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外来生物80

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 林の中に設営された迷彩柄のテントの中。
 小松と西島と柏木優一は、キョンという鹿に似た動物の生態を調べるべく準備を進めていた。

 無事に獣医師の免許を獲得したゼミ生達。綾瀬と鴨川は就職し、小松と西島と柏木の三人は、院に進んで、相も変わらず共に研究を進めている。

 キョンは、近年日本の山に増えつつある外来生物で、姿は小型の鹿。鳴き声が大きく、キャンプ場などで一際大きな鳴き声を聞けば、キョンの可能性は高い。

 教授は、このキョン達が日本の山で何を食べてどのように生活しているのかを明らかにすることで、日本の自然にどのような影響を与え、将来どのような問題が考えうるのかを明確に提唱しようとしているらしい。

「アライグマとか、猫とか、熱帯魚とか……考えずに野に放つの辞めていただきたのよね」

 西島がブツブツ文句を言っている。
 迷彩柄の服を着て、麻酔銃を抱える姿は勇ましい。これから、麻酔銃で眠らせた個体にGPSを埋め込んで、その行動範囲を調べようとしているのだ。

 サバゲ―好きの西島、銃を構える姿は、小松や柏木よりもよっぽど様になる。

「小さい頃は、純粋に可愛いとしか思っていなかった物が、外来種で環境に影響を及ぼしているって聞いたら、なんか複雑な気になりますよね」

 パソコンを設定しながら、柏木が西島に答える。

「そう、友達とアメリカザリガニとか取りに行ったりしたよな。日本中どこにでもいると思っていたあのザリガニが、一つの養殖池から広まったものだと教わった時には、世界がひっくり返る気がしたもんだ」

 小松がそう言って笑う。手には、採取したばかりのキョンの糞の入ったケース。採取場所と時間のラベルを貼っている。

 そう、小松が言うように、アメリカザリガニは、食用にしようと研究養殖していた池から、大雨の日に逃げ出した物が、今のように全国に広まったのだと言う。

 繁殖能力が強く、本来いるべき場所でないことから、外来生物は在来生物を押しのけて生息地域を増やしてしまうことが多い。
 キョンも、そうやって日本の風土の中で、勢力を伸ばしているのだろう。

「時にリア充、結婚は順調に進んでいるの?」

「順調とは……。そもそも、まだ、いつまでに何をという、締め切りのような物は決めていませんので、のんびり進めています。まずは、薫さんのご実家に行ってご挨拶して、許可をいただいてからですかね。」

 許可……出るのかな?
 獣医師の免許は取ったものの、まだフラフラと研究を続けている自分を、しっかりと社会人として地に足を付けて生活している本田薫の相手として認めてもらえるのかどうか……。

 おソノ婆ちゃんの診療所を将来継ぐ話は出ている。だから、時間のある時は、おソノ婆ちゃんの診療所で獣医師として働き、バイト料はそれなりにもらっている。だが、社会人からしたら微々たるものだろう。

 認めてもらえずに、追い出されたりするかもしれない。
 ……まさかの時のために、テントと寝袋は持って行って、車中泊が出来るようにしておこうか。

「麻酔銃……いる?」

「え? さすがにいらないですよ。何に使うんですか?」

 どうして、結婚のご挨拶にいくのに、麻酔銃が必要なのか。文脈が分からない。

「だって、向こうからしたら、柏木が外来生物でしょ?」

「……外来生物……」

「おお、そうだ。GPSを埋め込まねば」

 待て、ということは、麻酔銃は柏木に向かって使われ、外来生物としてGPSを埋め込まれるのは、柏木ということになる。

「生態を知ってもらうことで、理解も深まり許可も出るかもしれないし」

「僕の生態なんて、ほぼほぼ家と大学、バイト先とたまに実家……超極小。調べても面白くないですよ」

 後は、薫さんの家///でも、それは、隣の部屋だから、GPSで調べても上手く出ないかもしれない。

「モドキちゃんは?」

「へ? モドキちゃん?」

 そういえば、以前にモドキから電話が掛かってきた時に、名前を見られたんだった。

「そうだ。マニアなキャバクラに出入りしているんだろう?」

 モドキが接客してくれるキャバクラ……それは、もう猫カフェ。楽しそうな店だ。
 いやいや、何をどう誤解しているんだ。

「ネタは上がっているんだ。柏木優一。後は、それを弛まぬ努力で立証するだけだ」

 軍議のかけられる戦犯のように、追及される。

 ……なんて、言い訳しよう……。
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