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2章 ファナエル=???
【ファナエルSIDE】牛草秋良の人望
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『今日放課後カラオケ行きたいな~』
『今日遊びに行くのめんどいし、断ろうかな』
『課題は明日の朝すればいいか』
「ハァ、ハァ、何処かに居ないの?アキラの事を見てる人」
他人の放つ心の声に耳を澄ませ、私は一人廊下を走る。
誰かアキラの事を見ていないかと思いながら私は一心不乱に足を動かしていた。
『あの子、なんかすごい走ってるね』
『転校生の子だ……何か焦ってるのかな?』
私と彼が恋人関係である事は噂で広まっているはずだから、学校中を走りまわっている私を見た人間がアキラの事を連想するはず。
その中にはきっと行方が分からないアキラのヒントになる情報が入っているはず……そう考えて私は足を動かしている。
なのにー
『あの銀髪は地毛なのかな。綺麗だし憧れちゃうな』
『なんだよアイツ、あんな走り方したら危ないだろ』
どこにもアキラに関する情報が無い。
そんな現状がどんどん私の心に焦りをもたらしてくる。
「アキラ……どこなの?」
思わず彼の名前を声に出してたその瞬間、私は誰かの身体に勢いよくぶつかった。
「キャッ」
「いってて、大丈夫……ってあれ、ファナエルさんじゃん」
声がした方向に振り向く。
そこには地面に撃墜した腰回りをさすりながらゆっくりと立ち上がるハジメ君の姿があった。
『ファナエルさんが一人って珍しいな……なんだこの違和感……あ、そうだ秋良が居ないのか』
彼の心の声が聞えたその瞬間、私はガバっと立ち上がる。
「ハジメ君、今アキラがどこにいるか分からない?!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
「どんなに些細な事でも良いの、一時間目が終わった後、アキラの姿をどこかで見なかった?!」
必死だった。
それはきっと、私の姿を見てアキラの事を思い出したのはハジメ君だけだったからなのだろう。
解答に戸惑う彼を煩わしく思いながら私は彼の肩を揺らす。
「ま、待って。秋良が今どこにいるのか知らないんだって」
「今居る居場所じゃなくてもいいの、2時間目以降にアキラを見た記憶はある?!」
「2時間目以降……そういやあんまり違和感無かったけど、秋良の奴席に座ってなかったような」
違和感が無かった、その言葉が引っかかる。
私もあの一時間目が終わるまで『アキラは教室に居ない』という事に違和感を持たなかった。
もしかしたら……アキラが居ない事に気づいているのは私とアキラと特別仲が良かったハジメ君だけなのかも知れない。
「どうしよう……これじゃ手掛かりになるものがない」
「あの……俺状況よく分かんないんだけどさ、とりあえずスマホ鳴ってるし電話出てみたらいいんじゃねーか」
「電話?」
ハジメ君に指摘されて、私は携帯の着信音が鳴っていることに初めて気が付いた。
電話の送り主はキルちゃんだった。
「もしもしキルちゃん」
『やっほ~、ファナエルさん。さっきは電話に出れなくてごめんね~』
「ううん、良いの。それよりキルちゃんー」
『秋にぃの居場所が知りたいんでしょ?』
きっぱりとした彼女の声が私の頭に強い衝撃を叩き込んだ
彼女は私の求めてやまない答えを導きだしてくれていた。
『僕もビックリしたんだよ。秋にぃがいつの間にか部屋には居なくなるわ、スマホは置いていくわ、ファナエルさんからは大量に連絡が来るわでさぁ……そんでもって秋にぃの制服に仕込んでたGPSを確認してみたら廃墟に居るんだもん、驚いたよね~』
「制服にGPS……いや、そんな事よりアキラは今廃墟に居るっていう情報は間違いじゃないんだね」
『こんな嘘ついても僕にメリット無いしね。僕はこの後用事があって忙しいからファナエルさんにこの座標あげる。それで秋にぃの様子見てきてよ』
彼女がそう言ったのと同時に私のスマホに画像データが届く。
それは町全体の道が記された地図だった。
その地図には右端のある箇所に赤い点が添付されている。
