元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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17)試される私

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「ふむ……なるほど」
「……あ、ですがっ! 樫原さんにお伝えしたとおり、変わったプレイや痛みや苦しみの伴うプレイであっても、耐え抜いてみせる覚悟があるのは本当なのです! 主人への忠誠心には人一倍の自信があります! ですから、どうか……!」


 思案顔の水湊様は私の縋るような眼差しに一瞥をくれると、はぁ、と小さくため息をつかれた。


「雇用契約を終えてからの経歴詐称は、本来ならば問答無用で解雇されても仕方が無い案件だな」
「申し訳ございません……! どうか、それだけはお許しを……!」
「ふむ…………」


 言わなければならないとは思っていたものの、主人を騙すつもりなどは本当になかったのだ。
 まして、これが原因で解雇される可能性があるほとの重大案件だとは思ってもみなかった。
 つくづく無知である自分に腹が立つ。
 
 
「ど、どうしたら許して頂けますか……? 靴を舐めろと言うなら舐めます。汚泥を飲めと言われたら飲みます……! ですから」
「……はは、それは凄い覚悟だな。けれどもそんなことをされても私が楽しめないから、その提案は却下だ」
「…………ではやはり、私は解雇……?」


 不安でいっぱいの私がそう問うと、水湊様は悪戯にクスリと笑われてから、私の頭をポンポンと撫でてくださった。


「いや。こんなにやる気のある従業員を、出来れば私も解雇はしたくない」
「もちろん、やる気なら十分にあります」
「それはキミを見ていれば何となくわかる。真面目な性格もな」
「では……」


 水湊様はそこまで言って、口の端を僅かに持ち上げ、私に向かって意味深に笑われた。

 
「だが。何事にもケジメは必要だ。まして、初っ端から甘い顔をしていたのでは他の者に示しがつかん」
「では……では私はどうしたらよろしいのですか? どうしたら、お許しいただけますか?」


 水湊様の言いたいことが分からず、私はオロオロしながら考える。そういえば前のお屋敷では、赦されるために罰を受ける事が常だったっけ――。

 
「あ、あの。お仕置を……どうか私を折檻して下さいませんか? 水湊様のお気持ちが済むまで、鞭でも奉仕でも、何でも構いません……!」
「はは、鞭に奉仕……ときたか」
「もちろん、他にご要望があれば喜んで従わせていただきます。どうぞ、私に罰を与えてください」


 真剣な顔で訴える私に水湊様は少し目を丸くして、今度は興味深げな笑みを浮かべた。

 
「本気でそんなことを言うやつが、この令和の世にいるとは。だが、そうだな……では今夜は日和の言うその忠誠心とやら。試させてもらおう」


 水湊様はそうおっしゃると、おもむろに机の上にあったガラス製のピッチャーを手に取られた。ピッチャーの中にはまだ六割ほど水が残っている。


「この水を、全て飲みなさい」
「え……? は、はい」


 私は水湊様の意図が分からぬまま、差し出されるままにグラスとピッチャーを受け取る。僅かにレモンが入っているらしいその水は、特に変わった味がする訳でもなく、淡い柑橘の香る普通の水だ。

 私は不思議に思いながらも頷き、グラスに手を伸ばした。グラスの中身を一気飲みをしたあと、続けて二杯目の水も一気飲みで飲み干す。
 
 三杯分を立て続けに飲んだ私は、四杯目の水をグラスに注ぎながらチラリと水湊様を見た。
 
 水湊様は腕を組んだままじっとこちらを見られており、私は慌ててその四杯目の水に口を付けた。


「うっ……、ぷ……」


 なんとか喉に流し込みはしたものの、流石に四杯目ともなるときつい。
 夕食後というタイミングもあり、胃の中は全て水で満たされ、喉のすぐ下まで来ている。お腹に力を入れるとすぐに口の中に水が逆流してきてしまいそうだ。


「どうした?」


 私は手のひらで自分の口を押さえて首を横に振った。
 ピッチャーの中には、小ぶりなグラスにあと二杯分はあろうかという水が残っている。


「……何でもございません」


 極力表情や声色こわいろに辛さが滲まないよう微笑みながらそう答えて、私は五杯目の水に口を付けた。
 けれどもひとくち口に含んだところで逆に胃袋側から水が込み上がってきてしまい、私は飲み下すことも吐き出すこともできないままその場で固まってしまった。


「……うっ」


 喉奥から込み上げる水は、もはや吐かないように手で口を押さえるだけで精一杯だった。
 
 これ以上飲んだら、恐らく吐いてしまう。

 えずきそうになる度無理矢理堪えたせいか、目にはみっともなく涙が浮かんでしまっている。それを見守る水湊様は、ふっと口元を緩めて微笑まれた。


「苦しいか」


 私の状況を見透かすように水湊様がそう声をかける。
 
 どう答えたものかと悩んだ末、私は手で口を押さえたまま小さく頷きかけた。

 けれども私はすぐに思い直して、残りの水を無理矢理胃の中に流し込んだ。飲み下した水が込み上がって来ないよう、自ら鼻と口を塞いだ私は上を向いて耐える。

 数十秒ほどそうして耐えていると、胃袋が諦めたかのように水を下へと送り出して、吐き気が少しだけ鎮まった。
 私はその隙に六杯目……残りのすべての水をグラスに注いで、口をつけようとする。
 
 けれどもグラスの縁が私の唇を割ったその瞬間、再び胃袋からゴプンと水が込み上がってきてしまった。
 残りの水はあとふた口ほどではあるが、このまま無理矢理飲み下したところで、数秒と持たないことは明白だった。


「うっ……。少しだけお待ちいただけますか? ご命令には必ず従いますので……」


 私は脂汗が滲む額を手の甲で拭いながら、目の前のグラスをじっと見つめた。水湊様は私に向かって少し目を細めながら口を開く。
 
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