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マロングラッセ30
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モドキが幸恵の部屋に消えてしばらく経って、部屋から幸恵の悲鳴が聞こえる。
何が起こっているのだろう?
茂みの中から私が部屋を見つめていると、岡っ引き烏が、何かを足に掴んでバサバサと外に飛び出して来た。
「トイプーちゃんだ」
ワタワタと慌てる私のところにトイプードルの子犬を届けると、烏は満足げに電柱に止まっている。
キャリーケースに子犬を入れて茂みで待てば、モドキを抱っこした柏木君が出てくる。
「薫! マロンは無事か?」
モドキが私を見つけて手を振る。
「大丈夫。今、ここに居てる」
私は、キャリーケースをモドキに見せる。キャリーケースの中のマロンは、モドキを見つけて嬉しそうに尻尾を振っている。
「ふむ。良かった。安心いたせ、マロン。この者達は、儂の手下だ」
マロンにモドキが私たちを紹介する。手下なんだ。初めて知ったぞ。もっと言い方があるだろう?仲間とか、家族とか。
「ふふ。モドキちゃんが説明したら、表情が違いますね。すっかり安心してくれています」
柏木が、キャリーケースのマロンに指を出せば、マロンが柏木の指をペロペロと舐めている。柏木は、嬉しそうに目を細める。
「カア」
電柱の上の烏がモドキに挨拶する。
「ああ。ありがとう。世話になったな」
モドキが手を振れば、烏は誇らしげに羽ばたいて、どこかに飛び去ってしまった。
私たちも、家路につく。
道すがら、幸恵の計画を知ってから、モドキが救出する計画を練ってくれたことを柏木に説明する。
「そうだったんですね。ありがとうございます。お陰で助かりました」
柏木は、肩の上のモドキを撫でながら、お礼を言う。
「それにしても、事前に言ってくれれば良かったですのに。マロンちゃんを助けるために、あの部屋に通わなければならないのかと、すごく悩みました」
「柏木は正直者だから演技力が無かろう? それでは、マロンを助け出せん」
フフンとモドキが笑う。
「あ……そうだ。これ」
柏木が荷物の中から、綺麗な包装紙でラッピングされた物を私に渡す。
中身は、マロングラッセ。言わずと知れた、栗を砂糖やブランデーで煮たお菓子。
店の売れ残り……? それにしては、綺麗な包装。
「できるだけ、今日お渡ししたくて。間に合って良かったです」
と柏木が言う。
今日……。ああ、バレンタインデーだった。
えっと、お世話になっている人に配る友チョコ的な? おばあちゃんが病院の受付の人に配る感じ? 勝手に特別な意味を汲み取ってしまっては、柏木に失礼になるだろう。
どうリアクションすべきかと迷って柏木をみれば、真っ赤な顔をして、こちらを見ている。
「えっとですね。マロングラッセって、アレキサンダー大王が奥様に送ったという説話がありまして。その、……男性が、一番好きな人に、贈る物だと、お店の人に教えてもらいまして……。ちょっと重いですよね。ごめんなさい」
消え入りそうな柏木の声。
意味が、意味がうまく理解できない。
え、そういう意味だよね?勘違いじゃないよね?
マジ、心臓が邪魔。ドキドキしてうまく考えがまとまらない。
返事を返さないとだめなのに。
「ほれ、しっかりせんか。薫。情けないぞ。お前の方が年上のくせに」
黙り込む私をモドキがはやし立てる。年上は余計だろ。この猫は、本当に一言多い。キャリーケースの中のマロンまで、キャンキャンとなにやら言っている。
「モドキ、うるさい。ちょっと黙って。考えているんだから」
そう。考えねば。
考える……何を考えるんだっけ?
「悩ませてごめんなさい。もし、良かったら、お付き合い願えますか?駄目なら……きっぱり諦めます。ちゃんと忘れます。あの、今まで通りで大丈夫ですので」
諦めるんだ。忘れるんだ。
ええっと、分かっている。優しい柏木君は、逃げ道を作ってくれているんだ。断りやすように、言葉を選んでくれている。
本当に優しい人なんだ。
心に柏木の優しさがゆっくりと染み渡る。
「柏木君が私で良いのならば、付き合ってみましょうか……?」
おずおずと答える私に、
「はい」
と、柏木が嬉しそうに答えてくれた。
何が起こっているのだろう?
