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それからの生活

消しゴムの行方 34 

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 西島が小松の額にぶち当てた消しゴムは、不思議な世界にも迷い込まず、チート能力も得られずに転がった。
 転がった先を、僕らはしっかりと確認するべきだった。

 確認を怠ってしまった僕ら全員が悪かった。 
 消しゴムが、コウメの止まり木の傍に転がるなんて思いもよらなかった。

 事件は、僕が帰った後に起こったらしい。
 
 薫さんとモドキちゃんとマロンちゃんに会いたくて、さっさと僕が帰った後。
 異変に気付いたのは、西島だった。

「うそ! 何くわえているの!! コウメ!!!」

 コウメがくちばしに消しゴムを咥えている。
 
 ――誤飲

 最悪の結果が頭をよぎる。
 コウメの周囲には、誤飲しそうな物を近づけないように注意していたのに、ちょっとした注意不足で思わぬ事故につながる。

「駄目! コウメ!!」

 西島は慌てふためいたが、コウメは消しゴムを返してくれない。
 
「西島!落ち着け! コウメを保定しろ!!」

 小松の指示で、西島がコウメを抑え込む。
 それでも、コウメは消しゴムを離してはくれない。
 
 そこで、小松が活躍したのだ。

 小松が、コウメに手を噛まれながら無理矢理消しゴムをくちばしから取り返してくれた。
 小松の手は、血まみれになっていたそうだ。

「こ、小松! かっこいい!!」

 喜んで抱きつく西島。
 そこで、すかさず、小松は、西島に「付き合わないか?」と、告白したのだそうだ。

 コウメの見守る中、西島と小松は、幸せな一歩を踏み出したということだった。


 え、付き合うって西島は答えたんだよね?
 それって、昨日の出来事だよね?

 どうして現状は、こうなっているの?
 とて険悪そうな小松と西島。

「昔、成田離婚って流行ったでしょ?」

 流行ったかどうかは知らない。でも、そういう言葉が存在することは知っている。
 確か、結婚して新婚旅行に行ってみたら、相手の嫌な点が目について、速攻で離婚することを、『成田離婚』と呼ぶのだと聞いた。

 離婚を流行っていたと表現するのは、どうかと思う。

「えっと、つまり、もう別れたってことですか?」

 無粋かな? とは思うが、ここは、たった三人のゼミなのだから、聞いておかなければ今後の研究活動に支障が出るだろう。

「まあ、そうなるな。西島に、昨日散々カラオケに付き合わされてうんざりした」

 あ……普段、鼻歌程度なら我慢できても、音響設備を使ってぶっ続けで聞けば、ちょっと堪えられなかったということか。

「小松だって、全然人の話きいてくれないし!!」
「そんなサバゲーの話ばかり聞いてられるか!」
「サバゲーが趣味なのは、知っているでしょ? ちょっと小松は、ヒト科の『メス』に夢見過ぎ! お料理と可愛い小物の話だけをする女子なんて、早々存在するものではない」
「そこは、夢を見る物だろうが!! 俺は男子校出身なんだし!!」

 男子校出身者にありがちなことだとは思う。
 理想の女子を、小説や漫画の中で追い求めすぎて、現実の女性とのギャップを受け入れられない。
 その結果、謎のこだわりを相手に求めてしまう。

 険悪な二人。
 研究大丈夫かな?

 オウムのコウメが、高らかに「チクショー!!」と叫ぶ。
 コウメが元気で良かった。
 ともかく、誤飲には気をつけよう。
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