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2章 ファナエル=???
【ファナエルSIDE】フェアな関係??
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「さぁ、どうかしらね。それを考察するのが学者ってものなんじゃないの?」
「なるほどねぇ、あくまではぐらかす訳だ」
正体を探ろうとする彼女の雰囲気に飲まれぬよう、私は余裕な雰囲気をまとって言い返してやった。
それでも霊府琴音は未だニヤニヤとした顔のまま、私をジィっと見つめていた。
「話はそれで終わり?それなら私は帰らせてもらうけど」
「おっと釣れないねぇ。話の重要な部分はここからなのに」
部屋を出るために突き出した私の足が止まる。
それは「重要な部分」というワードが引っかかったからなのか、心に触る口調の彼女に一杯食わせてやりたいと心のなかで思ってしまったからなのか、実際の所はよく分からない。
アキラと接触しているであろう『シンガン』という組織について私が知っていることは本当に少ない。
アキラを守るためにも、目の前の女から情報を引き出すのも悪くない。
そんな言葉を心の中で言い聞かせ、私は霊府琴音の瞳を睨んだ。
「君が私に正体を明かさないのはよく分かる。君視点で見れば私は敵であるし、私が近寄りがたくて信頼されないタイプの人間であることも十分に理解している‥‥‥‥でも、君は自分の正体を恋人である牛草秋良に伝えたのかい?」
「なんでそこでアキラの名前が出てくるの?アキラは関係ないでしょ?」
「おっと怖い。なに、もし君が牛草秋良に正体を明かしていないとするならば君たちの関係はフェアじゃないと考えただけさ」
私とアキラの関係がフェアじゃない?
この女は何を持ってそんなことを。
「まぁ他人の私が君達の関係性をとやかく言う資格はないのかもしれないが‥‥‥円満な人間関係を構築するなら大事なことほどちゃんと報告するべきなのはこの世の道理だ。君のやり方では、なにかのはずみに牛草秋良が君への恋心を冷ます危険性を孕んでいると考えなかったのかい?」
彼女が放ったその言葉は私にとって地雷だったんだろう。
脳に電流が流れる感覚、それと同時にフラッシュバックが巻き起こる。
『ファナエル……きっと今の君は狂ってしまったんだ。大丈夫、父さん達も皆も君の味方だ……だからその物騒な刃物をしまっておくれ』
『ああ、なんてこと。誰か早くこの子を助けて!!』
まるで化け物を見るような目で私を見つめる両親の顔。
『‥‥‥本当にゴーストが出るとは思わなかったね。皆大丈夫だった?』
まだアメリカに居たあの時、そんな事を言って振り向いた私が見た怯え戸惑う昔のクラスメイト達の顔。
思い出したくもないそんな顔が脳内に溢れ出す。
それらの顔が『お前の居場所は何処にもない』と私に言っているような錯覚さえ覚えていた。
「そんなことでアキラが私を捨てる訳が無いじゃない!!」
閑散とした教室に私の叫び声が響く。
アキラは今まで出会ってきた生命体とは違う‥‥‥違うの。
初めてあのクッキーを飲み込んでくれた人間で、私の髪の毛を飲み込んで欲しいって願いを聞いてくれるぐらい私の事が大好きな人間なの。
だからアキラが私に抱いてる恋心を冷ますわけが‥‥‥私を捨てるはずがない。
「別に私は牛草秋良が君の正体を知って幻滅する可能性だけを示している訳じゃない‥‥‥例えば、今回の私達のように君が原因で牛草秋良が本来合うことのなかったきな臭い連中に狙われることだってあるわけだ」
「そ、それは‥‥‥」
「私達の組織はボスが温厚で目的も平和的、本当に良かったよねぇ。だってさぁ‥‥‥もしかしたら君の持つ力を悪用したいって言う暴力的な組織が牛草秋良を襲う可能性だってあったわけだ。君の正体を全く知らされていない彼がそんな目にあったら対応できるはずもないことぐらい分かるだろう?」
彼女の言葉が私の心に刺さってゆく。
そうか、『私を受け入れてくれる恋人が欲しい』という気持ちだけで突っ走ってきた私はきっとアキラを見つけた時点でゴールに立っていたつもりでいたんだ。
だからこんな簡単なことにも気づかなかった‥‥‥いや、気付けなかった。
そんな思いが私の心を締め付け、私の思考を錆びさせる。
「もしそれで再起不能になるレベルの大怪我を牛草秋良が負ったら?彼の家族に危害が及んだら?それでも彼は君への恋心を保てて続けると思うのかい?君を無害な恋人だと思い続ける事が出来ると言うのかい?」
「‥‥‥‥」
出来る、アキラはずっと私の恋人で居てくれる。
そんな反論をしたかったのに言葉が出てこない。
そんな私の様子を見て満足したのか、霊府琴音は言いたいことだけ私に言い放って教室を出ていった。
誰も居ない教室の中、私は思わず頭を抱えてしまった。
とにかくアキラと会いたい。
彼の声を聞いて安心したいし、今彼が安全かどうかも確かめないといけない。
そう思って私はスマホをスカートのポケットから取り出した。
スマホを持つ手が震える。
思えば初めてアキラが私に告白してくれたあの日、彼もこんなに震えていたっけ。
ガラスに写った私の姿とあの日のアキラの姿が重なる。
アキラはこんな緊張を乗り越えて私に最初の告白をしてくれたんだ。
自分の思いが拒絶される可能性が高い状況にいてなお、アキラは私への思いをぶつけてくれた。
私がアキラにぶつけた思いは、はたして同等のものだっただろうか?
