
 予想外の反応に、蝶は息を整えて、答えた。
「漏らさせることがお好きなんだろうなというのは十分知ってます」
「それだけだと考えているなら、本当に理解していないよ」
 天藍は、一度寝台を離れる。
 そして何かを持って、再び戻ってきた。
 部屋が薄暗いせいで、よく見えない。けれど、それが自分の腰にあてがわれたとき、蝶は自分の状況を理解した。
「……え……?!」
 なぜか、貞操帯をつけられている。
「あと、これ」
「…っ……?!」
 天藍が掲げるのは、柔らかい素材の玉が十数個、間隔を開けて連なっている"大人の玩具"。
 以前、蝶が天藍に使われて、イき狂わされていたもの。
 これから起こるであろう事態を察して、背筋がヒヤリとする。蝶は動揺を隠せないまま、天藍を見上げた。
「だ、旦那様……?」
「そう焦らないでよ。夜は長いからね」
 天藍はそう言って、その玩具に潤滑油を垂らした。


「ぁ、ぅあ"……ッ~~~!!」
 蝶は声にならない声を漏らし、枕に顔を埋める。
 ぬぷぬぷと、中に玩具を出し入れされる。けれど全て射精には至れないような刺激で、身体に熱が蓄積していくばかり。
 自分で前を触ってイきたくても、貞操帯が邪魔をして達することができなかった。
「も、勘弁して、ください…っ」
 蝶はついに音をあげる。だらだらと貞操帯の隙間から、先走りが溢れていた。
「イきたい?」
「あ"っ…い、イきたい、イきたいです…ッ」
「なら、答えて」
 天藍は一度玩具を抜いて、うつ伏せに寝ている蝶に聞いた。
「僕のこと、本当はどう思ってるの?」
「……え?」
 その言葉に、蝶は息を整えたあと、天藍の顔を見て答えた。
「……変態上司」
「それだけ?」
「世界で一番嫌いです」
「ふーん」
 天藍はそう相槌を打って、再び蝶の中に指を入れる。
「世界で一番嫌いな相手に、股を開くような淫乱なんだね? 君は」
「……ッぁ…だ、旦那様の顔は、嫌いじゃないです」
「へえ?顔が良ければいいんだ?」
 指で中を掻き回され、快楽を逃すためにシーツを掴みながら、蝶は答える。
「手が器用なところも、す……その、嫌いじゃないです…っ」
「こういうところ?」
 中を絶え間なく責められ、蝶は甘い声を漏らした。
 天藍はくすくす笑ってから、蝶に顔を近づけて言った。
「いい加減、認めれば? 僕が好きだって」
「~~~っ……」
 その美しい青い双眸に覗かれて、蝶は自分の頬が熱くなるのを感じた。それを誤魔化すように、天藍を睨みつける。
「バカ言わないでください。毎日のように嫌がらせを受けて、私が貴方を好きになるわけないでしょう……!!」
 蝶は、自分でもわかっていた。
 共に過ごす日々を重ねた今、少なくともこの目の前の男のことを、完全に心の底から嫌いだとは言えないと。
 けれど、この性悪を好きになったなんて思いたくはない。そんなの絶対におかしい。ありえない。今叫んだ言葉は、自分自身に言った言葉でもあった。
 しかし天藍は全てを見透かしているような目で、動じずにさらりと答える。
「僕のことを四六時中考えられるように調教してるから、当たり前のはずなんだけど」
「ッ…最低、最悪、変態…っ」
 自分の本心や彼の意図がこんがらがり、わけがわからなくなる。それにいつまでもイかせてもらえないことが苦しくて、蝶はただ罵倒を吐いて枕に顔を埋めた。
「さっき、『君は僕のことを理解していない』と言ったけど。この機会に、ちゃんと教えてあげるよ」
 天藍は蝶に視線を合わせるように、寝台に横になって言った。
「僕は、快楽に抗えない君の姿が見たい」
 蝶はそれを聞いて、呆れて何度目かのため息をついた。
「……やっぱり、変態じゃないですか」
「君だって、逃げようと思えば逃げられるし、辞めようと思えば辞められるよね?どうしてこうやって体を許してるの? 今日だって、これから先の行為をしたとしても、報酬なんてないことは知ってるはずだよね」
「……それは……その……」
「黙って待っていれば気持ちよくしてもらえるなんて、蝶の方が都合がよすぎるんじゃない?」
 天藍から淡々と紡がれる言葉は、全て間違いではなく、蝶は何も否定することができなかった。
「君は僕にどうして欲しいの?」
「……………っ」
「ほら、ちゃんとお願いしてみて」
 天藍はそう言って、貞操帯の鍵を外す。
 蝶は迷った末、問いかけに答えた。
「……別に、旦那様のことが好きなわけじゃありません」
 容姿が良いこと、仕事では優秀なところは蝶も認めている。けれどその良さを上回るくらい、自分に対して嫌がらせをしてくる性格が嫌いなのは確かだった。
 「でも……」と、蝶は顔を赤らめ、小さな声で答える。
「旦那様と……こういうことをするのは、嫌いじゃないです」
 天藍は蝶の手に自分の手を重ねる。そして、弄ぶように聞き返した。
「だから?」
「………ッ」
 しつこい。でも言わないと、きっとこの状況からは解放してもらえない。
 蝶は観念して、天藍の手に自分の指を絡め、呟いた。
「だから……早く……だ、抱いてください……」
 その言葉を聞いて、天藍は笑い、蝶の手を握り返した。
「最初から、そう素直に言えばいいのに」
 そう言って、天藍はうつ伏せ蝶に覆い被る。
 そして、自分自身を彼の中に挿れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...