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No.37 クリスside

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「これが、この間お前に頼まれていた依頼結果だ」

そう言って不機嫌そうな表情をしたアランは、目の前で寛ぐクリスに向かって報告書の紙を差し出した。

(本当に嫌そうな顔だなぁ…)

「ありがとう」

ブスッとした顔のアランを見て楽しげに笑いながら、差し出された報告書を受け取る。クリスは、無言で報告書を最後まで読む。

「………成る程。やっぱり、あの人が噂の元凶だったか」

クリスのその言葉を聞いて、アランは舌打ちをした。

「……何が、『あの人だったか』だ。お前の事だ、最初から目星がついていたんだろう」

その言葉に、クリスはとても満足そうに微笑んだ。

(やっぱり、君は最高だよ)

「それじゃあ、犯人に目星がついている私が何で君に依頼したと思う?」 
「はっ!どうせ、俺が使えるかどうかテストしたんだろう。アベルシュタイン次期当主であり、次代の『王家の番犬』になる俺を」
「……正解。やっぱり、アランは最高だね」

クリスは、そう言って優雅に紅茶を飲む。
そんなクリスを見て「本当に、趣味の悪い奴だな」と、アランは呆れた様に溜息をついた。

「犯人が分かってるなら、わざわざ二度手間みたいな事をさせるなよ」
「いやいや、目星が付いているだけで証拠が無かったんだよ。だから、決定的な証拠集めをテストを兼ねてアランに頼んだんだよ」

そう言うクリスを、アランは疑わしげに見つめる。

「………それで?本音は?」
「暇だったんだよねぇ~」
「だと思った」

疲れた様に椅子に身を預けるアラン。
クリスはそんな友人を見つめた後、もう一度報告書に目を通す。
報告書には、ガダルを貶める犯人である伯爵の名と家族構成、趣味趣向、愛人の人数と名前、他にも行きつけの店や最近会った他の貴族の名前もあった。

(しかし、流石は『王家の番犬』だな。依頼してたった数日で、此処まで調べ上げるなんて)

王家の暗部として、代々使えてきたアベルシュタイン家。その歴史は、建国当時からだと伝えられている。『王家の番犬』であるアベルシュタインの事は、王と王妃、次期王太子である自分、それに宰相とその他数名しか知らぬ事実。

だから、仕方はない。
仕方はないがーー。

「声を大にして、皆んなに自慢したいよ」
「絶対にやめろ」

アランは、即座に否定する。

「ははっ!冗談だよ」

クリスは、穏やかな表情でアランを見た。
彼は、頬杖をついて窓の外を見ていた。その姿は、子供ながらにとても妖艶な雰囲気を放っている。

(……でも、自慢の友人である君の事を皆んなに自慢したいのは本当なんだけどね)

そんな友人を眺めていると、部屋の扉がノックされたのだった。










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