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5 生死を彷徨う
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どこからか声がする。
「おっかあね、あんたが1番大事なのよ」
「1番?あたし1番?」
「ええ」
美しい笑顔を見せる姿は娘の母だ。
「おっとうあたしのこと好き?」
「……………」
「すき?」
「恥ずかしがってないで答えてあげなさいよ」
「勿論だ」
無口だが、少しだけ広角が上がっているのは娘の父の姿だ。
そしてこの小さな幼な子は娘だ。
懐かしい昔の記憶。
この温かな空間にずっといたい。
家族と笑い合える空間にもう戻れないとなると悲しさでいっぱいになった。
娘は生贄に差し出されもう死んでしまった。この事実は変えられない。
けれどここはどこなのか。
もしかしたら死後の世界なのかもしれない。
すると目の前にいた幼な子が生きる希望を無くした娘を見つめる。いつの間にか父と母は消え何もない空間に変わっていた。
「ここはどこ?」
幼き頃の娘に問いかけるが意外な答えが返ってきた。
「川を渡るのはまだ早いよ」
幼な子は目を瞑り、耳に手を当てるとどこか遠くの音を聞くような仕草をする。
娘も真似をした。
「聞こえてくるでしょ、貴方のことを思ってくれてる人の声が」
目を瞑っていると眠気が襲ってきた。
次に目を開けるとそこは真っ暗だった。しばらく目を開けていたが顔に生暖かい何かが顔に乗っていることに気づく。
「にゃ」
猫だ。
娘が寝返りをうつと顔に乗っていたものがいなくなり視界が明るくなる。
勢いよく起き上がると娘は自分の顔をベタベタと触る。
これが死後の世界なのかもしれないと思う。
第二の人生。
けれど少し違和感があった。娘は泥水を吸った白装束のままで手足にはまだ重石が付いている。髪は湿っていて、まるでまだ現実の世界だと言っているように見える。そして正直に言って吐瀉物を吐き出したいほど気持ち悪い。
ただ先ほどの沼とは違い畳が敷かれた座敷に娘は寝ていた。
寝ていたところの畳みが湿ってしまっている。
「どこ?」
訳がわからなく呟く。
先程の猫は障子の隙間からどこかへと行ってしまった。
部屋にいるのは娘1人だけだ。立ち上がって歩こうとするが重石が邪魔なのと、腹の中がとても重い。呼吸がしづらかった。
「気持ち悪い……………」
突然視界がぐらぐらしてきて娘はそのまま倒れ込んでしまった。
「誰か…………」
するとどこかから足音がしてきた。
足音は徐々に大きくなり障子の前で止まると、非常に大きい音を立てて障子が開かれた。
娘は顔をあげる気力もないため、畳に顔を突っ伏したままだった。
「おい、娘」
呼ばれた気がする。
娘は今動くと胃に溜まっていたものを全て吐き出しそうだった。
けれど誰かの手によって仰向けにさせられる。
「おい」
薄ら目を開けるとそこには人が見えた。
けれどすぐ瞼を閉じて急な気持ち悪さにうずくまり、そして我慢できず吐いてしまう。
目を開けると、娘は泥水を吐いていたことに気づく。
「酷いな……」
人影は娘の首元に手を当てる。
「体温が下がっている……人間はどうすればいいんだ…?」
今の娘の状態はとても危険だった。
死んでなお、また生死を彷徨っている。
人の手の体温に有り難みを感じているとまた複数の足音が聞こえてきた。
生贄の儀式から逃げた娘を追いかけてきた村人の足音に聞こえた娘は逃げようと動こうとする。
複数の足音が止まると声が聞こえた。
「ナギ‼︎死にそうな女の子をそのまま放置するとか最低‼︎」
薄ら目を開けると男が駆け寄ってくる。見たことのない髪色をしていた。
「体温がさがってる……体を温めるから夜着でもなんでも持ってきて!………あとは呼吸を確保しないといけないから少しだけ我慢して」
いきなり鼻をつままれ口を柔らかい何かに塞がれる。
すると体内に空気が入り込み娘は唐突にむせた。むせたと同時に泥水も吐く。
「げほっ…げほっ………っ」
「気道に入るといけないから横を向いて」
娘はうずくまるようにして横を向いた。
まだ何か溜まっているような感覚がしたが、吐き出そうにも息苦しくてどうにもできない。
鼻をつままれ何かに口を塞がれては空気が入り、溜まっていたものを吐き出すの繰り返しをしていると呼吸が楽になってきた。
夜着に包まれ体が徐々に温まってくる。娘は薄らと目を開いた。
「だ……れ……?」
「無理して喋っちゃダメだよ、静かにしてて」
