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それいけ柿崎!92

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 自信をなくしてくじけそうになった時には、良いことだけを思い出したら良いらしい。

 この名文を、今こそ柿崎に贈りたい。

「なんで、なんでこう……味の微調整が上手くいかないの??」

 我が事のように悩む柿崎。
 目の前には、幸恵の作ったちらし寿司。お吸い物もついている。
 後、数日で、決戦の日。なのに、どうしても味が向上しない。どう指導したら良いのかと、柿崎は真剣に悩んでいる。

 それを、どうしてでしょう? と、にこやかに受ける幸恵。

 幸恵のためにここまで真剣に考えてくれる柿崎。
 柿崎は、顔が食物で出来たあのお方のように頼りになる。
心配するな。柿崎には、愛と勇気だけではない、私も友達だ。顔面がパンのあのお方よりも友達は多い。

「ねえ、味見はどのタイミングでしているの?」
私は、聞いてみる。

 きっと、料理のできない私なら、理由を理解できる。料理のできる柿崎には思いもよらない理由があるはずだ。

「えっとですね。盛り付ける前ですね。ご飯をちょっとと、人参を一かじり。お吸い物は、……いつだろう。貝を戻す前?」
と、幸恵が答える。

「最後に、最終確認は?」

 はっとして、柿崎が幸恵に尋ねる。

「そんなのしたら、形が崩れるじゃないですか」

 その気持ちは分かる。出来上がったものは、できるだけ崩したくないのは、私も同じ。

「じゃあ、最終的に出来た物を、食べたことは?」
「ええ~。柿崎さんに食べてもらうために作っているんですよ? なんで私が食べるんですか?」

 おい。それはさすがにどうかと……。

「食えよ……。自分で!!」

 柿崎の心の声が漏れ出る。

 柿崎が、ちらし寿司を分けて幸恵に渡す。幸恵が、自分の作ったちらし寿司を口に入れる。

「あら? なんでこんなに人参が甘いんでしょう? 分けて食べた時には、丁度よいのに……」

 幸恵が、驚いている。
 本当に食べていなかったんだ。自分のちらし寿司。
 なるほど、自分で食べていないから、あんなに斬新な味のちらし寿司を次から次へと柿崎に繰り出していたんだ。今更ながらに納得する。

「あのね、酢飯を合わさった時には、ちょっと味は変わって感じるから。だから、それを計算して、それぞれの具の味を決めるのよ」

 柿崎の説明に、なるほど~、と幸恵がメモを取る。
 ねえ、そろそろ柿崎に指導料とかお礼を払ってはどうかな? 幸恵よ。
 ボランティアでここまで丁寧に教えてもらっといて、そののほほんとした態度。その内、柿崎に見捨てられるよ?
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