白いクッキーを食べれる人間を選別したあのやり方でアキラが私の事を好きでいてくれる前提を作ったからこその発言ではなかっただろうか?
「確かに‥‥‥これじゃフェアとは言えないかも」
自虐的になる気持ちをぐっとこらえて私は震える手をスマホの液晶に伸ばす。
プルルル、プルルル、プルルル。
プルルル、プルルル、プルルル。
電話は明らかにかかっているのに応答が無かった。
2回、3回、4回、5回と電話をかけてもアキラは応答しない。
先程聞いた霊府琴音の言葉が頭の中で再構成される。
私のせいでアキラがなにかに襲われたとしたら。
嫌な汗がダラダラと流れる。
私は急いで彼の妹であるキルちゃんに電話をかける。
プルルル、プルルル、プルルルと着信音が鳴ったところで通信が開く。
「もしもし、キルちゃん?!アキラが今どこにいるか分かる?」
『ああ、その声もしかしてファナエルちゃん?今日は朝ごはん作ってくれてありがとうね』
スマホから流れたその声は明らかにキルちゃんの声では無かった。
もちろんアキラの声でもない。
二人の母親の声が何故かそのスマホから流れて来ていた。
『この子ったらスマホを投げ捨てたままソファーで寝てたのよ。秋良もスマホ床に落としたまま何処かに出かけてるみたいでね』
「そ、そうですか‥‥‥‥」
私はそう言って通話を切る。
次の瞬間、私は一心不乱に教室のドアを開いて廊下を走り出していた。
「なるほどねぇ、あくまではぐらかす訳だ」
正体を探ろうとする彼女の雰囲気に飲まれぬよう、私は余裕な雰囲気をまとって言い返してやった。
それでも霊府琴音は未だニヤニヤとした顔のまま、私をジィっと見つめていた。
「話はそれで終わり?それなら私は帰らせてもらうけど」
「おっと釣れないねぇ。話の重要な部分はここからなのに」
部屋を出るために突き出した私の足が止まる。
それは「重要な部分」というワードが引っかかったからなのか、心に触る口調の彼女に一杯食わせてやりたいと心のなかで思ってしまったからなのか、実際の所はよく分からない。
アキラと接触しているであろう『シンガン』という組織について私が知っていることは本当に少ない。
アキラを守るためにも、目の前の女から情報を引き出すのも悪くない。
そんな言葉を心の中で言い聞かせ、私は霊府琴音の瞳を睨んだ。
「君が私に正体を明かさないのはよく分かる。君視点で見れば私は敵であるし、私が近寄りがたくて信頼されないタイプの人間であることも十分に理解している‥‥‥‥でも、君は自分の正体を恋人である牛草秋良に伝えたのかい?」
「なんでそこでアキラの名前が出てくるの?アキラは関係ないでしょ?」
「おっと怖い。なに、もし君が牛草秋良に正体を明かしていないとするならば君たちの関係はフェアじゃないと考えただけさ」
私とアキラの関係がフェアじゃない?
