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ちらし寿司とハマグリのお吸い物78

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 会社の昼休み。

「義両親を招いて、実家で結納をするんですけれども、その時に手料理を振舞うんです」
そう幸恵がのたまわった。

 え? 何そのパワーワード。

 一番びっくりしているのは、胡椒まみれの幸恵特製唐揚げを水で飲み込んだばかりの柿崎だ。

「あ、あんた。やめときなって。まだ早いって!」
当然のように柿崎は止める。

 料理の指導をして、生焼け→塩辛い→超絶酸っぱい→胡椒まみれ(今ここ)、数々の失敗唐揚げを食べさせられてきた柿崎の言葉は、説得力があると思うのだが、幸恵は聞かない。

「だって、三月のひな祭りの日に約束したんです」

 ひな祭りは平日。三月は決算月で、部署全体の繁忙期。無理やりにでも有休を取る気満々なのだろう。
なぜ幸恵はこうもブレないのか……。すごいな。

「で、ひな祭りなので、ハマグリのお吸い物とちらし寿司を作ろうと思っています」

 ずいぶん難しそうなメニューだ。

「それ、レトルトの寿司のモトと、お吸い物のモトでは駄目?」

 私ならそうする。あるいは、いっそ出前を取る。
 そもそも、料理は作れません、と宣言しておく。
それで破談になるくらいなら、破談になったほうが良い。だってこれから先ずっと嘘をつき続けるなんて、不可能だ。そんな窮屈な生活は、私はしたくない。

「それじゃあ、美味しくないですよ」
と不貞腐れる幸恵。

「私には、十分美味しいけれど……」
と私。

「あんたが作るより美味しいって」
と柿崎。

「大丈夫ですって。今まで色々練習しましたし。私の母も手伝ってくれると思いますし」
と幸恵は言う。

 なんだ。お母さんが一緒なんだ。じゃあ、きっと大丈夫だ。

「母は、私以上に料理は苦手なので、一緒に頑張ります」

 わあ、そうなんだ。
 彼氏さん一家、胃腸薬持参で来て下さるかしら。

 前途多難な幸恵を止める術は、我々にはない。

「いい? 幸恵。もし味付けに失敗したなって思ったら、ちらしずしならご飯を、お吸い物なら水を足して一旦薄味にして、パクチーとナンプラーを振りかけちゃえ。エスニック風だと言い張れば、味付けは誤魔化せる」

 料理上級者の柿崎が、奥の手を述べる。
 おお、なるほど。普通の和風のちらしずしやお吸い物なら、食べ慣れているから味が分かってしまうだろうが、エスニックなら、こんなもんなのかな? って、味の良し悪しが分からなくなるかも。
 さすが柿崎だ。

「ええ~。それは、なんか嫌だなぁ。普通のが食べたいです」
と、幸恵。
 
 もう、これ以上、私達は、何も出来ない……。
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