17 / 117
17)試される私
しおりを挟む
「ふむ……なるほど」
「……あ、ですがっ! 樫原さんにお伝えしたとおり、変わったプレイや痛みや苦しみの伴うプレイであっても、耐え抜いてみせる覚悟があるのは本当なのです! 主人への忠誠心には人一倍の自信があります! ですから、どうか……!」
思案顔の水湊様は私の縋るような眼差しに一瞥をくれると、はぁ、と小さくため息をつかれた。
「雇用契約を終えてからの経歴詐称は、本来ならば問答無用で解雇されても仕方が無い案件だな」
「申し訳ございません……! どうか、それだけはお許しを……!」
「ふむ…………」
言わなければならないとは思っていたものの、主人を騙すつもりなどは本当になかったのだ。
まして、これが原因で解雇される可能性があるほとの重大案件だとは思ってもみなかった。
つくづく無知である自分に腹が立つ。
「ど、どうしたら許して頂けますか……? 靴を舐めろと言うなら舐めます。汚泥を飲めと言われたら飲みます……! ですから」
「……はは、それは凄い覚悟だな。けれどもそんなことをされても私が楽しめないから、その提案は却下だ」
「…………ではやはり、私は解雇……?」
不安でいっぱいの私がそう問うと、水湊様は悪戯にクスリと笑われてから、私の頭をポンポンと撫でてくださった。
「いや。こんなにやる気のある従業員を、出来れば私も解雇はしたくない」
「もちろん、やる気なら十分にあります」
「それはキミを見ていれば何となくわかる。真面目な性格もな」
「では……」
水湊様はそこまで言って、口の端を僅かに持ち上げ、私に向かって意味深に笑われた。
「だが。何事にもケジメは必要だ。まして、初っ端から甘い顔をしていたのでは他の者に示しがつかん」
「では……では私はどうしたらよろしいのですか? どうしたら、お許しいただけますか?」
水湊様の言いたいことが分からず、私はオロオロしながら考える。そういえば前のお屋敷では、赦されるために罰を受ける事が常だったっけ――。
「あ、あの。お仕置を……どうか私を折檻して下さいませんか? 水湊様のお気持ちが済むまで、鞭でも奉仕でも、何でも構いません……!」
「はは、鞭に奉仕……ときたか」
「もちろん、他にご要望があれば喜んで従わせていただきます。どうぞ、私に罰を与えてください」
真剣な顔で訴える私に水湊様は少し目を丸くして、今度は興味深げな笑みを浮かべた。
「本気でそんなことを言うやつが、この令和の世にいるとは。だが、そうだな……では今夜は日和の言うその忠誠心とやら。試させてもらおう」
水湊様はそうおっしゃると、おもむろに机の上にあったガラス製のピッチャーを手に取られた。ピッチャーの中にはまだ六割ほど水が残っている。
「この水を、全て飲みなさい」
「え……? は、はい」
私は水湊様の意図が分からぬまま、差し出されるままにグラスとピッチャーを受け取る。僅かにレモンが入っているらしいその水は、特に変わった味がする訳でもなく、淡い柑橘の香る普通の水だ。
私は不思議に思いながらも頷き、グラスに手を伸ばした。グラスの中身を一気飲みをしたあと、続けて二杯目の水も一気飲みで飲み干す。
三杯分を立て続けに飲んだ私は、四杯目の水をグラスに注ぎながらチラリと水湊様を見た。
水湊様は腕を組んだままじっとこちらを見られており、私は慌ててその四杯目の水に口を付けた。
「うっ……、ぷ……」
なんとか喉に流し込みはしたものの、流石に四杯目ともなるときつい。
夕食後というタイミングもあり、胃の中は全て水で満たされ、喉のすぐ下まで来ている。お腹に力を入れるとすぐに口の中に水が逆流してきてしまいそうだ。
「どうした?」
私は手のひらで自分の口を押さえて首を横に振った。
ピッチャーの中には、小ぶりなグラスにあと二杯分はあろうかという水が残っている。
「……何でもございません」
極力表情や声色に辛さが滲まないよう微笑みながらそう答えて、私は五杯目の水に口を付けた。
けれどもひとくち口に含んだところで逆に胃袋側から水が込み上がってきてしまい、私は飲み下すことも吐き出すこともできないままその場で固まってしまった。
「……うっ」
喉奥から込み上げる水は、もはや吐かないように手で口を押さえるだけで精一杯だった。
これ以上飲んだら、恐らく吐いてしまう。
えずきそうになる度無理矢理堪えたせいか、目にはみっともなく涙が浮かんでしまっている。それを見守る水湊様は、ふっと口元を緩めて微笑まれた。
「苦しいか」
私の状況を見透かすように水湊様がそう声をかける。
どう答えたものかと悩んだ末、私は手で口を押さえたまま小さく頷きかけた。
けれども私はすぐに思い直して、残りの水を無理矢理胃の中に流し込んだ。飲み下した水が込み上がって来ないよう、自ら鼻と口を塞いだ私は上を向いて耐える。
数十秒ほどそうして耐えていると、胃袋が諦めたかのように水を下へと送り出して、吐き気が少しだけ鎮まった。
私はその隙に六杯目……残りのすべての水をグラスに注いで、口をつけようとする。
けれどもグラスの縁が私の唇を割ったその瞬間、再び胃袋からゴプンと水が込み上がってきてしまった。
残りの水はあとふた口ほどではあるが、このまま無理矢理飲み下したところで、数秒と持たないことは明白だった。
「うっ……。少しだけお待ちいただけますか? ご命令には必ず従いますので……」
私は脂汗が滲む額を手の甲で拭いながら、目の前のグラスをじっと見つめた。水湊様は私に向かって少し目を細めながら口を開く。
