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お茶だけで??99

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 絹江の家に遊びに行ったモドキが夕方帰ってくる。

「薫さ~ん!!!! 今、お返しいたしますわ~!!!」
そう言って両手で高々と掲げられたモドキ。

 心配ないさ~!!
 という音楽が流れて聞こえてきそうなポーズだ。

 アフリカの雄大な大地が脳内で広がるが、心から疲れたのであろうモドキは、死んだ魚のような目をして手足を無抵抗にダランと下げている。

「あ、ありがとうございます」

 モドキを受け取って、絹江に礼を言う。
 モドキは、あれから絹江と連絡を取っていた。どうしても、モドキと過ごしたいという絹江の要望に応えて、今日は、絹江の家に午後から遊びに出かけていたのだ。

 絹江は、マロンにも、一緒にどうかと声をかけてくれたのだが、マロンは、前回の絹江の勢いに怖気づいて、首を縦には振らず、私とお留守番していた。

「いえいえ、こちらこそ!! 久しぶりに源助さんとお茶出来て楽しかったわ。二人でおしゃべりをして、ずっとお庭で座っていたの。もうそれだけで、時間が経ってしまって!!」

 お、お茶だけだと???
 それだけでこんなにモドキが消耗しているのか??

「それでねぇ、源助さんたら、私の話に、相槌を打って下さるんだけれども、その相槌が、どうもちょっとずれていて、それが可笑しくって!! でね……」

 待って、玄関先でこの状態で何時間話をする気なのだろう?

 ワンワンワン!!!

 部屋の中からマロンが呼んでくれる。

「あ、すみません。マロンが呼んでいるので、今日はこの辺で」

 助かった。マロン、有難う。なんて機転の利く良い子なんだろう。
 そう? じゃあ、また、なんて言っている絹江に、また今度~、なんて挨拶を送って玄関を閉める。

「つ、疲れた……」
モドキがうめく。

「モドキの元飼い主、パワフル過ぎない? よく五年も一緒に過ごせたね」

 絹江は、良い人だ。それは、分かる。だが、このパワフルさは、大変ではないだろうか。
 モドキを源助の生まれ変わりと信じて溺愛する絹江。五年間、この愛情の洪水を受け止め続けていたのならば、すごい。

「しばらく会っていなかったから、その分話したい内容が溜まっているようでな。まあ、仕方ない。しばらくして状況に慣れれば、絹江も落ち着くだろう」

 ヘロヘロになりながらも、モドキは絹江を擁護する。モドキの方でも、元飼い主としてそれなりに絹江を慕ってはいるのだろう。

 マロンが、モドキを舐めて励ましている。

「まあ、無理はしないでね」

 倒れるモドキに、私は、そう声をかけた。
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