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サーシャは普段、アベルシュタイン領で暮らしている。だが、今回王妃主催のお茶会に参加する為に王都グランにある邸宅に数日前から家族と共にやって来ていた。
「いってらっしゃい。お茶会で、素敵なお友達が出来ると良いわね」
「はい!」
「気を付けてね。嫌になったら、直ぐに帰って来ていいんだよ?サーシャに近付いて来る男がいたら、俺に教えるんだよ?」
(一体、何をする気だ)
「大丈夫よ、アラン兄様。お茶会には、沢山の子供達が来るんでしょう?私よりも可愛い子なんて沢山居るわよ」
だから自身に声をかける男子など居ないから大丈夫だと、サーシャは笑って答えた。そんなサーシャの態度に、アランは深い溜息を吐く。
「そんな風に無自覚だから心配なんだよ。………父様、サーシャをよろしくね」
「任せなさい。私の可愛い天使に近付く悪い虫は、私がちゃんと始末するからね」
「それなら安心だね」
ーー何処も安心では無い。
これ以上父と兄達を好きな様に話させていたら、どんどん不穏な会話になってしまう。そう判断したサーシャは、父親の服の裾を小さな手で引っ張る。
「お父様!早くお茶会に行きましょう!」
「そうだね、そろそろ行かないと遅れてしまうな。………じゃあ、二人共。行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
「気を付けてね」
母と兄に見送られ、屋敷の前に止めてあるアベルシュタイン家の馬車に乗り込む。そうして、馬車はお茶会の会場である王宮に向かって走り出した。
ガタガタと動く馬車の窓から、王都の街並みを眺める。流石は王都。アベルシュタイン領よりも華やかな街並み。人々は皆笑顔でとても幸せそうだ。これだけで、グラシェールの王族が素晴らしい政治を行っている事が分かる。楽しげに街並みを眺める娘を、ダリルは微笑ましげに見つめる。
ーーそんな時だった。
窓の外を眺めていたサーシャの視界に、一人の男の子が目に入った。それは、質の良さそうな白いローブを着た男の子だった。サーシャよりも少し年上に見えるその男の子は、日の光に煌く金の髪に紫の目をした綺麗な男の子だった。背後に、護衛と思われる男性二人を従えたその男の子は、人の波に紛れてしまい直ぐに見えなくなる。
(アラン兄様以外に、あんなに綺麗な顔した子供を初めて見たわ…)
やはり、自身は可愛いがそこそこのレベルだと判断した。
「サーシャ、どうしたんだい?」
「何でもないわ、お父様」
「そうかい?おっ、見てご覧サーシャ。あれがグラシェール城だよ」
そう言って、ダリルが指差した場所を見る。すると、そこには白く輝く壮大で美しい城が見えた。
「うわぁっ!凄い綺麗!」
思わず、感嘆の声が上がる。
「王都の名物といえば、このグラシェール城だと言われているんだよ。他国にも、この城の美しさは響き渡っているんだよ」
「凄いですね」
確かに、壮観な眺めだ。
これでツアーを行って金儲けが出来そうだと、子供らしからぬ下衆な考えをしているうちに馬車は城門を潜るのだった。
「いってらっしゃい。お茶会で、素敵なお友達が出来ると良いわね」
「はい!」
「気を付けてね。嫌になったら、直ぐに帰って来ていいんだよ?サーシャに近付いて来る男がいたら、俺に教えるんだよ?」
(一体、何をする気だ)
「大丈夫よ、アラン兄様。お茶会には、沢山の子供達が来るんでしょう?私よりも可愛い子なんて沢山居るわよ」
だから自身に声をかける男子など居ないから大丈夫だと、サーシャは笑って答えた。そんなサーシャの態度に、アランは深い溜息を吐く。
「そんな風に無自覚だから心配なんだよ。………父様、サーシャをよろしくね」
「任せなさい。私の可愛い天使に近付く悪い虫は、私がちゃんと始末するからね」
「それなら安心だね」
ーー何処も安心では無い。
これ以上父と兄達を好きな様に話させていたら、どんどん不穏な会話になってしまう。そう判断したサーシャは、父親の服の裾を小さな手で引っ張る。
「お父様!早くお茶会に行きましょう!」
「そうだね、そろそろ行かないと遅れてしまうな。………じゃあ、二人共。行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
「気を付けてね」
母と兄に見送られ、屋敷の前に止めてあるアベルシュタイン家の馬車に乗り込む。そうして、馬車はお茶会の会場である王宮に向かって走り出した。
ガタガタと動く馬車の窓から、王都の街並みを眺める。流石は王都。アベルシュタイン領よりも華やかな街並み。人々は皆笑顔でとても幸せそうだ。これだけで、グラシェールの王族が素晴らしい政治を行っている事が分かる。楽しげに街並みを眺める娘を、ダリルは微笑ましげに見つめる。
ーーそんな時だった。
窓の外を眺めていたサーシャの視界に、一人の男の子が目に入った。それは、質の良さそうな白いローブを着た男の子だった。サーシャよりも少し年上に見えるその男の子は、日の光に煌く金の髪に紫の目をした綺麗な男の子だった。背後に、護衛と思われる男性二人を従えたその男の子は、人の波に紛れてしまい直ぐに見えなくなる。
(アラン兄様以外に、あんなに綺麗な顔した子供を初めて見たわ…)
やはり、自身は可愛いがそこそこのレベルだと判断した。
「サーシャ、どうしたんだい?」
「何でもないわ、お父様」
「そうかい?おっ、見てご覧サーシャ。あれがグラシェール城だよ」
そう言って、ダリルが指差した場所を見る。すると、そこには白く輝く壮大で美しい城が見えた。
「うわぁっ!凄い綺麗!」
思わず、感嘆の声が上がる。
「王都の名物といえば、このグラシェール城だと言われているんだよ。他国にも、この城の美しさは響き渡っているんだよ」
「凄いですね」
確かに、壮観な眺めだ。
これでツアーを行って金儲けが出来そうだと、子供らしからぬ下衆な考えをしているうちに馬車は城門を潜るのだった。
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