「……あ、ですがっ! 樫原さんにお伝えしたとおり、変わったプレイや痛みや苦しみの伴うプレイであっても、耐え抜いてみせる覚悟があるのは本当なのです! 主人への忠誠心には人一倍の自信があります! ですから、どうか……!」
思案顔の水湊様は私の縋るような眼差しに一瞥をくれると、はぁ、と小さくため息をつかれた。
「雇用契約を終えてからの経歴詐称は、本来ならば問答無用で解雇されても仕方が無い案件だな」
「申し訳ございません……! どうか、それだけはお許しを……!」
「ふむ…………」
言わなければならないとは思っていたものの、主人を騙すつもりなどは本当になかったのだ。
まして、これが原因で解雇される可能性があるほとの重大案件だとは思ってもみなかった。
つくづく無知である自分に腹が立つ。
「ど、どうしたら許して頂けますか……? 靴を舐めろと言うなら舐めます。汚泥を飲めと言われたら飲みます……! ですから」
「……はは、それは凄い覚悟だな。けれどもそんなことをされても私が楽しめないから、その提案は却下だ」
「…………ではやはり、私は解雇……?」
不安でいっぱいの私がそう問うと、水湊様は悪戯にクスリと笑われてから、私の頭をポンポンと撫でてくださった。
「いや。こんなにやる気のある従業員を、出来れば私も解雇はしたくない」
「もちろん、やる気なら十分にあります」
「それはキミを見ていれば何となくわかる。真面目な性格もな」
「では……」
水湊様はそこまで言って、口の端を僅かに持ち上げ、私に向かって意味深に笑われた。
「だが。何事にもケジメは必要だ。まして、初っ端から甘い顔をしていたのでは他の者に示しがつかん」
「では……では私はどうしたらよろしいのですか? どうしたら、お許しいただけますか?」
水湊様の言いたいことが分からず、私はオロオロしながら考える。そういえば前のお屋敷では、赦されるために罰を受ける事が常だったっけ――。
「あ、あの。お仕置を……どうか私を折檻して下さいませんか? 水湊様のお気持ちが済むまで、鞭でも奉仕でも、何でも構いません……!」
「はは、鞭に奉仕……ときたか」
「もちろん、他にご要望があれば喜んで従わせていただきます。どうぞ、私に罰を与えてください」
真剣な顔で訴える私に水湊様は少し目を丸くして、今度は興味深げな笑みを浮かべた。
「本気でそんなことを言うやつが、この令和の世にいるとは。だが、そうだな……では今夜は日和の言うその忠誠心とやら。試させてもらおう」
水湊様はそうおっしゃると、おもむろに机の上にあったガラス製のピッチャーを手に取られた。ピッチャーの中にはまだ六割ほど水が残っている。
「この水を、全て飲みなさい」
「え……? は、はい」
私は水湊様の意図が分からぬまま、差し出されるままにグラスとピッチャーを受け取る。僅かにレモンが入っているらしいその水は、特に変わった味がする訳でもなく、淡い柑橘の香る普通の水だ。
私は不思議に思いながらも頷き、グラスに手を伸ばした。グラスの中身を一気飲みをしたあと、続けて二杯目の水も一気飲みで飲み干す。
三杯分を立て続けに飲んだ私は、四杯目の水をグラスに注ぎながらチラリと水湊様を見た。
水湊様は腕を組んだままじっとこちらを見られており、私は慌ててその四杯目の水に口を付けた。
「うっ……、ぷ……」
なんとか喉に流し込みはしたものの、流石に四杯目ともなるときつい。
夕食後というタイミングもあり、胃の中は全て水で満たされ、喉のすぐ下まで来ている。お腹に力を入れるとすぐに口の中に水が逆流してきてしまいそうだ。
「どうした?」
私は手のひらで自分の口を押さえて首を横に振った。
ピッチャーの中には、小ぶりなグラスにあと二杯分はあろうかという水が残っている。
「……何でもございません」
極力表情や声色に辛さが滲まないよう微笑みながらそう答えて、私は五杯目の水に口を付けた。
けれどもひとくち口に含んだところで逆に胃袋側から水が込み上がってきてしまい、私は飲み下すことも吐き出すこともできないままその場で固まってしまった。
「……うっ」
喉奥から込み上げる水は、もはや吐かないように手で口を押さえるだけで精一杯だった。
これ以上飲んだら、恐らく吐いてしまう。
えずきそうになる度無理矢理堪えたせいか、目にはみっともなく涙が浮かんでしまっている。それを見守る水湊様は、ふっと口元を緩めて微笑まれた。
「苦しいか」
私の状況を見透かすように水湊様がそう声をかける。
どう答えたものかと悩んだ末、私は手で口を押さえたまま小さく頷きかけた。
けれども私はすぐに思い直して、残りの水を無理矢理胃の中に流し込んだ。飲み下した水が込み上がって来ないよう、自ら鼻と口を塞いだ私は上を向いて耐える。
数十秒ほどそうして耐えていると、胃袋が諦めたかのように水を下へと送り出して、吐き気が少しだけ鎮まった。
私はその隙に六杯目……残りのすべての水をグラスに注いで、口をつけようとする。
けれどもグラスの縁が私の唇を割ったその瞬間、再び胃袋からゴプンと水が込み上がってきてしまった。
残りの水はあとふた口ほどではあるが、このまま無理矢理飲み下したところで、数秒と持たないことは明白だった。
「うっ……。少しだけお待ちいただけますか? ご命令には必ず従いますので……」
私は脂汗が滲む額を手の甲で拭いながら、目の前のグラスをじっと見つめた。水湊様は私に向かって少し目を細めながら口を開く。
63
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる