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25 病
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「最近妙な声が聞こえるの」
「へぇ……怨念か何かささやいてるんじゃない?」
「そうなのかなぁ………」
とても暑い猛暑日。娘は文机にぐったりとへばりつきながら何故か部屋に入り浸っている御津羽と暇を潰していた。最近結構な頻度で娘の自室に遊びに来るようになり、その度に礼花に追い出され、けれど懲りずに畳の上で寝っ転がっている。あれ以来無理やり迫られて怨念狩りされるということはない。黙っていればただのいい子であった。
「怨念はあまり溜め込まない方がいいよ。どうする?僕がとってあげようか?」
「遠慮しときます」
娘の方に手を伸ばしてきたのでその手を振り払う。こんな暑い日に部屋に2人などほんと暑苦しい。御津羽は静かに笑うと体を起こし懐から赤い糸を取り出した。そして1人であやとりを始める。娘はそれを横目で見ながら最近の悩みである謎の声の正体について考えた。それに懐かしい感覚がする現象だってまだよくわかっていない。
「君ってさ」
御津羽が唐突に話し出した。手元の赤い糸は綺麗なあみができている。娘は御津羽のことを見ると彼はこちらを何か探るような目で見る。
「奥方様にそっくりなんだよね…」
「そんなに?」
「うん、雰囲気とかが特に。もしかして奥方様が怨念になって取り憑いてるとか?でもそんなことあるはずないんだけどなぁ…」
これまで会ってきたほとんどの水神から言われているような気がする。何故だろう、子孫に私が入っているのだろうか。けれど奥方様は子供を授かっているのだろうか?疑問に思い娘は御津羽に聞いた。
「当主様と奥方様に子供はいたの?」
「いや、いないね」
「じゃあ私が子孫ということはないのね」
ないというとただの運命的なそっくりさんになる。更に娘の奥方様そっくり問題に謎が深まった。悩みすぎて頭が痛くなりそうになった時、御津羽が立ち上がり障子を開いて部屋を出て行こうとする。
「どうしたの?」
「ナギが来るから僕は邪魔かなって思って、じゃあね。また来るよ」
そう言い赤い目を細めて部屋を出て行った。数分後また障子が開く。御津羽が言う通りナギが訪ねてきた。ナギは少し不機嫌そうな顔をしたまま娘の部屋に入ってきて、側まで来ると畳の上に座った。唐突の訪問に娘が視線を彷徨わせているとナギが口を開く。
「御津羽がいたが何もされてないか?」
「何もされてないよ……」
娘はため息をついた。みんないつも御津羽に何もされてないか安否を尋ねてくる。そろそろ過保護もほどほどにしてほしい。そんなことはさておき目の前に恋している人物がいると流石に娘も戸惑う。あまり目線を合わせずにナギに質問する。
「それより、どうしてここにきたの?」
「あぁ、お前の両親についてのことなんだが….」
両親という言葉を聞いて娘は目を見開きナギを見た。ナギは娘の目をしっかり見て話してくれる。
「一度一緒に村に行って確認してこよう。もし辛ければ無理にとは言わないが…」
「行く」
娘は即答していた。気がかりなのは娘自身のことだけではない、両親も同様。儀式から逃げ出してしまった娘の責任を取り苦しい生活を強いられているかもしれないのだ、それだけはどうにかしても避けたい案件だった。ただ幸せに生きていてほしい、娘は今も生きている、勝手なことかもしれないけれどそれだけでも伝えたかった。
ナギは娘が色々と早まった考えをしているのを感じたのか「まて」と言い話を続ける。
「両親に会いたいのは痛いほどわかる。けれど今回ばかりは人間の目が届くところに出るため変装していく。両親の安否が確認できたらそのまま帰る」
「話せないの……?」
「残念だが今回ばかりは話せない」
「……そう、分かった。匿ってもらってる身だもの、わがままは言わないわ」
娘は少しだけ舞い上がっていた心を落ち着かせる。ナギはそんな娘の様子を見て少しだけ心配そうな表情をすると娘の頭を撫でてくる。
「明日出発する。生贄の娘とバレないように男装していくぞ」
「あの、それは分かったのだけれど頭を撫でるのやめてよ」
娘は俯く。恥ずかしい、触れられるとそれだけで意識してしまうのだからやめてほしい。
ナギは頭から手を離すと娘のことを覗き込む。そして頬に手を添えるとそのまま顔を近づけて、耳へと口付けされる。そして離れて不敵な笑みを見せると立ち上がり部屋を出て行った。
「…………………………」
しばらく放心状態が続いた。一瞬のことすぎて理解できない。ただ耳が猛烈にじんじんと熱をおびていることだけは分かる。
「からかわれたっ‼︎」
