318 / 475
迎えに
しおりを挟む
頭の中で声が聞こえた。
痛みと安堵に気を失っていたはずの中、起きろとばかりに響き渡る声に何事だと目を開ける。
「大丈夫かい!?」
「「「ママっ!」」」
突如目を覚ました縁にマーガレットたちが心配そうに声をかけてくるが、未だ頭に響く声に返事をする。
「(リル?……何がありました?)」
「(以前言ったであろう?魔族の子だ。暴走しかけておる)」
すぐにアズのことだと分かった。
ならばいくら身体が痛もうと行かなければ。
起き上がろうとする縁に慌ててマーガレットたちが止めようとするが、それを制し何とか立ち上がる。
「お婆ちゃん、お願いを聞いてくれますか?」
「………イヤだって言っても聞かないんだろ」
彼女がいてくれて助かった。
繋の治癒のおかげか立ち上がることは出来たが、痛みに震える手足は自分だけで歩いて行くには無理がある。
「みんなの所に行きたいんです。運んでもらえますか?」
「城に戻るのかい!?ダメだ!ダメだダメだダメだ!そんな怪我なんだ。君はここでみんなの帰りを待っていればーー」
「今行かないと私はきっと一生後悔します」
ジンがそんなこと許さないとばかりに止めに入るが、彼が止めるだろうことは初めから予想していた。
だからこそのマーガレットだ。
「お婆ちゃん………お願い」
「………………………はぁぁぁ、分かったよ」
「マーガレット!?」
「アンタは繋たちを見てな。ほらさっさと行くよ」
大きな溜息を吐きながらも頷いてくれたマーガレットに情けないがおんぶしてもらうと城まで運んでもらう。
繋たちには必ず戻ってくると約束し、納得してはいないのだろう渋い顔をするジンに子どもたちを任せた。
「(急いだ方がいい。ダメならば其方の子とは言えーー殺さねばならん)」
周りに被害を出す前に対処しなければならないというリルの声にどうか間に合ってくれと願う。
優しい、優しい子なのだ。
いくら縁がそんなに頑張らなくていいと言っても強くなるんだと頑張っていたのを知っている。
強くなってママを守るんだ、ママの役に立つんだと張り切る姿はとても可愛いがそんなに早く大人になる必要はないと何度も思った。
アズもきっとまた縁と同じように家族を失くすことを怖がっている。
家族というよりママである縁を、だろう。
大好きだからこそ捨てられたくない。
大好きだからこそ役に立ちたい。
役に立たなければ捨てられる。
最近では言うことも少なくなったが、前まで何かある度に「アズいらない?」と聞いてくる姿に悲しくなった。
アズを捨てるなど有り得ない。考えたことすらない。
少しでもその不安がなくなればと大好きだと、ずっと一緒だと伝えてきてはいた。
それがどれほど伝わっているかは本人にしか分からないが、不安に揺れる瞳がなくなったことに最近は安堵していたというのに。
あの男のことだ、縁のことか家族のことで何か言ったに違いない。
本当に碌でもない父親だ。
あの男が死のうがどうでもいいが、大切な我が子に手を出すのは許さない。
「(リル。エルは?)」
何とか止めることは出来ないかと一緒にいるであろうエルのことを聞くが、あまりの怒りに誰の声も聞こえていないらしい。
男の相手をしながらアズを止めるのに手を焼いているだろう。
「お婆ちゃん……ごめんなさい」
「何がだい?迷惑かけたと思って謝ってんならそんなものいらないよ。むしろもっと私たちを頼りな。伊達に歳食ってないんだ。アンタたちが何か悩んでるなら助言の1つくらいしてやれるよ」
迷惑も心配もいっぱいかけているだろうに見離すこともなく側にいてくれる。
「ありがとう、ございます。2人が来てくれて………すごく嬉しい」
「当たり前さね。大事な孫が危ないって言われて放っておくなんて出来るわけないだろ」
この2人に出会えてよかった。
何故これほど気に入ってくれたかは分からないが、この2人に出会えたからこそ出来たことも助けられたことも多くある。
「怪我が治ったら繋と3人でお出かけしませんか?町で色んなものを食べて、色んなものを買って。お婆ちゃんと一緒に町を見て回りたいです」
「いいね。今日は繋が頑張ってくれたからね。ご褒美を買ってやらないと」
縁の提案にマーガレットも嬉しそうに頷いてくれる。
やはり血の繋がりだけが全てではない。
血が繋がっていようと心が繋がっていなければ意味はないのだ。
血が繋がっていようと心ない言葉で子を傷付ける親もいれば、そんなものいらないと捨てる親もいる。
逆に血が繋がっていなくとも我が子のように可愛いがる親もいる。
多くの関係があるが、それでも幸せだと笑う子の笑顔を、幸せだねと言い合える関係を築きたい。
こうしてマーガレットと楽しみだねと言い合えるように。
さぁ行かないと!
