上 下
9 / 60

09. 傷付いた

しおりを挟む
「――私はこの国の、騎士です」

「誰の護衛だ?」
 テオドール殿下の質問の意図は分かり切っている。

「もっ!申し訳ありません…!!」
「んん?なにか悪い事でもしたのか?ランベルト…」
「…ひぇ」
 小さい子どもを諭すような、ゆっくりとした声色にゾワゾワする。

「訳を話してみろ、酌量の余地があると良いがなぁ」
「…ぅぐうっ!」
 テオ殿下が怒っている、かつてない程。

 護衛騎士の任期は長い。

 余程その騎士に問題がなければ、一人の方だけに仕えて定年を迎える場合もある。
 それは護衛対象の個人情報に多く触れるからだ。生活に密着する為、知ろうと思えば何でも知れる。
 だから軽々しく何人もの主を渡り歩くことはない。

 ――特に王位継承順位の近い者同士の間で、護衛騎士が変わるなどありえない。

 俺は過去で、三年間テオドール殿下の護衛を勤めた。
 多分あの駆け落ち事件がなければ、生涯そうだった。
 そして今日、新たにエリアス殿下の護衛騎士に任命された。
 過去では秘かにエリアス殿下の護衛になりたかった俺は。急に俺を指名したテオドール殿下の暴挙に拗ねて、数日は口をきかなかった。

「お前からエリアスの前に出たんだろう?俺も参加していればなぁ…」
「…エリアス様が」
 ――誰かに殺されるかもしれないから、なんて言えない。

 テオ殿下は俺が言うなら、ある程度の事は信じてくれる。
 奇想天外な話でも、多分。

 だがこの第一王子は俺に甘く、実の弟にはとても厳しい!
 本当に九つも離れているのか?と思う程、大人げない。弟を次期国王と期待しているからと言っても、余りあるものがある。
 
 俺が弟王子の駆け落ちに同行して、顔も見ない人間に殺された、なんて言ってみろ。
 "そんな事にランベルトを巻き込んだエリアスが全て悪い"と言うに決まってる!
 そこは伏せて”エリアス殿下の命が狙われているかもしれないから”と言っても。
 ”危ないからランベルトは私の傍にいろ”と言われる。絶対に。

 それに記憶の一部をぼかして伝えるなんて芸当。俺には到底できない。


「エリアス様の……っ体調が心配で!」
「そうだ…そうです!咄嗟に!顔色が悪くて思わず…よく見ようと前に…」
 しどろもどろ…自分でも苦しい言い訳だと思う。

「ふむ、では心配して進み出たランを、護衛志願だと勘違いしたエリアスが悪いな?」
「!?いいえ!!?エリアス様は悪くありません!!」

 それに騎士側にも最後その剣を受け取るか、選択の自由がある。
 殿下の前に出たのも、剣を受け取ったのも、俺の意志だ。俺はエリアス殿下を守る。
 ――今度こそ。

「テオドール殿下、お許しください!!俺は…私は、エリアス殿下の護衛をしますっ!」

「…”護衛をする”か、護衛騎士になるでもなくか…うーむ」
 すこし考え込んだテオ殿下が唸った。
「しかしなぁラン、せっかくした”約束”を破られて、俺はとても傷付いた」
「はっ、申し訳ありません…!」

 テオ殿下に”護衛任命を数時間だけ待ってほしい”と、お願いしていた。
 それなのに俺は、待ってもらった数時間の間でエリアス殿下の護衛に任命された。重大な裏切り行為だ。怒って当然だ。逆にテオドール殿下がここまで静かなのが、不気味なほど。

「だから今夜は、俺が飽きるまで付き合ってくれ」
「えっ?…なにに……?」

 テオドール殿下が俺を相手に飽きる事はなく。
 結局翌朝やっと解放され、寮では朝帰りと揶揄われた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

処理中です...