茂みの中から私が部屋を見つめていると、岡っ引き烏が、何かを足に掴んでバサバサと外に飛び出して来た。
「トイプーちゃんだ」
ワタワタと慌てる私のところにトイプードルの子犬を届けると、烏は満足げに電柱に止まっている。
キャリーケースに子犬を入れて茂みで待てば、モドキを抱っこした柏木君が出てくる。
「薫! マロンは無事か?」
モドキが私を見つけて手を振る。
「大丈夫。今、ここに居てる」
私は、キャリーケースをモドキに見せる。キャリーケースの中のマロンは、モドキを見つけて嬉しそうに尻尾を振っている。
「ふむ。良かった。安心いたせ、マロン。この者達は、儂の手下だ」
マロンにモドキが私たちを紹介する。手下なんだ。初めて知ったぞ。もっと言い方があるだろう?仲間とか、家族とか。
「ふふ。モドキちゃんが説明したら、表情が違いますね。すっかり安心してくれています」
柏木が、キャリーケースのマロンに指を出せば、マロンが柏木の指をペロペロと舐めている。柏木は、嬉しそうに目を細める。
「カア」
電柱の上の烏がモドキに挨拶する。
「ああ。ありがとう。世話になったな」
モドキが手を振れば、烏は誇らしげに羽ばたいて、どこかに飛び去ってしまった。
私たちも、家路につく。
道すがら、幸恵の計画を知ってから、モドキが救出する計画を練ってくれたことを柏木に説明する。
「そうだったんですね。ありがとうございます。お陰で助かりました」
柏木は、肩の上のモドキを撫でながら、お礼を言う。
「それにしても、事前に言ってくれれば良かったですのに。マロンちゃんを助けるために、あの部屋に通わなければならないのかと、すごく悩みました」
「柏木は正直者だから演技力が無かろう? それでは、マロンを助け出せん」
フフンとモドキが笑う。
「あ……そうだ。これ」
柏木が荷物の中から、綺麗な包装紙でラッピングされた物を私に渡す。
中身は、マロングラッセ。言わずと知れた、栗を砂糖やブランデーで煮たお菓子。
店の売れ残り……? それにしては、綺麗な包装。
「できるだけ、今日お渡ししたくて。間に合って良かったです」
と柏木が言う。
今日……。ああ、バレンタインデーだった。
えっと、お世話になっている人に配る友チョコ的な? おばあちゃんが病院の受付の人に配る感じ? 勝手に特別な意味を汲み取ってしまっては、柏木に失礼になるだろう。
どうリアクションすべきかと迷って柏木をみれば、真っ赤な顔をして、こちらを見ている。
「えっとですね。マロングラッセって、アレキサンダー大王が奥様に送ったという説話がありまして。その、……男性が、一番好きな人に、贈る物だと、お店の人に教えてもらいまして……。ちょっと重いですよね。ごめんなさい」
消え入りそうな柏木の声。
意味が、意味がうまく理解できない。
え、そういう意味だよね?勘違いじゃないよね?
マジ、心臓が邪魔。ドキドキしてうまく考えがまとまらない。
返事を返さないとだめなのに。
「ほれ、しっかりせんか。薫。情けないぞ。お前の方が年上のくせに」
黙り込む私をモドキがはやし立てる。年上は余計だろ。この猫は、本当に一言多い。キャリーケースの中のマロンまで、キャンキャンとなにやら言っている。
「モドキ、うるさい。ちょっと黙って。考えているんだから」
そう。考えねば。
考える……何を考えるんだっけ?
「悩ませてごめんなさい。もし、良かったら、お付き合い願えますか?駄目なら……きっぱり諦めます。ちゃんと忘れます。あの、今まで通りで大丈夫ですので」
諦めるんだ。忘れるんだ。
ええっと、分かっている。優しい柏木君は、逃げ道を作ってくれているんだ。断りやすように、言葉を選んでくれている。
本当に優しい人なんだ。
心に柏木の優しさがゆっくりと染み渡る。
「柏木君が私で良いのならば、付き合ってみましょうか……?」
おずおずと答える私に、
「はい」
と、柏木が嬉しそうに答えてくれた。
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