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ビール2

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 風呂から上がれば、先に部屋に戻っていた縞々の猫らしきものが、勝手に冷蔵庫からビールを取り出して飲んでいる。
 へそ天で腹を上に向けて壁にもたれて座って、器用に両手の肉球で500ml缶を傾けて、うまそうにプハーと、息を吐いている。

 どこのオヤジだよ。

 しかも、あれは、第三のビールはない、本気の本物のビール、〇ビスビール様。一本しかない。

「てめえ。私が、せっかく乙女チックに彼氏と別れた残念な気分を秘蔵のそれで紛らわせようとしているのに、なんで勝手に飲んでいるんだ」

 私が、当然の抗議の声をあげれば、毛むくじゃらが、

「他にろくなものがないのだから仕方ないだろう。風呂上がりに水道水も味気ない。いいか、猫を拾えば、普通、猫用のミルクやらチュールやらを買っておくべきだろうが」
と、言い返す。

「ずいぶんな態度だな。毛むくじゃら。お猫様なら、もっと可愛らしい態度と取っておくべきだろうか。どこの猫が、主人のビールを風呂上りにくすねるんだ」
「ふ。きょうびの人間なぞ、猫の前には下僕に過ぎんのだ!!」
「くっそ、何を言うか。そもそも、お前が、猫かどうかが怪しいわ」

 猫は、普通、ビールはくすねない。言い返しもしない。それが私の常識だ。

「はいはい。にゃあ。これでいいのだろう?」

 面倒くさそうに、猫の鳴きまねを毛むくじゃらがする。

「はあ? いまさら、にゃあと言われて、どこのアホが、『わあ、可愛い♪ やっぱり猫ちゃんだぁ♪』なんて言うか。神妙に正体を明かせ」
「そうは言われてもな。儂は猫だと思って生きてきたし、周囲もそう言っていた。ならば、猫で良いではないか。チュール好きだし」

 チュールは好きなんだ。
 じゃあ……猫か?
 見た目は、確かに猫のそれを踏襲している。
 三角の耳、縞々柄の毛皮。少し毛足は長いから、ブラッシングしてやらないと駄目だろう。肉球は付いている。シッポも長くフワフワ。

「ね、猫ぉ……? いやいや、猫は人語を話さんだろう」
「五年も人間の間で生活しておるのだぞ?いい加減覚えるわ。留学生だって海外に五年住めば、多少は話せるし、赤ん坊だって言葉を話す。違うか?」
「違わないけれど……。でも……」
「今までの人生で、全ての猫に会ってきたわけではなかろう。せいぜい、十……多くて二十匹くらいの猫に出会ったに過ぎんだろうが。それで、よく、話す猫がいないといいきれる」

 毛むくじゃらが、私を論破して嘲笑する。
 こいつ。むかつく。

「でも、やっぱり猫ではない気がする……」

 納得ができない。だって、私の常識とはかけ離れている。

「それって、あなたの感想ですよね」

 猫もどきにそう言われて、思わず頭をぶっ叩いてしまった。
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