死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨

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08. 約束は

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 ステンドグラスの光を背負って。
 エリアス殿下が俺に向けて剣の柄を差し出している。

 震えそうになる手を伸ばす。ここ数年、まともに会話も出来ていない。
 あの馬車の中で"供に来てほしい"と言われた瞬間。
 ――本当は涙が出るほど嬉しかった。

「エリアス殿下をお護りします、この命に代えても…」

 鞘ごと受け取った剣が、重く感じられる。
 そのまま後ろへ下がると残りの騎士達の挨拶が続いた。夢でも見ているんじゃないか?
 ――エリアス殿下の護衛騎士に任命された!!
 心が弾む。…いや待て浮かれている場合ではない!

 王子の傍で必ず犯人を捜し出す。まだ何も起きていなくとも、前兆くらいはあるかもしれない。
 少なくとも王子の駆け落ち相手を知る必要がある。

 いつの間にか大聖堂に入る光は、夕刻の色をしていた。



「どういう心境の変化だ」
「第一王子はどうすんだよ?」
 左右から、別々に訊ねる声に俺は閉口した。

 矢継ぎ早の質問に夕食のシチューが冷めてしまいそうだ。
 四角い肉をすくって口に放り込む。朝は食べそこね昼は殿下の説得で時間がなくなり、俺は腹ペコだった。
「…エリアス殿下とも、旧知の仲だ」
 そんな事は知っているはずの二人だ。

「いやだって、お前が第二王子と話してるとこ見た事もないぞ?」
「…うっ」
「テオドール殿下には言ったのか?よく殿下が了承したなぁ」
「うーん、そうだな…?」
 俺の曖昧な返事に、勘の鋭いニコライが顔を青くした。

「おいっ…!まさか!!」
「第一王子に何の相談もしてないなんて事!ないよなっ!?」
 二人が急に席を立ったので、周囲の視線が集まる。
 信じられん!…と顔に書いてあるハーベス。
 嘘だと言ってくれ!…と目で訴えるニコライ。

「…まだ言ってないだけだ」
「ハァッ!?明日は勤務初日だぞ!?まだって一体いつ言う気なんだ!!」
「ランベルト。わるい事は言わんから、すぐ自首してこい」
「なんだよ自首って…大袈裟な」はははっと笑い飛ばした、が友人達の表情は硬い。

「いいかランベルト、テオドール殿下はお前を気に入ってる…」
「そうだな」なにを今更。
 恐れ多くも、兄弟みたいなものだ。
「どれぐらい気に入ってるかと言うと…」
 さっ、と素早くシチュー皿を遠ざけられる。
「…ふぁ?」まだ食べてる途中なんだが…。

「友よ、死ぬ時は一緒だ…」
「おぁっ?ちょっなにすんだよ…!?」
 急に左右から腕を拘束され、そのまま引き上げられる。
 背が高く体格のいい二人にかかれば、簡単に身体が浮いた。
「同じ罪でも…早く謝った方が刑は軽い」
「…え?なんでっ…テオ殿下に何か言われたのか!?なぁ!?」
 食堂前の廊下に、俺の叫びが虚しく響いた。



「――ご苦労だった、二人とも下がって良いぞ」

 ニッコリと笑った第一王子の顔を、俺は直視できなかった。
 日が落ちてから私室の王族を訪ねるなど、非常識だ。流石のテオドール殿下でも応じるはずないと俺は思っていた。
「……」
 無慈悲に俺を残し退室する同僚達の背中を恨みがましく見た。
「良い友人を持ったなぁ、ランベルト?」
「っっは、っはい!」
 真顔が一番怖いと思った殿下の、目の前の笑顔がなにより怖い。

 ソファーに掛けた王子が手招きした。こういう時は逆らわないに限る!
 素早く隣に座ろうとすると、手首を強く引かれた。
「…わっぁ!すっすみませっ…!」
 ぽすん、とテオドール殿下の膝の上に座ってしまい焦る。
「ランベルト」
「っはい!」
 腹部に回された腕に力が入る。殿下の方がやや体格がいいとはいえ重いだろう。
 嫌がらせにしても…もっとお互いにとっていい方法はないのか!?

「お前は誰の騎士だ?」

「!!!」
 耳元で聞こえた滅多に聞かない第一王子の低い声に、俺は小さく震えた。

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