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最高級チュール16
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成り行き上、柏木を部屋に入れてしまった。
よく知らない男性を例え年下で無害そうにみえても一人暮らしの部屋に入れるなんて、若い女性のセオリーに反するし、危険行為。やってはいけないことランキングは高い。
まあ、向こうはモドキにしか興味はないだろうから、盗撮も盗聴も……いや、モドキの姿見たさに実行する可能性はあるか?気を付けておこう。
「ありがとうね。柏木君のお陰で助かった」
ともかく柏木のお陰で正樹を追い返せたのは事実だ。お礼をいう必要しか感じない。
正樹が七年付き合って別れた彼氏であること、新しい男が出来たと嘘をついたら、確かめに来たことなどを説明する。
「いえいえ。僕なんにもしていませんし。しかし良かった。お役に立てて」
モドキを膝に載せて、柏木はご満悦だ。
「あ、そうだ。今日、良い物をもらったんで、それをモドキちゃんにあげようと思って持って来ていたんです」
そう言って柏木が出してきたのは、見たこともないキラキラしたチュール。
「今日、伝手でもらった、非売品、贈答用チュール。『大間の鮪スペシャル』『間人カニデラックス』『松阪牛エクセレント』の三本デラックスセットです」
どや顔の柏木。大間の鮪? 間人がに?? 松阪牛??? 何それ、チュールを食うために、人間の尊厳かなぐり捨てようかと思うレベルの高級食材。
え、何なら私、どれ一つ食べたことありませんが?
日本人で鮪好き、カニ好き、牛肉好きなら、一度は耳にしたことがあるだろう高級ブランドラインナップ。それが、お猫様用のチュールと化して、この部屋に。
パッケージの文言は、すさまじい。『かわいい猫様の喜ぶ顔。それだけのために。そのためだけに社をあげて現地に社員が飛び、生産者様に土下座をして我々の熱意を伝え、苦節十年。ついに実現した夢のチュール。愛しい猫様との幸せな時間を、どうかお楽しみください』などと、淡々とした文章が熱量マックスに制作したことを物語る。
生産者、漁師さんや酪農家さんだろうか。驚いただろうな。泣く子もよだれを垂らす高級食材で、猫用チュールを造るために土下座をする社員達。しかも十年も。ここの社員は、全員柏木なのだろうか?
驚きと戸惑いの混じった生産者たちの表情が目に浮かぶ……。
「うまそう……」
普通の猫のフリを頑張っていたモドキの口から、思わず言葉がもれる。
「え……?」
柏木に聞かれてしまった。モドキは慌てて口を押えているが、柏木の膝に載っているのだから、これは聞かれてしまっただろう。
どうしよう。
「か、柏木君を真の猫好きと信じて、話……」
私が、言葉を選びながら、どう説明しようかと迷っていると、
「可愛い!! 可愛い!!! マジ? モドキちゃん、賢いねえ!! え、たくさんおしゃべり出来るの?? うわ、ひょっとしてクッキーとか作れたりする??」
テンション爆上げの柏木が、モドキをぎゅっと力一杯抱きしめて、爆速スリスリを開始する。
「わ、待て。柏木。は、離せえ……!!!」
黙っている必要の無くなったモドキは、全力で柏木の腕から逃れようと抗議する。だが、モドキの言葉は聞こえていても、聞き入れてはもらえなかった。
「僕ねえ、動物と話するの夢だったんです」
全く動じていない。ガチ勢恐るべし。
モドキの前の柏木は、いつ見ても幸せそうだった。
よく知らない男性を例え年下で無害そうにみえても一人暮らしの部屋に入れるなんて、若い女性のセオリーに反するし、危険行為。やってはいけないことランキングは高い。
まあ、向こうはモドキにしか興味はないだろうから、盗撮も盗聴も……いや、モドキの姿見たさに実行する可能性はあるか?気を付けておこう。
「ありがとうね。柏木君のお陰で助かった」
ともかく柏木のお陰で正樹を追い返せたのは事実だ。お礼をいう必要しか感じない。
正樹が七年付き合って別れた彼氏であること、新しい男が出来たと嘘をついたら、確かめに来たことなどを説明する。
「いえいえ。僕なんにもしていませんし。しかし良かった。お役に立てて」
モドキを膝に載せて、柏木はご満悦だ。
「あ、そうだ。今日、良い物をもらったんで、それをモドキちゃんにあげようと思って持って来ていたんです」
そう言って柏木が出してきたのは、見たこともないキラキラしたチュール。
「今日、伝手でもらった、非売品、贈答用チュール。『大間の鮪スペシャル』『間人カニデラックス』『松阪牛エクセレント』の三本デラックスセットです」
どや顔の柏木。大間の鮪? 間人がに?? 松阪牛??? 何それ、チュールを食うために、人間の尊厳かなぐり捨てようかと思うレベルの高級食材。
え、何なら私、どれ一つ食べたことありませんが?
日本人で鮪好き、カニ好き、牛肉好きなら、一度は耳にしたことがあるだろう高級ブランドラインナップ。それが、お猫様用のチュールと化して、この部屋に。
パッケージの文言は、すさまじい。『かわいい猫様の喜ぶ顔。それだけのために。そのためだけに社をあげて現地に社員が飛び、生産者様に土下座をして我々の熱意を伝え、苦節十年。ついに実現した夢のチュール。愛しい猫様との幸せな時間を、どうかお楽しみください』などと、淡々とした文章が熱量マックスに制作したことを物語る。
生産者、漁師さんや酪農家さんだろうか。驚いただろうな。泣く子もよだれを垂らす高級食材で、猫用チュールを造るために土下座をする社員達。しかも十年も。ここの社員は、全員柏木なのだろうか?
驚きと戸惑いの混じった生産者たちの表情が目に浮かぶ……。
「うまそう……」
普通の猫のフリを頑張っていたモドキの口から、思わず言葉がもれる。
「え……?」
柏木に聞かれてしまった。モドキは慌てて口を押えているが、柏木の膝に載っているのだから、これは聞かれてしまっただろう。
どうしよう。
「か、柏木君を真の猫好きと信じて、話……」
私が、言葉を選びながら、どう説明しようかと迷っていると、
「可愛い!! 可愛い!!! マジ? モドキちゃん、賢いねえ!! え、たくさんおしゃべり出来るの?? うわ、ひょっとしてクッキーとか作れたりする??」
テンション爆上げの柏木が、モドキをぎゅっと力一杯抱きしめて、爆速スリスリを開始する。
「わ、待て。柏木。は、離せえ……!!!」
黙っている必要の無くなったモドキは、全力で柏木の腕から逃れようと抗議する。だが、モドキの言葉は聞こえていても、聞き入れてはもらえなかった。
「僕ねえ、動物と話するの夢だったんです」
全く動じていない。ガチ勢恐るべし。
モドキの前の柏木は、いつ見ても幸せそうだった。
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