銃と少女と紅い百合

久藤レン

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Blood Blade Grim Reaper

6-7 死神と眠る

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(少し・・・ まずいかもです・・・・)

 ブラッディランスはサクラの最大の一撃、血液の操作、身体能力をフルパワーにして放つ一撃はサクラの体力を著しく消耗する。 必ずこれで仕留めるという覚悟の元使う、文字通り必殺技だった。

 ひとまず大鎌をまた血の粒子に変えて回収してナイフを両手に精製する。

「よく分かりませんが・・・ まだ動くのならラウンド2です・・・!」

「・・・・・・・・・・・・」

 聞こえている筈だが凛々奈は答えない。ただサクラを睨み続ける。

「次は・・・ 確実に!」

 サクラは地面を蹴り駆ける。そして凛々奈の首筋に向かってナイフを振るう。しかしその刃は凛々奈の首の手前で止まる。

「な!?」

 ナイフは止められた。凛々奈の掌で握りしめる様に。

ボタボタッ

 刃を握る掌から血が流れる。 サクラは驚いてナイフから手を離す。そこを凛々奈が空いていた手で手刀の様に振り払った。

(あぶ・・・ないッ!)

 手刀のリーチのギリギリで後ろへ下がったサクラだったが。

「な!?」

ブシュッ

 サクラの肩から胸元にかけて真っ直ぐ3つ並んだ切り傷が刻まれていた。

「いた・・・い」

 傷を手で抑えて後ろへ下がる。そして振り払われた凛々奈の腕を見ると何かがキラリと光る。


 凛々奈の爪は鋭利に、20cm程伸びていた。
それは一本一本が研ぎ澄まされたナイフの様に煌めく。

(傷は浅い・・・です)

 傷から手を離すと流れていた血は紅い結晶になって固まり傷を止血した。 サクラの能力の応用だろう。

「返して!」

「・・・・?」

 サクラが強く言うと凛々奈の手にあったナイフは形を無くしキラキラとサクラの元へ戻る。凛々奈の掌の傷は跡形もなく完治していた。

「お姉ちゃん・・・もう少しだけ力を貸して・・」

 サクラは小さな声で血の粒子に語りかけた。

そして彼女の手に流れる粒子がまた大鎌を形作る。

「次は掌ごと首を落とします」

 大きく振りかぶりまた凛々奈へ切りかかる。
ブンッと風を切る音がなるが凛々奈はそれを最小限の動きで躱す。

(やっぱりさっきより動きが早いッ!)

 明らかに身体能力で優位に立っていた相手に軽く攻撃を躱される。そして。

「ガアッ!!」

 唸り声を上げながら凛々奈がサクラの脇腹を蹴り飛ばす。

「キャァ!」

 吹き飛ばされながらサクラはゴキバキと骨の砕ける音を聞く。 吹き飛びながら痛みに耐えて衝撃の方を見ると。

「えっ?」

 自身を蹴り飛ばした凛々奈は既に居ない。衝撃で地面を転がるサクラの後ろから鋭い殺気。

「ガアアッ!!!」

「ツッ!?」

 凛々奈は蹴り飛ばしたサクラに目にも止まらぬ速さで追いつき首に爪を突き立てようとしていた。

ズドォン!

