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愛しいバカ
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優しいが故に迷い傷付く縁に大丈夫だからと抱き寄せる。
「縁が言いたいことも分かる。けどな、今やっと人として生活できるようになったアイツらにそれはいらん心配だ。そもそも誰かがそんなこと言ったのか?お前は最低な人間だって」
鼻を啜りながらも違うと首を振るのをそうだろうと微笑む。
お婆さんは別として、ジークはあの場所に住む彼らに会ったことは一度もない。
会いたいと思ったことも、見に行きたいと思ったこともない。
それでも自分が彼らと同じ立場だったらと考えることはある。
「唆したって言ったがそれでも選ぶ機会はちゃんとあったんだろ?そのサウルってガキが本当にお前のこと信じられねぇってなら逃げることも出来たんだ。でもそうしないことを選んだんだ」
殆どそう選ぶよう促していたとしても、本当に嫌だと思えば拒否することも出来たのだ。
それでも選び、信じたのは、信じてもらえるよう縁が行動したからのはずだ。
「一緒に住むよう強要したってのも最初だけだろ?その2人を買ってから何日経った?今も嫌がってんのか?」
無言で首を振る姿は予想通り。
本当に彼女たちが嫌がっていたならば、縁は違う場所を彼女たちに提案していただろう。
「怪我を治してやらなかったのも逆に言えば、それでも見捨てることはしないって周りに分かってもらう意味もあったんだろ?大体、怪我してっからって誰でも治してやってたら切りがねぇ。今治してやって、次もまた治してやんのか?その次は?いつもいつもお前が駆け付けられるわけでもねぇだろ」
縁はあくまでも彼らの手助けをしているだけなのだ。
大切に想ってはいるだろうが、ジークたちと比べれば自分たちに比重が傾く。
「あと、なんだ?人質だったか?あれで人質ってんなら贅沢なもんだな。いくら失敗しても食うにも寝るにも困ることはねぇんだ。それで人質だってんなら、他にもなりたいって奴は山程いんだろ」
見返りに働けと言うなど当たり前のことだ。
いくら働けど給金もなく、生きていくのもやっとの獣人とは比べれば幸せなものだ。
「お前がどう思おうと、そいつらにしたらお前は全てを与えてくれた人間なんだよ。本当にそう思ってっからありがとうなんだろ?」
それだけの生活を与えておきながら、では縁にどんな見返りがあるかと言えばそんなものはない。
獣人と人間が手を取り合ってほしいから?そうなったところで縁にどう旨みがあるというのか。
「俺はそのガキ共に会ったことはねぇが、もし同じ立場だったら俺も縁に感謝してると思うぞ」
獣人もそうだが、孤児が1人で生きていくなどそう保たないはずだ。
運良く生きていけてたとしても碌にとれない食事に身体は弱り、生きるために盗みを働かなければならない時もあるだろう。
身体を壊し、明日への希望もない毎日に心は壊れ生きていけるわけがない。
「それともあれか?もっと自分よりいい人間がいたんじゃねぇかとでも思ってんのか?そんなもんいるわけねぇだろ」
そんな人間がいればそもそも孤児なぞ存在していないだろう。
縁が彼らに与えたものを他の人間が与えようとすればどれだけの力と時間、金が必要になってくるのか。
それだけではなく、そこに導くまでの信頼を得るための努力と愛情を注げるだけの心の広さと深さが必要なのだ。
はっきり言ってそんな人間いるわけがない。勿論縁を除いて。
「お前だから出来た。お前だからガキ共も付いてきた。お前だから信用した。お前だからーーみんな幸せだって笑ってられんだ」
「………本当に?」
「俺はお前の番だぞ。信用しろよ」
漸く顔を上げた顔にコツンと額を合わせると笑って幸せだと囁いてやる。
「俺たちが縁といて幸せだって思ってるみてぇにガキ共もきっとそう思ってる。何も関係ねぇ他人にあれだけ与えてやってんだ、少しぐらいこっちの思う通り動いてもらって何が悪ぃんだよ」
それでさえ選ぶ決定権を与えている。
いくら縁が唆したと言っても最終的に選んだのは彼らなのだ。
少なからず下心があっての優しさとはいえ、それ以上のものを縁は彼らに与えている。
縁の愛情に嘘はない。言っていることも嘘ではない。ただ全てを話してはいないというだけなのだ。
「もしそれでもお前を悪いと言う奴がいりゃあ俺に言え。そいつの横っ面張り倒してやるよ。それまでして面倒みてやる必要もねぇしな」
そんなこと言う人間が1人でもいたなら縁の意思とは関係なく、彼らとはもう関わるなと自分は言うだろう。
じゃあ後は自分たちだけでさっさとのたれ死ねと鼻で笑い死ぬのを指折り数えてやる。
「…………ない……すか?」
「ん?」
「こんな私でも…ジークは嫌い、にならないですか?」
バカだ。とんでもなくバカだ。だが愛しいバカだ。
そんなわけあるはずがないのに。
「バカヤロウ。それぐらいで嫌いになるなら番になりてぇなんて初めっから言ってねぇよ」
エリー以上に度胸があり、突拍子もない言動にジークたちも常々振り回されっぱなしではあるが、それが嫌だと思ったことは一度もない。
むしろ楽しいとさえ思えるのだから自分も大概であり、お似合いじゃないか。
