忘却の檻 〜あなたは誰〜

ぐう

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 意気込んだ義姉のリリアンヌに、呼ばれたオートクチュールのデザイナーが、本当にすぐにやってきた。

「お嬢様、メゾン・ド・ドレスデンのデザイナーと名乗る女性が訪ねて来ていますが……」

 マルコが取り次ぎに来たので、リリアンヌはマルコにすぐ通す様に告げた。レオンハルトがマルコの後に戻ってきた。

「我が家に出入りしている宝石商にすぐこちらに来る様に伝言を持たせて従僕に行かせた」

「あら、ユリアに誕生日でも宝石も贈ってないのに、出入りする宝石商があるのね。社交界の人気者は今までどれだけ女性に贈ったのかしら?」

 リリアンヌにちくりと嫌味を言われて、顔を顰めるレオンハルト。義姉というリリアンヌは、なかなかはっきりものを言える人らしい。こんないい見本がそばにいたのに、ユリアは何故ぐずぐずと、滅私奉公してたのだろうとユリアは内心思った。

「ユリアと結婚して以来、宝石は商談で必要な身なりを整えるための、自分のカフスとネクタイピンしか注文した事ないですよ。その宝石商には亡くなった母が、買いあさっていた宝石を処分する時に世話になったのです」

「そうね。アイレンベルグ元公爵夫人の宝石狂いは有名だったもの」

「そうなのですか」

 ユリアが口を挟む。

「アイレンベルグ家の財政が悪くなったのは、自然災害のせいだけでなく、夫人の宝石狂のせいだと言われている。だが、それを嗜められない夫のせいでもある」

 ユリアの問いにクラウスが横から返事をした。

「クラウス卿の言う通りです。贅沢をやめられない母が原因ですが、その母の言うなりだった父のせいでもあります。母が亡くなった時に片見分けに、領地にいるユリアに宝石を渡したのですが、宝石を売ってハーブティーを扱う商会を立ち上げてくれと言われたのです。それからユリアの誕生日は領地ですぐ手に入らない、ユリアが希望した本を買って送ってました」

 レオンハルトが昔を振り返ってそう言うと、リリアンヌが大きな声で笑った。

「ほーほっほ!妻の誕生日に本!本当に朴念仁なのね!」

 レオンハルトにさすがにムッとして言い返した。

「ユリアの希望だったのです」

「ばかねぇ。本と一緒に庭に咲いてる薔薇を送ればよかったのに。財政立て直し中でも薔薇園は維持してたでしょう?」

「え、庭に咲いてるものでもいいのですか」

 間抜け面で問い返すレオンハルトにユリアも笑いが込み上げて来て、俯いて笑いをこらえた。

「そうよ。この色男は薔薇の本数で花言葉が違うのは知ってる?」

 揶揄うようにリリアンヌが言うとレオンハルトが頷いた。

「本当にずっと後悔して、ユリアを愛していたのなら、ユリアの好きな薔薇の花を自分の伝えたい花言葉の本数だけ贈ればよかったのにね」

 とリリアンヌはやれやれと大袈裟に腕を肩より上にあげて見せた。
 レオンハルトがいきなり立ち上がって、出て行こうとした。

「どこいくんだ」

 呆れた様にクラウスが聞くと

「自邸に戻って薔薇を切ってくる」

 とレオンハルトが答えた。

「今から?私の誕生日っていつなんですか?」

 冷静なユリアの声にレオンハルトが振り向いた。

「そうか、覚えてないか。来月の十日だよ」

 そうレオンハルトが答えると、クラウスが感心した様に言った。

「ほー、覚えているのか。昔は誕生日なんて忘れ去っていたのにな」

 クラウスにそう言われて、決まり悪げにレオンハルトは視線を下げた。

「ところで何本下さるつもりでしたの?」

 
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