 大きく身を捻ってサクラは回避すると凛々奈の腕は地面に直撃し大きく抉る。

「ばけ・・・もの」

 急いで立ち上がろうとするが凛々奈の攻撃は止まらない。 両手でサクラの体に切りかかる。

「いたい・・・です・・」

 全力で回避に専念するサクラだが今の凛々奈の攻撃を全ては回避できずに徐々に体を切り裂かれその度に血が吹き出す。

「これくらいで、いいです・・・!」

 サクラは一瞬の隙をみてバックステップで距離を取る。 すかさず凛々奈は追い打ちをかける為に前進しようとするが。

「あ"?」

 不可解な物を目にし立ち止まってしまった。
それはふよふよと浮かぶ紅い球体。吹き出したサクラの血は地面に落ちずその場を漂っていた。

「ブラッディスフィア・・・」

 離れたサクラは右の掌を凛々奈と血の球体に向けて開く。

「スキューア!!!!」

 開いた手をグッと握ると浮いていた血の球体から無数の針が生えて凛々奈の全身を貫いた。

「グガァアア!」

 全身をいくつもの針に貫かれ身動きが取れなくなる凛々奈。そこへ切り裂かれた傷を抑えながらサクラは近づく。

「これ・・・ いたいし疲れるからあまり使いたくなかったですが・・・ 上手く行きました」

 今度こそ首を落とそうと大鎌手に凛々奈に近づこうとするが。

ブチッ ブチッ ギチギチッ

「ははっ、 うそ・・ですよね・・・」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 凛々奈は無数に刺さる針を物ともせずサクラへと進み出す。 肉と皮が裂けて血を吹き出し奇妙な音を立てながら。

 そして

バギィッ!!

 拘束していた針が砕けてその獣は解き放たれた。

「ほんとに・・・・・」

 裂けて悲惨な状態になっていた針が刺さっていた怪我も回復を始めている。

「これで最後です」

 飛びかかってくる凛々奈の目の前にポイッと何かをサクラは投げる。 そして自分は顔を腕で覆って後ろへ飛ぶ。

「さっきのお返し・・・です」

パキーーーン!

スタングレネード、凛々奈が放ったゲルブフラッシュ程の威力はないが激しい光と音が炸裂した。

「この前殺した人のを持ってきていて良かったです・・・」

「ガアッ!!!グギャア!!」

 凛々奈は目を抑えてもだえ苦しむ。 いつもの凛々奈であれば反応して回避か防御行動を行えていたのだろうが今の凛々奈にはそんな理性はない。

 まともに閃光と爆音を正面から喰らってしまっていた。

「ほんとにほんとにこれで最後です・・・」

 その間に距離をとっていたサクラは低く構える。その手には高密度の血の槍。

「とどめ!!」

 音速の槍が再び凛々奈へ放たれた。

(確実に頭をぶち抜きます・・・!)

 脳天を目掛けて飛来するその槍は。

ガギィンッ!

 凛々奈の目の前で静止する。右手だけでサクラの必殺の一撃を受け止めた。

「そん・・・な・・ まだ視力は回復してないのに・・・ 気配だけで・・受け止めたんですか・・・?」

 凛々奈は苦しそうに目を瞑ったまま手にした槍をくるりと器用に回して刃サクラの方へ向けた。

 そして

「グガアァ!!」

 全身の力を使って乱暴にサクラへ投げ返す。その速度はサクラの投げた槍の威力より凄まじく。

「あ・・・・」

 自らの死を感じたサクラは腰を抜かして地面に座り込んだ。放たれた槍はその頬をかすめてコンクリートの壁をぶち抜いた。

 ツーッとサクラの頬を血が伝う。サクラはもう動けない。日に二度の大技、もう体力は底を尽きた。座り込んだまま目の前の獣に目をやると。

 ギラリとサクラを睨みつける瞳と目が合う。凛々奈の視力が、回復した。

「ガアアアアアアッ!!!!」

 叫び声を上げて獣はサクラに飛びかかる。鋭い刃の様な爪を掲げて。もう自分の最後を確信してしまったサクラの口が小さく動いた。

「お姉ちゃん・・・・ ごめんなさい・・・」

 死が目前まで迫り恐怖でギュッと目を瞑る・・・ しかし一向に痛みも衝撃も訪れない。

 恐る恐る目を開けると。

「ありゃりゃ?」

 気の抜ける様な軽い声が聞こえた。

「あっちゃ~ 仕留めきれなかったか~」

 そこにはバツの悪そうな顔をした少女の姿が、そして伸びていた髪と爪はキラキラと光の粒子になって消えていき元の凛々奈の姿へ戻る。

「も~無理~ 指1本動かんわ~」

 そして凛々奈は座り込むサクラにドサッと覆いかぶさる様に倒れ込み抱きつく。

「あんたの勝ちよ」

 サクラの耳元で囁いた。

「・・・わたしも指1本も動きません」

「あっはっはっは・・・ じゃあ、引き分けね」

「そう・・・です・・・ね」

 二人は抱き合うように地面に倒れて意識を失った。
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