「前に言ったろ?俺の全てはお前のもんだって」
いい加減分かれよと笑うとバカを言うその口に噛み付くのだった。
「縁が言いたいことも分かる。けどな、今やっと人として生活できるようになったアイツらにそれはいらん心配だ。そもそも誰かがそんなこと言ったのか?お前は最低な人間だって」
鼻を啜りながらも違うと首を振るのをそうだろうと微笑む。
お婆さんは別として、ジークはあの場所に住む彼らに会ったことは一度もない。
会いたいと思ったことも、見に行きたいと思ったこともない。
それでも自分が彼らと同じ立場だったらと考えることはある。
「唆したって言ったがそれでも選ぶ機会はちゃんとあったんだろ?そのサウルってガキが本当にお前のこと信じられねぇってなら逃げることも出来たんだ。でもそうしないことを選んだんだ」
殆どそう選ぶよう促していたとしても、本当に嫌だと思えば拒否することも出来たのだ。
それでも選び、信じたのは、信じてもらえるよう縁が行動したからのはずだ。
「一緒に住むよう強要したってのも最初だけだろ?その2人を買ってから何日経った?今も嫌がってんのか?」
無言で首を振る姿は予想通り。
本当に彼女たちが嫌がっていたならば、縁は違う場所を彼女たちに提案していただろう。
「怪我を治してやらなかったのも逆に言えば、それでも見捨てることはしないって周りに分かってもらう意味もあったんだろ?大体、怪我してっからって誰でも治してやってたら切りがねぇ。今治してやって、次もまた治してやんのか?その次は?いつもいつもお前が駆け付けられるわけでもねぇだろ」
縁はあくまでも彼らの手助けをしているだけなのだ。
大切に想ってはいるだろうが、ジークたちと比べれば自分たちに比重が傾く。
「あと、なんだ?人質だったか?あれで人質ってんなら贅沢なもんだな。いくら失敗しても食うにも寝るにも困ることはねぇんだ。それで人質だってんなら、他にもなりたいって奴は山程いんだろ」
見返りに働けと言うなど当たり前のことだ。
いくら働けど給金もなく、生きていくのもやっとの獣人とは比べれば幸せなものだ。
「お前がどう思おうと、そいつらにしたらお前は全てを与えてくれた人間なんだよ。本当にそう思ってっからありがとうなんだろ?」
それだけの生活を与えておきながら、では縁にどんな見返りがあるかと言えばそんなものはない。
獣人と人間が手を取り合ってほしいから?そうなったところで縁にどう旨みがあるというのか。
「俺はそのガキ共に会ったことはねぇが、もし同じ立場だったら俺も縁に感謝してると思うぞ」
獣人もそうだが、孤児が1人で生きていくなどそう保たないはずだ。
運良く生きていけてたとしても碌にとれない食事に身体は弱り、生きるために盗みを働かなければならない時もあるだろう。
身体を壊し、明日への希望もない毎日に心は壊れ生きていけるわけがない。
「それともあれか?もっと自分よりいい人間がいたんじゃねぇかとでも思ってんのか?そんなもんいるわけねぇだろ」
そんな人間がいればそもそも孤児なぞ存在していないだろう。
縁が彼らに与えたものを他の人間が与えようとすればどれだけの力と時間、金が必要になってくるのか。
それだけではなく、そこに導くまでの信頼を得るための努力と愛情を注げるだけの心の広さと深さが必要なのだ。
はっきり言ってそんな人間いるわけがない。勿論縁を除いて。
「お前だから出来た。お前だからガキ共も付いてきた。お前だから信用した。お前だからーーみんな幸せだって笑ってられんだ」
「………本当に?」
「俺はお前の番だぞ。信用しろよ」
漸く顔を上げた顔にコツンと額を合わせると笑って幸せだと囁いてやる。
「俺たちが縁といて幸せだって思ってるみてぇにガキ共もきっとそう思ってる。何も関係ねぇ他人にあれだけ与えてやってんだ、少しぐらいこっちの思う通り動いてもらって何が悪ぃんだよ」
それでさえ選ぶ決定権を与えている。
いくら縁が唆したと言っても最終的に選んだのは彼らなのだ。
少なからず下心があっての優しさとはいえ、それ以上のものを縁は彼らに与えている。
縁の愛情に嘘はない。言っていることも嘘ではない。ただ全てを話してはいないというだけなのだ。
「もしそれでもお前を悪いと言う奴がいりゃあ俺に言え。そいつの横っ面張り倒してやるよ。それまでして面倒みてやる必要もねぇしな」
そんなこと言う人間が1人でもいたなら縁の意思とは関係なく、彼らとはもう関わるなと自分は言うだろう。
じゃあ後は自分たちだけでさっさとのたれ死ねと鼻で笑い死ぬのを指折り数えてやる。
「…………ない……すか?」
「ん?」
「こんな私でも…ジークは嫌い、にならないですか?」
バカだ。とんでもなくバカだ。だが愛しいバカだ。
そんなわけあるはずがないのに。
「バカヤロウ。それぐらいで嫌いになるなら番になりてぇなんて初めっから言ってねぇよ」
エリー以上に度胸があり、突拍子もない言動にジークたちも常々振り回されっぱなしではあるが、それが嫌だと思ったことは一度もない。
むしろ楽しいとさえ思えるのだから自分も大概であり、お似合いじゃないか。
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