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HW69

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「絶対おかしいです」

 そう主張して私の婚約指輪にケチをつけるのは、幸恵。
 幸恵とは、とことん価値観が合わない。きっと、同僚でなければ、完全に交わらない平行世界で生活しているはずだ。

 サイズ合わせが終わって取りに行った指輪を早速つけて仕事していたら、幸恵に絡まれた。それで、彼氏と婚約してお揃いでつけている事を話したら、先ほどのセリフだ。

「だって、婚約指輪って、男性から女性にあげるものだし。何で薫さんからも、彼氏さんにプレゼントしているんですか? 一生の記念になるものだし、私なら最低……40万くらいはかけてもらわないと、別れようかと思ってしまいます」

 ……いいから、仕事しようよ。幸恵が別れるかどうかは、どうでもいいからさ。

 世間の常識として、幸恵の価値観の方が、メジャーかもしれない。私だって、多少は知っている。だけれども、私はそれでは嫌なんだ。私は柏木と対等でいたいんだ。一方的に送られる関係は嫌だ。

「そうなんだね。でも、私は満足しているから。放っておいてよ」

 私は、私の結婚感について別に幸恵に許可を取る必要はないはずだ。
 幸恵の価値観を捻じ曲げるつもりは無いから、私の価値観も、捻じ曲げようとしないでほしい。

「見て下さい。これ」

 幸恵が自慢気に見せてくるのは、あからさまにダイヤの入った高そうな指輪。
 なるほど、これを自慢する前フリとして私の指輪にケチをつけたのだね。

「わ、こんなの会社に付けてきて……失くさないでよ。面倒だから」

 こんなの失くしたら、幸恵は、誰かが盗ったんだと大騒ぎしそうだ。濡れ衣なんてまっぴらごめんだ。できれば、近づかないでほしい。

「不吉なことを言わないで下さいよ。これ、婚約指輪なんです。そう。こういうのを、婚約指輪っていうんです」

 ということは、これは、最低でも40万する指輪……。海外のスラムを歩けば、指ごと持ってかれそうだな。恐ろしい。 

「HWなんですよ」

 ホームワークではない、ハードウェアでもない。たぶん、あのキラキラ女子御用達の貴金属メーカー。おっと、これは40万どころではないな。100万くらいするかもしれない。指に100万。怖

 私なら怖くて外を一歩も歩けないだろうが、幸恵は、嬉しそうに笑っている。

 ……まあ、良かったね。よく分からんが。誰しも幸せなら良いことだ。人間は、それぞれの価値観で幸せならそれで良い。

「あれ? ネイルは?」

 幸恵は、ネイルが好きで、毎日ピンク色のネイルを付けていた。なのに、今日は、つけていないんだ。

「ダーリンが、ネイル嫌いって言うんです。そんなの付けて料理なんて信じられないって」

 ふうん。ネイルを辞めて、料理をするようになったんだ。
 昼飯にカップ麺を啜るタイプの女だったのに。
 まあ、私もレトルト業界にお世話になっている身だから人のことを言えはしないのだが。

「ダーリン。意識高い人だから、英会話も料理も当然できてほしいそうなんです」

 幸恵は、まあ当然ですよね海外のゲストを招いてホームパーティなんて開くし、なんて言っている。

「そりゃ、大変だ。確か両方出来ないでしょ?」

「でも、最初に会った時に、出来るって言っちゃったし。今、猛勉強中です」

 確か出会い系アプリで出会った彼氏だったはず。

 嘘ついちゃったんだ。特技に英会話と料理とか書いたのかな? 大丈夫なのだろうか? これ。
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