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希少生物90

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 とりあえず、薫さんの両親には反対はされなかったようだし。このまま、結婚という物を進めてよいのだろう。

 いつ、入籍しよう。結婚式って、どんなことを薫さんはやりたいのだろう? どんな風に生活しよう……。

 未来のことを想像して口元が緩む柏木優一を踏みつけるのは、西島。

「幸せモジャ、ねえ、ねえ何で薫さんからのお土産が栗饅頭なの? どんな説明をしたら、私が、栗饅頭大好きっ子になるの?」

 キャンプ場で水島を撃退したお礼なのだということで、薫から西島宛に栗饅頭の箱を預かったが、柏木には意味が分からない。
 まあ、いいか。薫さんと西島の間では、通じているなら。

「だって、よろこんで食べていたでしょ? あの後、自分でも栗饅頭はまって食べていたし」

「まあ、そうなんだけれども」

 文句を言いながらも、十二個入りの箱の半分をもう西島は食べてしまった。
 牛乳と一緒に食べるのが良いのだそうで、パックの牛乳を飲みながら、西島は柏木を踏みつける。

 栗饅頭に不満があるのは分かったから、そろそろ、踏むのは止めてもらいたい……。背中が痛い。キーボードを叩く手がブレる。

 ゼミ室の扉が開いて、後輩が二人顔を出す。
 一宮とかいうやたら元気な女子。

「あ、西島さん、なんで踏んでいるんですか?」

「調子にのっているリア充を懲らしめているのだよ」

 ひどい……。

「こんな所にもリア充って生息できるんですね」

 感慨深く感想を述べる一つ下の学年の一宮。
 今は、去年柏木達の味わった無限地獄の最中のはずだ。この同期に踏みつけられているという異様な光景にも全く動じないほど徹夜でねじがぶっ飛んでいるのだろう。

「そう、生息地を離れて生きるはぐれリア充ってところかな」

 小松が調子にのる。
 そんなRPGのモンスターみたいな。

「はぐれリア充。倒したら、経験値たまりそうですね」

 倒さないでほしい。
 僕を倒しても、経験値なんて手に入らないから。

「しまった。希少価値があるなら、レッドデータブックに載っているかもしれん」
と、西島。

 なら、この足はどけてくれないだろうか?
 まあ、載ってはいないが。もし、リア充が日本から絶滅すれば、少子化どころの騒ぎではないだろう。

「パンダと一緒か?」

「パンダはリストから外れただろう? それなら、レッサーパンダだろう?」

「たしか、都道府県のには、ミノムシが載っている地域もあるんですよね?」

「オオミノガは、外来生物でもあるのだがな」

「え、そうなんですか?」

 なにやら楽しそうな話が展開している。 
 とにかく、足はまずどけてほしい。
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