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カフェランチ22

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 ペット同伴カフェ。家とはまた違った空間で、モドキとゆっくりできるのは嬉しい。
 事前に猫と伝えていたから、他とは少し離れた場所に席があって、まったりとできるし、小声ならモドキと会話できるのが有難い。

 モドキは、椅子の上で箱座りをしている。撫でれば、モッフリバディが心地良い。シッポがパタパタと緩やかに横に揺れている。
 
 カフェの前は公園になっている。親子連れが遊び、のんびりした光景。
 ドッグランでは、飼い主たちが世間話を楽しみ、犬たちがはしゃいでいる。それを森のリスが観ている。まったりとしたいつもの休日の光景だ。

「なんとも殺伐としているな……」

「どこがよ?」

 この平和を絵にかいて、さらにほのぼの感で上書きしたような光景に、モドキはどう殺伐とした物を観ているのか。

「あの、犬たち。リスに馬鹿にされて、マジ切れだ」

「リス……」

「翻訳すれば、リスが『この飼い犬どもめ。そんな檻からも自ら出ることも叶わぬとは。でかい図体をして間抜けばかりだな』と言い、『なにを申すか。拙者は好んで主の命に従っているのだ』と大型犬……ボルゾイか? 『は、馬鹿馬鹿しい。あんな平和ボケした主では、どうしようもないな』とリスが言い返し、『主まで愚弄するとは!! おのれ、たかが肉片のくせに』と秋田犬。後は、他の犬たちも一緒になって、どうリスを捕まえて調理するかとか、そんな感じ……あ、ハスキーだけが、事態が分からんで、ひたすら虫を追いかけて遊んでいる」

 あのハスキー、そんなボーッとした感じの犬なんだ。あんなに強面なのに。可愛いな。
 しかし、言葉が分かってみれば、風景が違って見えるのが面白い。

「ねえ、小鳥の声とかも分かるの?」

「ある程度分かる」

「あのスズメちゃんは?」

 カフェの前で客からもらったであろうパンくずをついばんでいる可愛いスズメが二匹。私の予想では、「わあ、ご飯おいしいな」程度だと思うのだが。

「あのスズメらか。『このパンは、天然酵母を使ってはいるが、まだまだだな』『やはり、この辺りのパンでは、あの駅裏のパン屋が一番だな』『ああ、天然酵母への理解度が違う』的な」

「……的な……」

 スズメ、やたらグルメだな。よし、帰りに駅裏のパン屋を探してみよう。どれだけ味が違うのか。街中の穀物を食べつくしたスズメたちのおススメのパン屋に俄然興味が湧く。

 しばらくして運ばれてきた、食事。
 モドキ用の鮪のぶつ切りと、私用のパスタ。
 バジルとモッツアレラチーズのトマトソースパスタは、モチモチとしてトマトの酸味とチーズのコクがいい感じで絡んで、結構満足できる味だった。

「どう? 鮪は?」
私がモドキに聞けば、

「うむ。噛めば鮪の味が口に広がり、歯ごたえの良い品だ。この荒波を乗り越える鮪ならではのしっかりした噛み応えは、ぶつ切りならではの楽しみ。口の中で、鮪が飛び跳ねているようだ。そして、喉を流れ落ちる鮪の風味は、鮪独特の個性ある味わいで良いな」
と、何を食べても「うーん、美味しい♪ ぷりぷり。トロリ」しか言わない、この間観たテレビの女子アナのグルメリポーターが腰を抜かしそうな、がっつりとした感想を、モドキが述べる。
 
 やはり猫は面倒くさい生き物なのかもしれない。いや、この猫もどきだけか?
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