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6 水神
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微かに話し声が聞こえてきた。目を開くと木造の天井が見える。そのまま天井を見つめていると子供のような声が耳に鮮明に入ってきた。
「ナギ様が泥沼に突っ込んだ時はどうなるかと思いましたね」
「あんな儀式やったって意味ないのに。人間は馬鹿だなぁ」
目を開いたまま会話に意識を傾けていると、突然視界に何かが入ってきた。
「起きてます」
「え?起きてる??」
白い髪色に金色に光る瞳を持つ少年2人がこちらを覗き込んできた。明らかに人間離れしている容貌に目を見開く。
「礼花様に知らせてきます」
「行ってらっしゃ~い」
珍しい瞳の色と髪色に思わず目を見開き凝視してしまう。今までに白髪なんて歳をとったおばばしか知らない。普段、黒髪しか見たことがなかったため真っ白い絹のような艶のある白髪に思わず息を呑む。黒眼ではなく金眼なのも現実離れしすぎていて、やはりここは死後の世界でこの2人は何かの神様なのではないかと思ってしまう。
「そんなに見つめてきてどうしたん?喋れないの?」
「いや………………あの」
「喋れるじゃーん。声がちょっと掠れてるね、もう少し待ってて」
娘は驚きつつも少年の優しい言葉に少しだけ安堵を覚える。
しばらく思考を停止させて天井を見つめていると足音が聞こえてきた。
足音はそのままこちらへとやってくる。
障子が開く音が聞こえ、娘は音のする方を見るとそこには先程の少年1人と見知らぬ長身の漢が立っていた。
「生きてる…………よかったぁ~~!」
1人の男は娘を見るなり大袈裟に肩を落とす。すると先程の呼びに言った少年がひょっこりと出てきてこう言った。
「沼の中から引きずり出してくれた方はナギ様ですが、その後看病してくださった方はこちらの礼花様です」
礼花という男は娘の側まで来て正座すると優しく手つきで頭を撫でてくる。
「辛い思いをさせてごめんね……」
子供をあやすように礼花は言った。
娘はここに居る人が村の人ではないということに安心し、ゆっくりと体をおこす。
いまだ、どういう人なのかわからないが危害を加えてくる様子はなかった。
「あの………ありがとうございます…」
「いえいえ、それより3日間意識が戻らなかったので心配しました……お腹空いたよね?胃に優しいものを持ってくるので安静にして待っていてください」
礼花はそう言うと立ち上がりどこかへと行ってしまった。
娘は3日間も寝ていたという事実に鳥肌がたった。けれど1つだけ薄ら気づいたことがある。ここは死後の世界ではなく、あまりにも現実味がある。
「国、おはじきやろう」
「あとでやります」
2人の少年は似た容姿をしていた。兄弟なのだろう仲の良さが見てわかる。
そういえば手も足も軽い。重石を取ってくれたようだ。
服も泥まみれの白装束から寝間着へと変わっている。誰かが着替えさせてくれたようだが少し恥ずかしさを覚えた。
すると先程の少年2人がこちらを見て言った。
「体調は悪くないですか?」
「……悪いところはないです」
「名乗るのがおくれました。私が速秋国で」
「俺は天~」
敬語が定着しているのが国で、愛嬌のある笑い方をするのが天のようで、2人共とても美人で可愛げがある。
国は咳払いをするとこう言った。
「私たちは水の神です、人間とは違います。なので少しばかり貴方を困らせてしまうことがあるかもしれません。お許しください」
「国はお堅いね~」
水の神。
神という単語に娘は動揺する。
少年たちの髪色は綺麗な白髪。それに金色の目をしている。人間とは思えない綺麗さだ。
沼に沈む前、村長が言っていた言葉を思い出す。
『嫁入り』
昔の生贄もこうやって神に助けられているのだろうか。この家には他にも人間の少女がいるかもしれない。
娘が深く考え込んでいると誰かに話しかけられる。
「雑炊もってきましたよ」
顔をあげると先程出て行った礼花が側にいた。
手には雑炊と風呂敷に入れていた竹の水筒を持っていた。どうやら拾ってくれたようで水筒の中は新しい水が入っていた。
「即席だったのでお口にあうかわからないけれど。どうぞ」
口元に匙を差し出され娘は戸惑う。
「じ、自分で食べれます」
「これは失礼しました」
娘は匙を受け取り口の中へと運ぶ。
醤油の香りが口の中に広がり、柔らかい米がとても食べやすい。
「………美味しいです」
「ほんとう!?」
礼花は満面の笑みを見せた。
娘は綺麗に完食すると竹の水筒を取り水を飲む。
「ナギ様っていつ帰ってくるんだ?」
唐突に天が言う。先ほどから会話に上がっているナギ様とは誰のことだろうか。
「そろそろ帰ってくると思うんだけど……」
「沼に用があると言っておりましたが」
「くだらない儀式のせいで沼が汚染されたからね。浄化してるんだと思う」
噂をしていると礼花が何かに反応する。
「帰ってきた」
「どうせ濡れて帰ってきてるでしょうから風呂に入れてきます。天、行くよ」
「めんどくせー」
国が天の首根っこを掴み引きずって部屋を出て行った。
礼花はこちらを振り返る。
「ちょっとだけ待ってて、すぐ戻ってくるから」
そう言うと礼花も部屋を出て行ってしまった。
娘は1人呆然と部屋を見渡してため息をつく。
「水の神………」