目元を手で覆われた娘はそのまま深い眠りへと落ちていった。
「おっかあね、あんたが1番大事なのよ」
「1番?あたし1番?」
「ええ」
美しい笑顔を見せる姿は娘の母だ。
「おっとうあたしのこと好き?」
「……………」
「すき?」
「恥ずかしがってないで答えてあげなさいよ」
「勿論だ」
無口だが、少しだけ広角が上がっているのは娘の父の姿だ。
そしてこの小さな幼な子は娘だ。
懐かしい昔の記憶。
この温かな空間にずっといたい。
家族と笑い合える空間にもう戻れないとなると悲しさでいっぱいになった。
娘は生贄に差し出されもう死んでしまった。この事実は変えられない。
けれどここはどこなのか。
もしかしたら死後の世界なのかもしれない。
すると目の前にいた幼な子が生きる希望を無くした娘を見つめる。いつの間にか父と母は消え何もない空間に変わっていた。
「ここはどこ?」
幼き頃の娘に問いかけるが意外な答えが返ってきた。
「川を渡るのはまだ早いよ」
幼な子は目を瞑り、耳に手を当てるとどこか遠くの音を聞くような仕草をする。
娘も真似をした。
「聞こえてくるでしょ、貴方のことを思ってくれてる人の声が」
目を瞑っていると眠気が襲ってきた。
次に目を開けるとそこは真っ暗だった。しばらく目を開けていたが顔に生暖かい何かが顔に乗っていることに気づく。
「にゃ」
猫だ。
娘が寝返りをうつと顔に乗っていたものがいなくなり視界が明るくなる。
勢いよく起き上がると娘は自分の顔をベタベタと触る。
これが死後の世界なのかもしれないと思う。
第二の人生。
けれど少し違和感があった。娘は泥水を吸った白装束のままで手足にはまだ重石が付いている。髪は湿っていて、まるでまだ現実の世界だと言っているように見える。そして正直に言って吐瀉物を吐き出したいほど気持ち悪い。
ただ先ほどの沼とは違い畳が敷かれた座敷に娘は寝ていた。
寝ていたところの畳みが湿ってしまっている。
「どこ?」
訳がわからなく呟く。
先程の猫は障子の隙間からどこかへと行ってしまった。
部屋にいるのは娘1人だけだ。立ち上がって歩こうとするが重石が邪魔なのと、腹の中がとても重い。呼吸がしづらかった。
「気持ち悪い……………」
突然視界がぐらぐらしてきて娘はそのまま倒れ込んでしまった。
「誰か…………」
するとどこかから足音がしてきた。
足音は徐々に大きくなり障子の前で止まると、非常に大きい音を立てて障子が開かれた。
娘は顔をあげる気力もないため、畳に顔を突っ伏したままだった。
「おい、娘」
呼ばれた気がする。
娘は今動くと胃に溜まっていたものを全て吐き出しそうだった。
けれど誰かの手によって仰向けにさせられる。
「おい」
薄ら目を開けるとそこには人が見えた。
けれどすぐ瞼を閉じて急な気持ち悪さにうずくまり、そして我慢できず吐いてしまう。
目を開けると、娘は泥水を吐いていたことに気づく。
「酷いな……」
人影は娘の首元に手を当てる。
「体温が下がっている……人間はどうすればいいんだ…?」
今の娘の状態はとても危険だった。
死んでなお、また生死を彷徨っている。
人の手の体温に有り難みを感じているとまた複数の足音が聞こえてきた。
生贄の儀式から逃げた娘を追いかけてきた村人の足音に聞こえた娘は逃げようと動こうとする。
複数の足音が止まると声が聞こえた。
「ナギ‼︎死にそうな女の子をそのまま放置するとか最低‼︎」
薄ら目を開けると男が駆け寄ってくる。見たことのない髪色をしていた。
「体温がさがってる……体を温めるから夜着でもなんでも持ってきて!………あとは呼吸を確保しないといけないから少しだけ我慢して」
いきなり鼻をつままれ口を柔らかい何かに塞がれる。
すると体内に空気が入り込み娘は唐突にむせた。むせたと同時に泥水も吐く。
「げほっ…げほっ………っ」
「気道に入るといけないから横を向いて」
娘はうずくまるようにして横を向いた。
まだ何か溜まっているような感覚がしたが、吐き出そうにも息苦しくてどうにもできない。
鼻をつままれ何かに口を塞がれては空気が入り、溜まっていたものを吐き出すの繰り返しをしていると呼吸が楽になってきた。
夜着に包まれ体が徐々に温まってくる。娘は薄らと目を開いた。
「だ……れ……?」
「無理して喋っちゃダメだよ、静かにしてて」
目元を手で覆われた娘はそのまま深い眠りへと落ちていった。
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