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それからの生活

妊活雑誌 10

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 休みの日、お家でくつろいでいる。
 本日は、優一さんも一緒。もちろん、モドキとマロンも。
 マロンは、優一さんの膝で、優一さんに撫でてもらって満足そうにしているし、モドキは、テレビのニュース番組を観ている。本当に、相変わらず猫らしさのないモドキだ。

「あれ? この雑誌は何ですか?」

 優一さんが見つけたのは、幸恵に「勉強して下さい!!」と押し付けられた妊活・妊婦生活のバイブルともいえる雑誌。素敵ウキウキ妊娠生活を紹介して教授してくれている。

 やる気のないダラダラ系女の私には、この手の雑誌の素敵ポイントは、似合わないことが多いのだが。

「妊娠の雑誌ですか?」
「そう。会社で後輩に渡されたの。基礎体温とか、そういう知識……どうしたの?」

 優一さんの顔が、瞬く間に真っ赤になっていく。

「その……なんだか生々しくって。動物の繁殖行動で、こういう単語は見慣れているはずなんですけれども、いざ自分達人間で考えると、ちょっと照れると言うか、抵抗があるというか」

 チラリと優一さんの見ているページをのぞけば、男女の産み分けの項目。
 確かに生々しいかも。男の子を授かりたい人と女の子を授かりたい人で、何というか、お勧めの方法が違うらしい。本当か? という理論だが、きっと雑誌の人が調べた結果なのだろう。監修の医学博士の名前も載っている。

「確かに、アルカリ性と酸性で、産み分けできるという理論は分かるのですが……ちょっとこれは、もう……自分達に置き換えて考えるのは、僕にはハードルが高くて」

 そう言うと、優一さんはパタンと倒れてしまった。
 優一さん好きのマロンが、床に倒れた優一さんをペロペロと舐めて励ましている。

 こ、これは、揶揄いたくなる……。

「ねえ、子どもって、男の子と女の子、どっちが欲しい?」
「え、そんなの授かっただけでラッキーですから。生物が、受精するのって、意外とハードルの高い出来事で、まず受精のタイミングが……そう、パンダ! パンダなんて一年で三日ぐらいしか受精のチャンスがなくってですね。動物園では、とても苦労して繁殖プランを立てるんですよ」

 なんとか、自分達から遠い存在に話題をシフトしようとしている。
 
「あ、そうそう。そもそも、産まれた時の性別から、成長と共に変化する生物もいましてですね」

 優一さんは、話題を変えることに必死だ。一周廻って話題は結局、産み分けから離れられずにいる気がするが。
 自分のシッポを追いかけてクルクル回る子犬みたいだ。
 耳まで真っ赤になっている。

「薫! 烏だ!!」

 モドキが私を呼ぶ。
 モドキが観ているテレビの画面には、あの岡っ引きガラスが映っていた。
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