土地神を一生恨んでやると思ったけれど、水神に命を助けられてしまった。
「人間って小さい生き物だなぁ……」
そう、1人ぽつりと呟いた。
「ナギ様が泥沼に突っ込んだ時はどうなるかと思いましたね」
「あんな儀式やったって意味ないのに。人間は馬鹿だなぁ」
目を開いたまま会話に意識を傾けていると、突然視界に何かが入ってきた。
「起きてます」
「え?起きてる??」
白い髪色に金色に光る瞳を持つ少年2人がこちらを覗き込んできた。明らかに人間離れしている容貌に目を見開く。
「礼花様に知らせてきます」
「行ってらっしゃ~い」
珍しい瞳の色と髪色に思わず目を見開き凝視してしまう。今までに白髪なんて歳をとったおばばしか知らない。普段、黒髪しか見たことがなかったため真っ白い絹のような艶のある白髪に思わず息を呑む。黒眼ではなく金眼なのも現実離れしすぎていて、やはりここは死後の世界でこの2人は何かの神様なのではないかと思ってしまう。
「そんなに見つめてきてどうしたん?喋れないの?」
「いや………………あの」
「喋れるじゃーん。声がちょっと掠れてるね、もう少し待ってて」
娘は驚きつつも少年の優しい言葉に少しだけ安堵を覚える。
しばらく思考を停止させて天井を見つめていると足音が聞こえてきた。
足音はそのままこちらへとやってくる。
障子が開く音が聞こえ、娘は音のする方を見るとそこには先程の少年1人と見知らぬ長身の漢が立っていた。
「生きてる…………よかったぁ~~!」
1人の男は娘を見るなり大袈裟に肩を落とす。すると先程の呼びに言った少年がひょっこりと出てきてこう言った。
「沼の中から引きずり出してくれた方はナギ様ですが、その後看病してくださった方はこちらの礼花様です」
礼花という男は娘の側まで来て正座すると優しく手つきで頭を撫でてくる。
「辛い思いをさせてごめんね……」
子供をあやすように礼花は言った。
娘はここに居る人が村の人ではないということに安心し、ゆっくりと体をおこす。
いまだ、どういう人なのかわからないが危害を加えてくる様子はなかった。
「あの………ありがとうございます…」
「いえいえ、それより3日間意識が戻らなかったので心配しました……お腹空いたよね?胃に優しいものを持ってくるので安静にして待っていてください」
礼花はそう言うと立ち上がりどこかへと行ってしまった。
娘は3日間も寝ていたという事実に鳥肌がたった。けれど1つだけ薄ら気づいたことがある。ここは死後の世界ではなく、あまりにも現実味がある。
「国、おはじきやろう」
「あとでやります」
2人の少年は似た容姿をしていた。兄弟なのだろう仲の良さが見てわかる。
そういえば手も足も軽い。重石を取ってくれたようだ。
服も泥まみれの白装束から寝間着へと変わっている。誰かが着替えさせてくれたようだが少し恥ずかしさを覚えた。
すると先程の少年2人がこちらを見て言った。
「体調は悪くないですか?」
「……悪いところはないです」
「名乗るのがおくれました。私が速秋国で」
「俺は天~」
敬語が定着しているのが国で、愛嬌のある笑い方をするのが天のようで、2人共とても美人で可愛げがある。
国は咳払いをするとこう言った。
「私たちは水の神です、人間とは違います。なので少しばかり貴方を困らせてしまうことがあるかもしれません。お許しください」
「国はお堅いね~」
水の神。
神という単語に娘は動揺する。
少年たちの髪色は綺麗な白髪。それに金色の目をしている。人間とは思えない綺麗さだ。
沼に沈む前、村長が言っていた言葉を思い出す。
『嫁入り』
昔の生贄もこうやって神に助けられているのだろうか。この家には他にも人間の少女がいるかもしれない。
娘が深く考え込んでいると誰かに話しかけられる。
「雑炊もってきましたよ」
顔をあげると先程出て行った礼花が側にいた。
手には雑炊と風呂敷に入れていた竹の水筒を持っていた。どうやら拾ってくれたようで水筒の中は新しい水が入っていた。
「即席だったのでお口にあうかわからないけれど。どうぞ」
口元に匙を差し出され娘は戸惑う。
「じ、自分で食べれます」
「これは失礼しました」
娘は匙を受け取り口の中へと運ぶ。
醤油の香りが口の中に広がり、柔らかい米がとても食べやすい。
「………美味しいです」
「ほんとう!?」
礼花は満面の笑みを見せた。
娘は綺麗に完食すると竹の水筒を取り水を飲む。
「ナギ様っていつ帰ってくるんだ?」
唐突に天が言う。先ほどから会話に上がっているナギ様とは誰のことだろうか。
「そろそろ帰ってくると思うんだけど……」
「沼に用があると言っておりましたが」
「くだらない儀式のせいで沼が汚染されたからね。浄化してるんだと思う」
噂をしていると礼花が何かに反応する。
「帰ってきた」
「どうせ濡れて帰ってきてるでしょうから風呂に入れてきます。天、行くよ」
「めんどくせー」
国が天の首根っこを掴み引きずって部屋を出て行った。
礼花はこちらを振り返る。
「ちょっとだけ待ってて、すぐ戻ってくるから」
そう言うと礼花も部屋を出て行ってしまった。
娘は1人呆然と部屋を見渡してため息をつく。
「水の神………」
土地神を一生恨んでやると思ったけれど、水神に命を助けられてしまった。
「人間って小さい生き物だなぁ……」
そう、1人ぽつりと呟いた。
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