この女は何を持ってそんなことを。
「まぁ他人の私が君達の関係性をとやかく言う資格はないのかもしれないが‥‥‥円満な人間関係を構築するなら大事なことほどちゃんと報告するべきなのはこの世の道理だ。君のやり方では、なにかのはずみに牛草秋良が君への恋心を冷ます危険性を孕んでいると考えなかったのかい?」
彼女が放ったその言葉は私にとって地雷だったんだろう。
脳に電流が流れる感覚、それと同時にフラッシュバックが巻き起こる。
『ファナエル……きっと今の君は狂ってしまったんだ。大丈夫、父さん達も皆も君の味方だ……だからその物騒な刃物をしまっておくれ』
『ああ、なんてこと。誰か早くこの子を助けて!!』
まるで化け物を見るような目で私を見つめる両親の顔。
『‥‥‥本当にゴーストが出るとは思わなかったね。皆大丈夫だった?』
まだアメリカに居たあの時、そんな事を言って振り向いた私が見た怯え戸惑う昔のクラスメイト達の顔。
思い出したくもないそんな顔が脳内に溢れ出す。
それらの顔が『お前の居場所は何処にもない』と私に言っているような錯覚さえ覚えていた。
「そんなことでアキラが私を捨てる訳が無いじゃない!!」
閑散とした教室に私の叫び声が響く。
アキラは今まで出会ってきた生命体とは違う‥‥‥違うの。
初めてあのクッキーを飲み込んでくれた人間で、私の髪の毛を飲み込んで欲しいって願いを聞いてくれるぐらい私の事が大好きな人間なの。
だからアキラが私に抱いてる恋心を冷ますわけが‥‥‥私を捨てるはずがない。
「別に私は牛草秋良が君の正体を知って幻滅する可能性だけを示している訳じゃない‥‥‥例えば、今回の私達のように君が原因で牛草秋良が本来合うことのなかったきな臭い連中に狙われることだってあるわけだ」
「そ、それは‥‥‥」
「私達の組織はボスが温厚で目的も平和的、本当に良かったよねぇ。だってさぁ‥‥‥もしかしたら君の持つ力を悪用したいって言う暴力的な組織が牛草秋良を襲う可能性だってあったわけだ。君の正体を全く知らされていない彼がそんな目にあったら対応できるはずもないことぐらい分かるだろう?」
彼女の言葉が私の心に刺さってゆく。
そうか、『私を受け入れてくれる恋人が欲しい』という気持ちだけで突っ走ってきた私はきっとアキラを見つけた時点でゴールに立っていたつもりでいたんだ。
だからこんな簡単なことにも気づかなかった‥‥‥いや、気付けなかった。
そんな思いが私の心を締め付け、私の思考を錆びさせる。
「もしそれで再起不能になるレベルの大怪我を牛草秋良が負ったら?彼の家族に危害が及んだら?それでも彼は君への恋心を保てて続けると思うのかい?君を無害な恋人だと思い続ける事が出来ると言うのかい?」
「‥‥‥‥」
出来る、アキラはずっと私の恋人で居てくれる。
そんな反論をしたかったのに言葉が出てこない。
そんな私の様子を見て満足したのか、霊府琴音は言いたいことだけ私に言い放って教室を出ていった。
誰も居ない教室の中、私は思わず頭を抱えてしまった。
とにかくアキラと会いたい。
彼の声を聞いて安心したいし、今彼が安全かどうかも確かめないといけない。
そう思って私はスマホをスカートのポケットから取り出した。
スマホを持つ手が震える。
思えば初めてアキラが私に告白してくれたあの日、彼もこんなに震えていたっけ。
ガラスに写った私の姿とあの日のアキラの姿が重なる。
アキラはこんな緊張を乗り越えて私に最初の告白をしてくれたんだ。
自分の思いが拒絶される可能性が高い状況にいてなお、アキラは私への思いをぶつけてくれた。
私がアキラにぶつけた思いは、はたして同等のものだっただろうか?
白いクッキーを食べれる人間を選別したあのやり方でアキラが私の事を好きでいてくれる前提を作ったからこその発言ではなかっただろうか?
「確かに‥‥‥これじゃフェアとは言えないかも」
自虐的になる気持ちをぐっとこらえて私は震える手をスマホの液晶に伸ばす。
プルルル、プルルル、プルルル。
プルルル、プルルル、プルルル。
電話は明らかにかかっているのに応答が無かった。
2回、3回、4回、5回と電話をかけてもアキラは応答しない。
先程聞いた霊府琴音の言葉が頭の中で再構成される。
私のせいでアキラがなにかに襲われたとしたら。
嫌な汗がダラダラと流れる。
私は急いで彼の妹であるキルちゃんに電話をかける。
プルルル、プルルル、プルルルと着信音が鳴ったところで通信が開く。
「もしもし、キルちゃん?!アキラが今どこにいるか分かる?」
『ああ、その声もしかしてファナエルちゃん?今日は朝ごはん作ってくれてありがとうね』
スマホから流れたその声は明らかにキルちゃんの声では無かった。
もちろんアキラの声でもない。
二人の母親の声が何故かそのスマホから流れて来ていた。
『この子ったらスマホを投げ捨てたままソファーで寝てたのよ。秋良もスマホ床に落としたまま何処かに出かけてるみたいでね』
「そ、そうですか‥‥‥‥」
私はそう言って通話を切る。
次の瞬間、私は一心不乱に教室のドアを開いて廊下を走り出していた。
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