「この赤い点の所にアキラが居るんだね」
『そういう事そういう事』
「ありがとうキルちゃん、それじゃあ通話切るね」
『ちょ、ちょっと待って。一つだけファナエルさんに伝えたい事があるんだけどー』
通話を切ろうとしたその瞬間、彼女は慌てたような声で私を呼び止めた。
「何?」と聞き返すと、一端彼女は通話に音声が入るほどの大きな深呼吸をした。
『僕はファナエルさんの事を正直信用してないし、怪しいと思ってる……それでも秋にぃは違う、きっと何があってもファナエルさんを見捨てないってぐらいちょ~重い愛をファナエルさんに抱いてる。うん、妹として長い間一緒に住んでた僕が言うんだから間違いない』
「キルちゃん」
『だからさ、頼りない男に見えるかも知れないけど秋にぃの事信じてあげて』
彼女の言葉には不思議な説得力があった。
それがアキラの妹としての説得力なのか、彼女と言う人間が持つ説得力の強さなのかは分からない。
正直そんなのどうだっていい。
「……アキラが頼り無く見えたことなんて無いよ」
私は彼女の言葉で思いだせたんだから。
震えながら私に告白してくれた彼を。
あのクッキーを食べてくれた彼を。
私の髪の毛を食べてくれた彼を。
「ありがとうキルちゃん。迷ってたことが吹っ切れた」
色々考えてたけど……私の正体を正直に打ち明けよう。
大丈夫、ちょっと怖いけどきっとアキラなら受け入れてくれる。
『そう、それじゃぁ頑張って』
彼女との電話はそうして切れた。
私は彼女から送られてきた地図を見て振り返る。
「さっきの話、ちょっとだけ俺にも聞こえてきた」
「ハジメ君……」
「俺も一緒に行くぜ、ピンチに駆けつけてこその友達だからな!!」
『それに、俺ならここまで数分で行ける近道を知ってる。最近引っ越してきたファナエルさん一人で行かせるより早く着くはずだ』
彼の心から聞こえてきたその声も、今の私にとっては何よりありがたい情報だった。
キルちゃんにハジメ君、アキラの周りにいる人たちが彼を助けるために動いてくれている。
「分かった、それじゃぁこの場所まで私を案内して欲しいな」
「おう!!二人で秋良の事助けてやろうじゃねーの!!」
こうして私達は正門に向かって走り出す。
待っててアキラ、今すぐそっちに行くから。
『今日遊びに行くのめんどいし、断ろうかな』
『課題は明日の朝すればいいか』
「ハァ、ハァ、何処かに居ないの?アキラの事を見てる人」
他人の放つ心の声に耳を澄ませ、私は一人廊下を走る。
誰かアキラの事を見ていないかと思いながら私は一心不乱に足を動かしていた。
『あの子、なんかすごい走ってるね』
『転校生の子だ……何か焦ってるのかな?』
私と彼が恋人関係である事は噂で広まっているはずだから、学校中を走りまわっている私を見た人間がアキラの事を連想するはず。
その中にはきっと行方が分からないアキラのヒントになる情報が入っているはず……そう考えて私は足を動かしている。
なのにー
『あの銀髪は地毛なのかな。綺麗だし憧れちゃうな』
『なんだよアイツ、あんな走り方したら危ないだろ』
どこにもアキラに関する情報が無い。
そんな現状がどんどん私の心に焦りをもたらしてくる。
「アキラ……どこなの?」
思わず彼の名前を声に出してたその瞬間、私は誰かの身体に勢いよくぶつかった。
「キャッ」
「いってて、大丈夫……ってあれ、ファナエルさんじゃん」
声がした方向に振り向く。
そこには地面に撃墜した腰回りをさすりながらゆっくりと立ち上がるハジメ君の姿があった。
『ファナエルさんが一人って珍しいな……なんだこの違和感……あ、そうだ秋良が居ないのか』
彼の心の声が聞えたその瞬間、私はガバっと立ち上がる。
「ハジメ君、今アキラがどこにいるか分からない?!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
「どんなに些細な事でも良いの、一時間目が終わった後、アキラの姿をどこかで見なかった?!」
必死だった。
それはきっと、私の姿を見てアキラの事を思い出したのはハジメ君だけだったからなのだろう。
解答に戸惑う彼を煩わしく思いながら私は彼の肩を揺らす。
「ま、待って。秋良が今どこにいるのか知らないんだって」
