生贄の娘と水神様〜厄介事も神とならば〜

沙耶味茜

文字の大きさ
上 下
31 / 48

25 病

しおりを挟む
「最近妙な声が聞こえるの」
「へぇ……怨念か何かささやいてるんじゃない?」
「そうなのかなぁ………」

とても暑い猛暑日。娘は文机にぐったりとへばりつきながら何故か部屋に入り浸っている御津羽みつはと暇を潰していた。最近結構な頻度で娘の自室に遊びに来るようになり、その度に礼花れいかに追い出され、けれど懲りずに畳の上で寝っ転がっている。あれ以来無理やり迫られて怨念狩りされるということはない。黙っていればただのいい子であった。

「怨念はあまり溜め込まない方がいいよ。どうする?僕がとってあげようか?」
「遠慮しときます」

娘の方に手を伸ばしてきたのでその手を振り払う。こんな暑い日に部屋に2人などほんと暑苦しい。御津羽みつはは静かに笑うと体を起こし懐から赤い糸を取り出した。そして1人であやとりを始める。娘はそれを横目で見ながら最近の悩みである謎の声の正体について考えた。それに懐かしい感覚がする現象だってまだよくわかっていない。

「君ってさ」

御津羽が唐突に話し出した。手元の赤い糸は綺麗なあみができている。娘は御津羽みつはのことを見ると彼はこちらを何か探るような目で見る。

「奥方様にそっくりなんだよね…」
「そんなに?」
「うん、雰囲気とかが特に。もしかして奥方様が怨念になって取り憑いてるとか?でもそんなことあるはずないんだけどなぁ…」

これまで会ってきたほとんどの水神から言われているような気がする。何故だろう、子孫に私が入っているのだろうか。けれど奥方様は子供を授かっているのだろうか?疑問に思い娘は御津羽に聞いた。

「当主様と奥方様に子供はいたの?」
「いや、いないね」
「じゃあ私が子孫ということはないのね」

ないというとただの運命的なそっくりさんになる。更に娘の奥方様そっくり問題に謎が深まった。悩みすぎて頭が痛くなりそうになった時、御津羽みつはが立ち上がり障子を開いて部屋を出て行こうとする。

「どうしたの?」
「ナギが来るから僕は邪魔かなって思って、じゃあね。また来るよ」

そう言い赤い目を細めて部屋を出て行った。数分後また障子が開く。御津羽が言う通りナギが訪ねてきた。ナギは少し不機嫌そうな顔をしたまま娘の部屋に入ってきて、側まで来ると畳の上に座った。唐突の訪問に娘が視線を彷徨わせているとナギが口を開く。

「御津羽がいたが何もされてないか?」
「何もされてないよ……」

娘はため息をついた。みんないつも御津羽に何もされてないか安否を尋ねてくる。そろそろ過保護もほどほどにしてほしい。そんなことはさておき目の前に恋している人物がいると流石に娘も戸惑う。あまり目線を合わせずにナギに質問する。

「それより、どうしてここにきたの?」
「あぁ、お前の両親についてのことなんだが….」

両親という言葉を聞いて娘は目を見開きナギを見た。ナギは娘の目をしっかり見て話してくれる。

「一度一緒に村に行って確認してこよう。もし辛ければ無理にとは言わないが…」
「行く」

娘は即答していた。気がかりなのは娘自身のことだけではない、両親も同様。儀式から逃げ出してしまった娘の責任を取り苦しい生活を強いられているかもしれないのだ、それだけはどうにかしても避けたい案件だった。ただ幸せに生きていてほしい、娘は今も生きている、勝手なことかもしれないけれどそれだけでも伝えたかった。
ナギは娘が色々と早まった考えをしているのを感じたのか「まて」と言い話を続ける。

「両親に会いたいのは痛いほどわかる。けれど今回ばかりは人間の目が届くところに出るため変装していく。両親の安否が確認できたらそのまま帰る」
「話せないの……?」
「残念だが今回ばかりは話せない」
「……そう、分かった。匿ってもらってる身だもの、わがままは言わないわ」

娘は少しだけ舞い上がっていた心を落ち着かせる。ナギはそんな娘の様子を見て少しだけ心配そうな表情をすると娘の頭を撫でてくる。

「明日出発する。生贄の娘とバレないように男装していくぞ」
「あの、それは分かったのだけれど頭を撫でるのやめてよ」

娘は俯く。恥ずかしい、触れられるとそれだけで意識してしまうのだからやめてほしい。
ナギは頭から手を離すと娘のことを覗き込む。そして頬に手を添えるとそのまま顔を近づけて、耳へと口付けされる。そして離れて不敵な笑みを見せると立ち上がり部屋を出て行った。

「…………………………」

しばらく放心状態が続いた。一瞬のことすぎて理解できない。ただ耳が猛烈にじんじんと熱をおびていることだけは分かる。

「からかわれたっ‼︎」

今日一日中娘はそのことで頭がいっぱいだった。
恋とは恐ろしいやまい
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー

ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
T-4ブルーインパルスとして生を受けた#725は専任整備士の青井翼に恋をした。彼の手の温もりが好き、その手が私に愛を教えてくれた。その手の温もりが私を人にした。 機械にだって心がある。引退を迎えて初めて知る青井への想い。 #725が引退した理由は作者の勝手な想像であり、退役後の扱いも全てフィクションです。 その後の二人で整備員を束ねている坂東三佐は、鏡野ゆう様の「今日も青空、イルカ日和」に出ておられます。お名前お借りしました。ご許可いただきありがとうございました。 ※小説化になろうにも投稿しております。

処理中です...