忘却の檻 〜あなたは誰〜

ぐう

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 ふと目が覚めると、部屋は真っ暗だった。
 誰かが側に座って食い入るように私を見ている。怖い。私を襲った誰かが死ななかったので殺しに来たのだろうか?目を凝らしてみると、先ほど夫と名乗った人だ。
何をしているのだろう。この人が私を殺そうとしている人かもしれない。そんなに私が嫌いなのかな。覚えてないが嫌われていると思うと何故だが辛い。記憶がなくなる前の私は夫に嫌われている妻だったようだ。だったら逝ってもいいなと思ったらストンと胸に落ち納得できた。また眠くなり寝てしまった。

 明るさを目に覚えて、目を開けると昨日泣いていた人がいた。

「あの お手水 に行きたいの。起こしてくれる?」

「お嬢様 お手伝いします。」

 背中に手を当て起こしてくれ、お手水まで肩を貸してくれた。済ませてベットに戻ると昨日の夫という人が入ってきた。ノックぐらいしなさいよとちらりと思った。

「大丈夫か、動きたいなら私がするから。」

「ですがお手水ですので、公爵様のお手を煩わすわけには。」

「ユリアのことは私が全てやりたい。動けるなら部屋を移動しよう。支度させてくるから。」

 慌ただしく出て行った。

「あの あなたのお名前伺ってもいい?」

「お嬢様、本当に忘れてしまったのですね。」

 また泣かれてしまった。

「私はお嬢様の生家であるエーレンフェスト侯爵家から参りましたノンナと申します。」

 そうなんだ。でもお嬢様?一応さっきの夫と言う人と夫婦なんだよね?奥様じゃないんだ。と思って聞いてみる。

「お嬢様はお嬢様です。だって」

 そこに夫と名乗る人と連れられて来た執事らしき人がきた。

「部屋を移る。」

「どこに行くんですか?」

 使用人の部屋にでも移されるのだろうか?
いきなり夫が私を抱き上げた。びっくりしているとそのまま抱かれて廊下を行き広い豪華な部屋に着いた。

「ここはなんなのですか?」

「主人夫妻の主寝室だ。」

 夫だと言い張っているけれど違う。だって夫婦だったら初めから主寝室使っているだろう。なぜ嘘をつくのだろう。私に嘘を教え込んでこの人に何か利益あるのだろうか。

「ここで私があなたの世話をする。」

「お仕事はいいのですか?執務がおありなのでは?」

 あれ?なぜこんなこと知っているの?

「何か思い出したのかい?」

「いいえ、何も。執務のことはふと思いつきました。」

「そうか。思い出さなくてもいい。無理しないでくれ。あなたが私の妻なのは変わらない。」

「でも、夫のこと家のこと何も覚えてない妻はお荷物ですよね。離縁された方がいいのでは?」

「離縁はしない!」

 怒鳴られた。殺したいほど嫌いなら離縁したほうがいいのではと思ったのだけど何を考えているのだろう。

「す、すまない。大きい声を出してびっくりさせた。離縁などあり得ない。思い出せなくてもいいんだ。あなたが私の隣にいてくれたら、それでいいんだ。」

 なんだか辛そうに顔を伏せた。
 そんなに辛いなら離縁すればいいのにとまた思った。
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