大切な大切な我が子を迎えに。
痛みと安堵に気を失っていたはずの中、起きろとばかりに響き渡る声に何事だと目を開ける。
「大丈夫かい!?」
「「「ママっ!」」」
突如目を覚ました縁にマーガレットたちが心配そうに声をかけてくるが、未だ頭に響く声に返事をする。
「(リル?……何がありました?)」
「(以前言ったであろう?魔族の子だ。暴走しかけておる)」
すぐにアズのことだと分かった。
ならばいくら身体が痛もうと行かなければ。
起き上がろうとする縁に慌ててマーガレットたちが止めようとするが、それを制し何とか立ち上がる。
「お婆ちゃん、お願いを聞いてくれますか?」
「………イヤだって言っても聞かないんだろ」
彼女がいてくれて助かった。
繋の治癒のおかげか立ち上がることは出来たが、痛みに震える手足は自分だけで歩いて行くには無理がある。
「みんなの所に行きたいんです。運んでもらえますか?」
「城に戻るのかい!?ダメだ!ダメだダメだダメだ!そんな怪我なんだ。君はここでみんなの帰りを待っていればーー」
「今行かないと私はきっと一生後悔します」
ジンがそんなこと許さないとばかりに止めに入るが、彼が止めるだろうことは初めから予想していた。
だからこそのマーガレットだ。
「お婆ちゃん………お願い」
「………………………はぁぁぁ、分かったよ」
「マーガレット!?」
「アンタは繋たちを見てな。ほらさっさと行くよ」
大きな溜息を吐きながらも頷いてくれたマーガレットに情けないがおんぶしてもらうと城まで運んでもらう。
繋たちには必ず戻ってくると約束し、納得してはいないのだろう渋い顔をするジンに子どもたちを任せた。
「(急いだ方がいい。ダメならば其方の子とは言えーー殺さねばならん)」
周りに被害を出す前に対処しなければならないというリルの声にどうか間に合ってくれと願う。
優しい、優しい子なのだ。
いくら縁がそんなに頑張らなくていいと言っても強くなるんだと頑張っていたのを知っている。
強くなってママを守るんだ、ママの役に立つんだと張り切る姿はとても可愛いがそんなに早く大人になる必要はないと何度も思った。
アズもきっとまた縁と同じように家族を失くすことを怖がっている。
家族というよりママである縁を、だろう。
大好きだからこそ捨てられたくない。
大好きだからこそ役に立ちたい。
役に立たなければ捨てられる。
最近では言うことも少なくなったが、前まで何かある度に「アズいらない?」と聞いてくる姿に悲しくなった。
アズを捨てるなど有り得ない。考えたことすらない。
少しでもその不安がなくなればと大好きだと、ずっと一緒だと伝えてきてはいた。
それがどれほど伝わっているかは本人にしか分からないが、不安に揺れる瞳がなくなったことに最近は安堵していたというのに。
あの男のことだ、縁のことか家族のことで何か言ったに違いない。
本当に碌でもない父親だ。
あの男が死のうがどうでもいいが、大切な我が子に手を出すのは許さない。
「(リル。エルは?)」
何とか止めることは出来ないかと一緒にいるであろうエルのことを聞くが、あまりの怒りに誰の声も聞こえていないらしい。
男の相手をしながらアズを止めるのに手を焼いているだろう。
「お婆ちゃん……ごめんなさい」
「何がだい?迷惑かけたと思って謝ってんならそんなものいらないよ。むしろもっと私たちを頼りな。伊達に歳食ってないんだ。アンタたちが何か悩んでるなら助言の1つくらいしてやれるよ」
迷惑も心配もいっぱいかけているだろうに見離すこともなく側にいてくれる。
「ありがとう、ございます。2人が来てくれて………すごく嬉しい」
「当たり前さね。大事な孫が危ないって言われて放っておくなんて出来るわけないだろ」
この2人に出会えてよかった。
何故これほど気に入ってくれたかは分からないが、この2人に出会えたからこそ出来たことも助けられたことも多くある。
「怪我が治ったら繋と3人でお出かけしませんか?町で色んなものを食べて、色んなものを買って。お婆ちゃんと一緒に町を見て回りたいです」
「いいね。今日は繋が頑張ってくれたからね。ご褒美を買ってやらないと」
縁の提案にマーガレットも嬉しそうに頷いてくれる。
やはり血の繋がりだけが全てではない。
血が繋がっていようと心が繋がっていなければ意味はないのだ。
血が繋がっていようと心ない言葉で子を傷付ける親もいれば、そんなものいらないと捨てる親もいる。
逆に血が繋がっていなくとも我が子のように可愛いがる親もいる。
多くの関係があるが、それでも幸せだと笑う子の笑顔を、幸せだねと言い合える関係を築きたい。
こうしてマーガレットと楽しみだねと言い合えるように。
さぁ行かないと!
大切な大切な我が子を迎えに。
42
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる