忘却の檻 〜あなたは誰〜

ぐう

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「エーレフェスト侯爵ご夫妻がお着きです」

 執事のマルコの声がした。レオンハルトと二人連れ立って玄関ポーチまで迎えに行く。
 馬車からこの前会ったクラウスが女性の手を取って降りてきた。

「ようこそ」

 レオンハルトが声をかけるとその女性は大きく目を見張った。

「まあ アイレンベルク公爵様 ここでお会いするなんて驚きですわ」

「そうだろうな。しかもちゃっかりユリアの隣にいる」

 クラウスは皮肉げに唇を歪めて言った。

「ユリア 思い出せないままか?」

 クラウスはユリアの肩に手を置いた。その手をちらりと見たユリアは

「お兄様でよろしいのかしら?部分的にしか思い出せません」

 とため息をついてみせた。

「じゃあ 紹介しておこう。私の妻、お前の義姉になるリリアンヌだ」

「ユリア あなたとは仲良くしていたのよ。また仲良くして欲しいわ」

「まだらにしか思い出せなくて、いろいろと教えて下さい」

「こんなところでお話しせずに中にどうぞ」

 そう言ったレオンハルトを残りの三人がじっと見た。

「あなたに言われるとは思わなかったわ」

 リリアンヌがクスリと笑った。ユリアはこの人と気が合いそうと思った。
 マルコの主導で客室に案内された。この邸の客室の一つは掃き出し窓になっていて、テラス伝いに庭に出られる。庭は季節の花が咲き誇っていた。

「こちらから見る花園はいつも美しいわ。庭師がよく手入れをしているのね」

 リリアンヌがテラスに出て花を眺めて言った。

「アイレンベルク家の薔薇園も素敵でしたよ」

 ユリアがそう言うとリリアンヌがびっくりして振り返った。

「あなた薔薇園で嫌な事があったからとアイレンベルク家に行っても寄り付かなかったのに」

 そうね。酷いこと言われたわね。横に座ったレオンハルトを横目で睨んだ。レオンハルトも自分のことだとわかって居心地が悪そうだった。ユリアはそれを見てクスリと笑った。

「そうですね。レオンハルトに悪様に言われたようですね」

「思い出したのか!」

 座りかけていたクラウスが思わず立ち上がった。

「いいえ ノンナに聞いたのです。酷いことはいっぱい言われて、されているからそれは可愛い方では?」

 クラウス再び座った。

「今日はその話で来た。それにしてもなぜレオンハルトがここにいる」

 少し低めの声でクラウス睨むようにレオンハルトを見た。

「夫婦ですから」

 しれっと答えるレオンハルトにクラウスは呆れたようだった。

「今更ーー」

 リリアンヌも思わず言葉を漏らした。

「本当に今更ですが、この人が記憶がなくてもいい。やり直したいと言うので考慮しているところです」

「ユリア!やり直してくれるって言った!」

 うーん しつこいわね。

「言いましたけど、あなたの態度次第でもあるでしょう?」

「頑張るから。それに子供もすぐできるだろうし、そしたら両親が仲が悪かったら可哀想だ」

「ーーーー子供って。お前達 まさか そう言う仲かーーーー」

 クラウスが低く唸るように言った。リリアンヌがテラスから戻って来てポンポンとクラウスの手の甲を叩いた。

「夫婦ですもの。下世話なことを言ってはだめよ」

 と優しく微笑んだ。




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