二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
439 / 475

当たり前の感情

しおりを挟む
 そこにいるのは気が付いていた。
 腕の中で眠る縁は気付いていないだろうが、部屋に連れてくる段階から背中に視線は感じており、しかし縁のことを考えてか止められなかっただけだ。

 「…………いいぞ」

 これなら暫く目を覚ますことはないだろうと声をかければ、静かに戸が開かれる音が聞こえた。

 「縁は?」

 「寝てる。俺は子どもたちを見てくるから後は任せていいか?」

 「ああ」
 「分かった」

 掴まれていた手を起こさないよう静かに外すとそのままアレンに握らせる。
 場所を代わるようにアレンが横になると、反対側からはセインが縁の身体に手を回していた。

 「縁に当たんなよ」

 「分かってんよ」

 こうして悩みや弱音を吐く時、縁はジークの側にくることが多い。
 ジークには嬉しい限りだが、同じ番としてアレンやセインが少々気に食わないと思うこともあるだろう。
 だがそれを言ってこないのは彼らも自分たちだけでは縁の心を理解してやることができないと分かっているから。
 ジークとて全てを理解してやることは出来ない。
 だがそれも重ねた年と、彼らより経験があることにより多少は理解してやれるだけだ。
 そのための役割分担であり、今のところそれに彼らが文句を言ってくる様子はない。

 「玲がエルのところにいる………頼む」

 「分かった」

 これも最近の変化ではあるが、アレンが自分から何かを頼んでくるようになった。
 番としての嫉妬がなくなったわけではない。
 しかしずっと縁にだけ向けられていたものが我が子が出来、守る者が増えたことによって人に頼るということを覚え始めていた。
 起こさないよう静かに部屋を出ると、子どもたちの様子を見に行く。

 「パパ、おそといきたい!」

 「は?帰ってきたばっかだろ」

 「いくの!」

 ジークを見つけた途端走り寄ってきた愛依を受け止めれば、外に行くんだと引っ張っていこうとする。

 「愛依、今日はだーめ。狩りはまた今度」

 「やだ!」

 あまりに頑なな様子にどうしたものかと思っていれば、事情を知っているらしいエルが玲を抱えてやってきた。

 「どういうこった?」

 「あっちでやった狩りが上手くいかなかったんだよ。で、今度こそって張り切ってるんだろうけど……」

 「ママやくそくしたもん!こんどはパパといくって。アイおっきいのとってあげるんだもん!」

 なんとなく話しは察することが出来たが、帰ってきたばかりであまり無理をさせたくなく、縁も休んでいることから起こすのは気が引ける。

 「分かったから、それは明日にしろ。明日ならやり方教えてやるから」

 「やだ!」

 「愛依っ!」

 「っ」

 今日行くんだと譲らない愛依に、しかし意外にもエルが声を上げ愛依を叱った。

 「今日はダメ。帰ってきたばっかでしょ?ママのために頑張りたいのは分かるけど今日はお休み」

 「~~~っ、なんで!?」

 まだ幼い愛依には納得出来ないのだろう。

 「愛依はいいかもしれないけどママは疲れてるんだよ。今無理して倒れたらどうするの?また会えなくなってもいいの?」

 「や、やだ……」

 少なからず獣人である自分と人間である縁の身体的差に気付いてはいるみたいだが、その加減がいまいち理解出来てはいないのだ。

 「なら今日は休ませてあげよう?ママが元気になったら一緒に行こう。愛依が上手く捕まえられるところママに見せてあげなきゃ。オレも見たいしさ」

 「うん」

 「…………」

 ジークが口を挟む間もなく話しは終わってしまった。
 すんなり頷いた愛依にも驚いたが、エルが叱るという今まで見られなかった光景に何より驚いた。

 「オ、オレだって叱る時はちゃんと叱れるし………。いや、まぁエニシに言われたからなんだけどさ。気を付けるようにはしてる」

 ジークの視線に気付いたのか、気まずそうな顔をしながらも自分は兄なんだからそれぐらいしないとと口を尖らせている。
 その表情からエルも子どもたちを叱る意味をきちんと理解しているのだろう。

 「甘やかすだけじゃダメだってエニシも言ってたし。エニシって辛くても自分から言わないから休ませんのも大事でしょ?」

 自身が知らない内に周りも成長していっているのだと理解する。
 それは見た目の問題だけではなく、アレンやエルなど心の強さもその内の1つだろう。

 「お前も縁のことよく分かってきたみてぇだな」

 「ははっ、でしょ!…………それに、オレもエニシには少しでも長生きして欲しいしさ」

 ジークたち獣人以上に長寿であるエルにはこの時間もきっと大切な思い出なのだろう。
 短いからこそ大切であり、無くさないように必死に足掻いてもいる。

 「………そうか。悪いな」

 結局ジークも今はもう置いていく側でしかない。
 どんなに気を付けていても死はいずれ訪れるものであり、年齢的にもジークが先か縁が先かの違いだ。
 残される側の苦しみも悲しみも理解しているからこそ、エルに申し訳なく頼りにもしている。

 「ううん。オレ今すっごい楽しいよ。繋と愛依の花嫁姿も見届けあげないといけないしね!」

 「それは一生なくていい!」

 親バカだねぇと笑うエルに、お前も親になれば分かるとガシガシと頭を撫で回してやるのだった。


 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

偽物の番は溺愛に怯える

にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』 最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。 まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...