拾ったのが本当に猫かは疑わしい

それからの生活

じゅげむじゅげむ？ 27

　ゼミ室では、小松が震えむせび泣いていた。

「同ゼミの仲間が、子持ちになるだと？　俺が、研究にわき目も振らずに邁進まいしんしている間に？」
「わき目は振っていたと思うのですが……確か、何年か前に彼女いましたよね？」
「だまれ。キングリア充め！」

　キングリア充？　えっと、リア充の進化版ってことかな。スライム的な感じ？
　
「しかし、柏木がパパになるのか。にわかには信じられないね」

　西島が、一音も合わない鼻歌を歌いながらそうのたまう。
　鼻歌だから歌詞がないから原曲が判定できないが、あんなに不穏な音の配列の曲はこの世に存在しないはずだ。

「ええ。実は僕もあまり実感が湧きません。本当に僕が父親になってよいのかどうか」
「それは、これからじゃない？　母親と違って、父親は体の変化は無いしさ。周囲の態度や、相手の体の変化で感じるしかないはずでしょ？」
「確かに……」
「ペンギンのように積極的に育児に参加して頑張りたいんでしょ？　いいよ。何かあったら、研究のことは助けてあげるよ」

　ペンギンなどの鳥類は、父親も母親も、積極的に子育てを行う者が多い。
　交代で巣を守り、交代で餌を探す。
　大型の鳥に襲われた時に、燕が健気に巣から目を反らそうとする命がけの行動には、心が震える。

「ありがとうございます。薫さんの状況によっては、支えてあげたいので助かります」

　僕は、西島に礼を言う。
　こんな風に、助けてくれる仲間がいるのは嬉しい。

「で、名前は迷っているのだって？」
「ええ。名前はいくつか薫さんの周囲であがっているようですが、まだ何も決まっていない状態です。まあ、男の子か女の子かも分かりませんし、ゆっくり二人で考えようかと思っています」
「柏木！　そんなに悠長に構えていたら、後で慌てるぞ！」

　のたうち回っていた小松が、むくりと起き上がって言い放つ。

「子どもが生まれて七日以内に届け出ないと駄目なんだぞ！！」
「え、そんなに早いんですか？　それじゃあ、どんな子か分かる前に名前をつけないと駄目なのですね」

　それは計算外。
　出産の前後なんて、バタバタしていて考える暇はなさそうだ。

「でも、候補はあるんでしょ？　じゃあ簡単！」
「くじ引きとかで決めるのは嫌ですよ？」
「いいや、この西島、そんな適当なことはしない！」

　そうかな？　何事においても西島は、適当な気はするが。

「くっつけるのだよ！　候補の名前を全部！！　分かったかね！　サー・リア充・ど・ベルシュラック・モジャ・アズナブル」

　なんか新しい物がくっついて、柏木も優一も本田も消し去られた。
　もう、やりたい放題だな。

　候補の名前をくっつける。
　本田・リボン・吉宗？　えっと、これは、良くない気がする。
　たぶん良くない。
　きっと良くないとしか思えない。