今日一日中娘はそのことで頭がいっぱいだった。
恋とは恐ろしい病。
「へぇ……怨念か何かささやいてるんじゃない?」
「そうなのかなぁ………」
とても暑い猛暑日。娘は文机にぐったりとへばりつきながら何故か部屋に入り浸っている御津羽と暇を潰していた。最近結構な頻度で娘の自室に遊びに来るようになり、その度に礼花に追い出され、けれど懲りずに畳の上で寝っ転がっている。あれ以来無理やり迫られて怨念狩りされるということはない。黙っていればただのいい子であった。
「怨念はあまり溜め込まない方がいいよ。どうする?僕がとってあげようか?」
「遠慮しときます」
娘の方に手を伸ばしてきたのでその手を振り払う。こんな暑い日に部屋に2人などほんと暑苦しい。御津羽は静かに笑うと体を起こし懐から赤い糸を取り出した。そして1人であやとりを始める。娘はそれを横目で見ながら最近の悩みである謎の声の正体について考えた。それに懐かしい感覚がする現象だってまだよくわかっていない。
「君ってさ」
御津羽が唐突に話し出した。手元の赤い糸は綺麗なあみができている。娘は御津羽のことを見ると彼はこちらを何か探るような目で見る。
「奥方様にそっくりなんだよね…」
「そんなに?」
「うん、雰囲気とかが特に。もしかして奥方様が怨念になって取り憑いてるとか?でもそんなことあるはずないんだけどなぁ…」
これまで会ってきたほとんどの水神から言われているような気がする。何故だろう、子孫に私が入っているのだろうか。けれど奥方様は子供を授かっているのだろうか?疑問に思い娘は御津羽に聞いた。
「当主様と奥方様に子供はいたの?」
「いや、いないね」
「じゃあ私が子孫ということはないのね」
ないというとただの運命的なそっくりさんになる。更に娘の奥方様そっくり問題に謎が深まった。悩みすぎて頭が痛くなりそうになった時、御津羽が立ち上がり障子を開いて部屋を出て行こうとする。
「どうしたの?」
「ナギが来るから僕は邪魔かなって思って、じゃあね。また来るよ」
そう言い赤い目を細めて部屋を出て行った。数分後また障子が開く。御津羽が言う通りナギが訪ねてきた。ナギは少し不機嫌そうな顔をしたまま娘の部屋に入ってきて、側まで来ると畳の上に座った。唐突の訪問に娘が視線を彷徨わせているとナギが口を開く。
「御津羽がいたが何もされてないか?」
「何もされてないよ……」
娘はため息をついた。みんないつも御津羽に何もされてないか安否を尋ねてくる。そろそろ過保護もほどほどにしてほしい。そんなことはさておき目の前に恋している人物がいると流石に娘も戸惑う。あまり目線を合わせずにナギに質問する。
「それより、どうしてここにきたの?」
「あぁ、お前の両親についてのことなんだが….」
両親という言葉を聞いて娘は目を見開きナギを見た。ナギは娘の目をしっかり見て話してくれる。
「一度一緒に村に行って確認してこよう。もし辛ければ無理にとは言わないが…」
「行く」
娘は即答していた。気がかりなのは娘自身のことだけではない、両親も同様。儀式から逃げ出してしまった娘の責任を取り苦しい生活を強いられているかもしれないのだ、それだけはどうにかしても避けたい案件だった。ただ幸せに生きていてほしい、娘は今も生きている、勝手なことかもしれないけれどそれだけでも伝えたかった。
ナギは娘が色々と早まった考えをしているのを感じたのか「まて」と言い話を続ける。
「両親に会いたいのは痛いほどわかる。けれど今回ばかりは人間の目が届くところに出るため変装していく。両親の安否が確認できたらそのまま帰る」
「話せないの……?」
「残念だが今回ばかりは話せない」
「……そう、分かった。匿ってもらってる身だもの、わがままは言わないわ」
娘は少しだけ舞い上がっていた心を落ち着かせる。ナギはそんな娘の様子を見て少しだけ心配そうな表情をすると娘の頭を撫でてくる。
「明日出発する。生贄の娘とバレないように男装していくぞ」
「あの、それは分かったのだけれど頭を撫でるのやめてよ」
娘は俯く。恥ずかしい、触れられるとそれだけで意識してしまうのだからやめてほしい。
ナギは頭から手を離すと娘のことを覗き込む。そして頬に手を添えるとそのまま顔を近づけて、耳へと口付けされる。そして離れて不敵な笑みを見せると立ち上がり部屋を出て行った。
「…………………………」
しばらく放心状態が続いた。一瞬のことすぎて理解できない。ただ耳が猛烈にじんじんと熱をおびていることだけは分かる。
「からかわれたっ‼︎」
今日一日中娘はそのことで頭がいっぱいだった。
恋とは恐ろしい病。
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