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第二章 水の都市の大罪

人工知能

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『どうか致しましたか……?』

 カードデバイスから心配そうに発せられた声が俺を現実に戻した。

「いや…………何でもない…………」

 俺は慌てて、涙を拭き、《サキネ》と名乗ったカードデバイスに向き直る。

「それよりも、《サキネ》と言ったか……?

 お前は一体、何なんだ……?

 何処まで、自分の事を理解している?」

 そして、こほんっ! と咳払いをしつつ、カードデバイス《サキネ》に話し掛けた。

『わたくしですか?

 それはもちろん、聖女であるビルへルミナ様を支え、世界中の人々の希望になるためにわたくしは生まれました。

 まだまだ未熟者ですが、これからもご指導ご鞭撻の方をよろしくお願い致します。

 ライハ様」


「……………………」

 やばい…………。

 涙が抑えられそうにない。

 やった…………。

 やったぞ…………!

 俺は成し遂げたんだ!

 見ているか!?

 この大馬鹿野郎!

 ようやく…………ようやく、お前の夢が現実のものになったぞ…………!!

「ど、どうしたんですの……?!」

 俺が喜びで打ち震えていると、聞き覚えのある声がする。

 視線を向けると、部屋の扉を開けたまま、俺の方を見て目を見開いている大賢者の姿があった。

 ヤベっ…………!?


 泣いているところを見られた!

「な、何でもねぇよ…………」

 また、慌てて涙を拭きつつ、顔を背ける俺。

 恥ずかしいところを見られたな…………。

 とりあえず、聖女様が起きたら、こいつの事どう説明するかな……?


------------------------------------------


「…………人工知能…………ですか……?」

 《量産型》のカードデバイスを手に、小首を傾げる聖女。

 俺はそれを肯定するように首を縦に振った。

 とりあえず、聖女が起きてから、すぐに俺は事のあらましを話す事にしたのだ。

 幸い、あの決闘の後、俺達は神殿の一室で治療を受けていたようで…………。

 優秀な治療魔法のおかげで、お互い傷は然程、残ってはいない。

 だから、個人的に聖女だけに話そうと、神殿の人に個室を手配して貰った筈だが…………。

「おうおうっ! それがあれば、私らもあんな強くなれるのか!?」

「ふふっ…………。

 大変、興味深い話ですわ」

 またも剣聖と大賢者のお邪魔虫が現れた。

 追い出す。

 追い出す。

 追い出すの一択。

 だが、奴らは戻って来た。

 まあ、とりあえず、こいつらは空気って事で無視しておこう。

「とりあえず、説明を続けるぞ。

 聖女であるあんたが今持っているカードデバイスはな…………。

 さっき言った《人工知能》と呼ばれる人の心を持つへと進化した。

 ここまでは良いな……?」

「いや、私にはさっぱり分からん…………!」

 聖女が首を縦に振るのを確認する。

 何か、剣聖が言っていた気がするが…………。


 無視だ…………。


「そんで、そもそも、《人工知能》ってのはな…………」


「おい…………! 

 無視すんなよっ…………!」


「本来、ある目的のために、共同開発したもので…………」


「お~い…………。

 聞いてますか~…………?」


「…………おい…………。

 話の腰を折る気なら、とっとと出て行け…………」


 俺は目を細めて、やたらと鬱陶しい剣聖を睨み付けた。


「何だとっ!?」


 俺の言葉を聞いて、怒り心頭で椅子を倒して立ち上がる剣聖。

 だが、俺はそれに臆する事なく、真っ向から剣聖を言ってやる。


「今話している内容は、これから行う作戦で非常に重要になってくる話だ。

 勝手に入り込んで来た上、作戦に組み込む事のない奴にまで、話すつもりはない。

 それとも何か……?

 あんたが水深三百メートルの海の奥深くにいる悪魔共をまとめて倒してくれるのか……?

 今回はただでさえ、時間がない上、失敗の許されない状況なのに…………。

 もし仮に、あんたが話に割り込んだ所為で、失敗したとしたら…………。

 その責任をあんたは取れるのか!?」

「…………そ、それは…………」

「取れるのか、取れないのか…………どっちだ……?」

 俺が声を低くして、問うと、何も言い返せないのか。

 悔しそうに、下唇を噛んで、俯く剣聖。

 そして、椅子を直し、再び席へと腰掛けると、大賢者に宥められつつ、それ以降は口を開かなくなった。


「全く…………」


 ほんと、脳筋で面倒な奴だな…………。

 俺は心底、失望し切った眼差しを剣聖に向け、心の内で、大きなため息を吐いた。


「とりあえず、何処まで話したっけな…………」

『本来、ある目的のために共同開発したもの…………の辺りになります。

 ライハ様』


 俺が思い出そうとすると、聖女が手にしているカードデバイスから声が発せられる。


「おう。

 すまんな《サキネ》…………。

 話は戻すが…………。

 《サキネ》のような人工知能は、本来、ある目的のために、共同開発したものだ」


「…………その目的とは、何ですの……?」


 大賢者が挙手しながら、質問する。


「それは勇者パーティーなら当然、夢見るものだよ」

 俺は悪戯っぽく、笑うと、大賢者と聖女は何となく、察したようだ。

 一方、脳筋の剣聖はと言うと…………。

「勇者パーティーなら当然、夢見るもの……? 

 なんじゃそりゃ…………?」

 そう心の声が聞こえて来そうな程、理解していないのが、丸分かりだった。


「お二人は分かったようだな…………。

 そう…………本来、《人工知能》ってのは、魔王を倒すために作られたんだ。

 それも、《古代魔法文明》の技術を使ってな…………」

「《古代魔法文明》ですって!?」

 今度は大賢者が席を立ち上がった。

 さて、話が盛り上がるのは、これからだ…………。
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