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No.49

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「実は、サーシャ嬢に確認したい事があって来たんだ」
「確認したい事…?」
「うん」

そう言って、今まで保っていた距離を詰める様にクリスが近付いて来る。

サーシャは、動かなかった。
いや、動けなかった。

(肉食獣に対面してるみたい…)

下手に動けば、目の前の肉食獣クリスが襲い掛かって来る様な嫌な緊張感がサーシャを襲う。そうしているうちに、手を伸ばせば届く距離まで近付いたクリスは、サーシャを見下ろしながら質問した。

「手っ取り早く単刀直入に聞くよ。サーシャ嬢、私の弟のガダルに何かした?」
「ガダル王子に?いえ、何もしてませんが」

クリスの質問に、サーシャは迷いも無く答える。流石のクリスも、これ程までに迷い無く答えられるとは思っていなかったのだろう。軽く目を見開いて驚きを露わにする。

「君って、凄く太々しいんだね。まさか、こんなに平然と嘘をつくとは思わなかったよ」
「あら?私が嘘を付いてると言いたいんですか?私は、本当に何もしてません」

ガダルを脅したのも、を築く為のスキンシップの一環だ。だから、サーシャの中では何もしていないに入るのだ。

「へぇ~…。じゃあ、何で弟は君の名前が出るだけで酷く怯えるんだい?」
「怯える?」
「そう。君の名前を聞くと、身体を可愛そうなくらい震えさせて怯えるんだよ」
「さぁ…?私に会いたくて、興奮で身体が震えているのでは?」
「涙目で、鼻水を垂らしそうになりながら?」
「感極まってるんじゃ無いですか?」
「ははっ!……本当に、君は面白いね」

そう言って、クリスはサーシャの黒髪を一房手に取ると、そこに口付けを落とす。

「美しいレディー。今日と言う日に、貴女の様な美しい自分と同類の人間に逢えた事に、心より神に感謝します」

(私は、全くもって逢いたくありませんでした)

寸前まで出かかったその言葉を、何とか飲み込む。

「うふふっ。神様にも困ったものですね」


ーー本当に、余計な事をしてくれたものだ。


何より、あの王族特有の傲慢さはあるが意外に素直で可愛いところがあるガダルの兄が、まさかこんな面倒な人物だとは思わなかった。
あの優しげな王妃様とガダルと血が繋がっているとは、到底思えない。……まさか、国王陛下の方に似たのだろうか?それか、突然変異だ。

そんな事を思っていた時だった。

「俺の可愛い妹から離れろ、腹黒王子」

そう言って、無表情でこちらを睨み付けるアランが部屋に入って来たのだった。
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