「今居る居場所じゃなくてもいいの、2時間目以降にアキラを見た記憶はある?!」
「2時間目以降……そういやあんまり違和感無かったけど、秋良の奴席に座ってなかったような」
違和感が無かった、その言葉が引っかかる。
私もあの一時間目が終わるまで『アキラは教室に居ない』という事に違和感を持たなかった。
もしかしたら……アキラが居ない事に気づいているのは私とアキラと特別仲が良かったハジメ君だけなのかも知れない。
「どうしよう……これじゃ手掛かりになるものがない」
「あの……俺状況よく分かんないんだけどさ、とりあえずスマホ鳴ってるし電話出てみたらいいんじゃねーか」
「電話?」
ハジメ君に指摘されて、私は携帯の着信音が鳴っていることに初めて気が付いた。
電話の送り主はキルちゃんだった。
「もしもしキルちゃん」
『やっほ~、ファナエルさん。さっきは電話に出れなくてごめんね~』
「ううん、良いの。それよりキルちゃんー」
『秋にぃの居場所が知りたいんでしょ?』
きっぱりとした彼女の声が私の頭に強い衝撃を叩き込んだ
彼女は私の求めてやまない答えを導きだしてくれていた。
『僕もビックリしたんだよ。秋にぃがいつの間にか部屋には居なくなるわ、スマホは置いていくわ、ファナエルさんからは大量に連絡が来るわでさぁ……そんでもって秋にぃの制服に仕込んでたGPSを確認してみたら廃墟に居るんだもん、驚いたよね~』
「制服にGPS……いや、そんな事よりアキラは今廃墟に居るっていう情報は間違いじゃないんだね」
『こんな嘘ついても僕にメリット無いしね。僕はこの後用事があって忙しいからファナエルさんにこの座標あげる。それで秋にぃの様子見てきてよ』
彼女がそう言ったのと同時に私のスマホに画像データが届く。
それは町全体の道が記された地図だった。
その地図には右端のある箇所に赤い点が添付されている。
「この赤い点の所にアキラが居るんだね」
『そういう事そういう事』
「ありがとうキルちゃん、それじゃあ通話切るね」
『ちょ、ちょっと待って。一つだけファナエルさんに伝えたい事があるんだけどー』
通話を切ろうとしたその瞬間、彼女は慌てたような声で私を呼び止めた。
「何?」と聞き返すと、一端彼女は通話に音声が入るほどの大きな深呼吸をした。
『僕はファナエルさんの事を正直信用してないし、怪しいと思ってる……それでも秋にぃは違う、きっと何があってもファナエルさんを見捨てないってぐらいちょ~重い愛をファナエルさんに抱いてる。うん、妹として長い間一緒に住んでた僕が言うんだから間違いない』
「キルちゃん」
『だからさ、頼りない男に見えるかも知れないけど秋にぃの事信じてあげて』
彼女の言葉には不思議な説得力があった。
それがアキラの妹としての説得力なのか、彼女と言う人間が持つ説得力の強さなのかは分からない。
正直そんなのどうだっていい。
「……アキラが頼り無く見えたことなんて無いよ」
私は彼女の言葉で思いだせたんだから。
震えながら私に告白してくれた彼を。
あのクッキーを食べてくれた彼を。
私の髪の毛を食べてくれた彼を。
「ありがとうキルちゃん。迷ってたことが吹っ切れた」
色々考えてたけど……私の正体を正直に打ち明けよう。
大丈夫、ちょっと怖いけどきっとアキラなら受け入れてくれる。
『そう、それじゃぁ頑張って』
彼女との電話はそうして切れた。
私は彼女から送られてきた地図を見て振り返る。
「さっきの話、ちょっとだけ俺にも聞こえてきた」
「ハジメ君……」
「俺も一緒に行くぜ、ピンチに駆けつけてこその友達だからな!!」
『それに、俺ならここまで数分で行ける近道を知ってる。最近引っ越してきたファナエルさん一人で行かせるより早く着くはずだ』
彼の心から聞こえてきたその声も、今の私にとっては何よりありがたい情報だった。
キルちゃんにハジメ君、アキラの周りにいる人たちが彼を助けるために動いてくれている。
「分かった、それじゃぁこの場所まで私を案内して欲しいな」
「おう!!二人で秋良の事助けてやろうじゃねーの!!」
こうして私達は正門に向かって走り出す。
待っててアキラ、今すぐそっちに行くから。
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