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ラスボスの降臨41

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 ともかく、これで、ラクシュ城攻めは、完全に成功したと思っていた。さすがに、これ以上の障害はないだろうと思っていたのだが、私は甘かった。

 バンと大きな音がして、リビングの扉が開く。
 そこに立っていたのは、目力の強い老婆。

「あら、お母さん」

 柏木母が、お母さんと呼ぶ存在。すなわち、これは……。

「お婆ちゃん。どうしたの?」
柏木が慌てる。

 ということは、この人が、ラスボス。自分にも人にも厳しい、獣医のお婆さん。

 まさかのここでのラスボスの降臨。
 もう私は、一杯一杯なんですけれども。無理です。勘弁して下さい。

 柏木が、それとなく私の前に立つ。
咄嗟に守ってくれようとしているのだろう。なんだか嬉しい。

 柏木の膝から私の膝に移されたマロンは、私の心を汲み取って、不安そうな表情を浮かべている。ペロペロと手を舐めてくれているのは、私を落ち着かせようとしてくれているのだろう。マロンも優しい。
 味方がいるとなると、元気も勇気も湧いてくる。

「優一の彼女がくると聞いて見てみたくて」

 そう言って、私を柏木祖母が見る。

 厳しそう。

 ラクシュとはまた違う種類の眼光を向けられて、私はたじろぐ。重い。この視線は、すごく重い。なにこれ。
 蛇に睨まれたカエルのように私は動けなくなる。

「おソノ……?」

 上方からの意外な声に、柏木祖母は、顔をキャットウォークに向ける。

「げ、源助さん……。源助さんじゃないか!」

 源助……確か、モドキの元の飼い主が呼んでいた名前だ。
 ということは、モドキと柏木祖母は知り合いということだろうか?

「久しいの。おソノ。変わりないか?」
モドキがニコリと笑う。

「良かった。源助さん元気そう。絹江さんも、心配していましたよ」

 柏木祖母、おソノが、涙を浮かべている。心配していたのだろう。
 絹江とは、前の飼い主ということだろうか?
 モドキは、以前に前の飼い主に世界旅行に連れて行かれそうになって、面倒で逃げてきたのだと言っていた。あの、バリバリ元気なお婆さんの名前が絹江なのだろう。

 突然いなくなり、モドキの源助時代の知り合いは、心配していたということか。
 
 まさか、柏木の家で、モドキの源助時代の知り合いに会うなんて思ってもみなかった。
 しかし、考えてみれば、猫の行動範囲は、それほど広くない。
 逃げ出したとはいえ、国や県をまたいで生活範囲を変えることは、ほとんどないだろう。だって、車の免許は持っていないし、電車に一人で乗ることも、あまりないだろう。

 ……モドキなら、やろうと思えば、やりそうな気はするが。

 突然のモドキとおソノの会話に戸惑っている私と柏木の横で、

「「モドキちゃん、しゃべった!! 可愛い!! え、クッキーとか焼けるの??」」
と、柏木両親が、歓喜の雄たけびを上げていた。

 見たな。一度この光景。

 ブレない猫ガチ勢柏木一族。
 ご両親とは仲良くなれそうな自信が出てきた。

 荒ぶる両親の姿に己をまた顧みて、大ダメージを受けた柏木優一は、私の隣でうずくまって瀕死になっていた。

「もう、本当ごめんなさい。」
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