1 / 50
1
しおりを挟む
身体が痛い。頭も痛い。意識の向こうに美しい男と可愛らしい女が仲睦まじげに手を握り合っている。それを誰かが見て泣いている。泣かないで。あの男は泣く価値のない男。もう見切りをつけなさい。
そう言ってるのに、その女は未練げにまだ美しい男を見つめている。
ああ身体が痛い。頭も痛い。誰か呼んでる。うるさいぐらい。お願い静かに逝かせて。もう誰とも関わりあいたくないの。
うっすらと目を開けると知らない場所だった。思わず腕を上げると
「お嬢様!目が覚めたのですね!今お医者様呼んできます!」
なんだか聞き覚えのある声がばたばたと扉の向こうに消えていった。いきなり扉が開き男の人が入ってきた。
「ユリア!大丈夫か。今医師が来るからな。」
誰なんだろう。夢の中で見た美しい男に似ているような気もする。でも名前がわからない。
「あなたは誰ですか?」
掠れた声で聞いてみる。聞こえなかったようで
「どうした、水か。」
と水を飲ませてくれた。今度ははっきりと声が出た。
「あなたは誰ですか?そしてここはどこですか?」
なんだか呆然として美しい男はわたしをみて、怒ったように言った。
「怒っているのか。あんなことをされて怒っても仕方ないが、悪い冗談はやめてくれ。私はユリアの夫のレオンハルトじゃないか。」
夫?私は結婚しているの?おかしい私の中では結婚なんて文字はどこにもない。この人は何を言ってるのだろうと思っていたら、医師が入ってきて診察を始めた。
「あなたの名前は?」
「わからない。」
「ここはどこですか?」
「わからない。」
「あなたのご両親は?」
「わからない。」
「あなたの夫は?」
「わからない。」
「あなたの生まれ故郷は?」
「わからない。」
何を聞かれても、かけらも名前が出てこない。私を心配そうに見ている人達の名前も関係性も全く出てこない。
「頭を打った衝撃で記憶がなくなっています。怪我は良くなってきますが、記憶は戻るかもしれないし、戻らないかもしれない。戻らずに一生を終えるケースもあります。」
医師が重々しく言うが、ピンとこない。そうか私は頭を打ったのか。側に立っている夫だと名乗ったレオンハルトと言う人が喰い殺すように私を見つめてる。そんなに私が死ななくて残念なのか。
私に最初に声をかけた女の人の目からとめどなく涙が溢れてお嬢様と呟いてる。直感だが、あの人は信用できそうだ。あの人にいろいろ聞いてみようと思ったが、また眠くなってきた。目を瞑ると薔薇の咲き誇る庭園で、綺麗な男の子が何か言っている。何を言ってるのだろう。言われた女の子は嬉しげに微笑んでいる。何を言われたのだろうと思ったらまた眠りの中に引きずりこまれた。
そう言ってるのに、その女は未練げにまだ美しい男を見つめている。
ああ身体が痛い。頭も痛い。誰か呼んでる。うるさいぐらい。お願い静かに逝かせて。もう誰とも関わりあいたくないの。
うっすらと目を開けると知らない場所だった。思わず腕を上げると
「お嬢様!目が覚めたのですね!今お医者様呼んできます!」
なんだか聞き覚えのある声がばたばたと扉の向こうに消えていった。いきなり扉が開き男の人が入ってきた。
「ユリア!大丈夫か。今医師が来るからな。」
誰なんだろう。夢の中で見た美しい男に似ているような気もする。でも名前がわからない。
「あなたは誰ですか?」
掠れた声で聞いてみる。聞こえなかったようで
「どうした、水か。」
と水を飲ませてくれた。今度ははっきりと声が出た。
「あなたは誰ですか?そしてここはどこですか?」
なんだか呆然として美しい男はわたしをみて、怒ったように言った。
「怒っているのか。あんなことをされて怒っても仕方ないが、悪い冗談はやめてくれ。私はユリアの夫のレオンハルトじゃないか。」
夫?私は結婚しているの?おかしい私の中では結婚なんて文字はどこにもない。この人は何を言ってるのだろうと思っていたら、医師が入ってきて診察を始めた。
「あなたの名前は?」
「わからない。」
「ここはどこですか?」
「わからない。」
「あなたのご両親は?」
「わからない。」
「あなたの夫は?」
「わからない。」
「あなたの生まれ故郷は?」
「わからない。」
何を聞かれても、かけらも名前が出てこない。私を心配そうに見ている人達の名前も関係性も全く出てこない。
「頭を打った衝撃で記憶がなくなっています。怪我は良くなってきますが、記憶は戻るかもしれないし、戻らないかもしれない。戻らずに一生を終えるケースもあります。」
医師が重々しく言うが、ピンとこない。そうか私は頭を打ったのか。側に立っている夫だと名乗ったレオンハルトと言う人が喰い殺すように私を見つめてる。そんなに私が死ななくて残念なのか。
私に最初に声をかけた女の人の目からとめどなく涙が溢れてお嬢様と呟いてる。直感だが、あの人は信用できそうだ。あの人にいろいろ聞いてみようと思ったが、また眠くなってきた。目を瞑ると薔薇の咲き誇る庭園で、綺麗な男の子が何か言っている。何を言ってるのだろう。言われた女の子は嬉しげに微笑んでいる。何を言われたのだろうと思ったらまた眠りの中に引きずりこまれた。
1
お気に入りに追加
959
あなたにおすすめの小説
王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】
霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。
辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。
王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。
8月4日
完結しました。
溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる
田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。
お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。
「あの、どちら様でしょうか?」
「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」
「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」
溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。
ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる