星空の戦闘機 18歳の特攻兵。幼馴染の二人。あのときあなたは約束しました。「きっと君を迎えにいくと」

花丸 京

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6  B・29のパイロット東京上空の告白

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二階建ての小さな家と、三坪の花屋ができた。
大家さんも喜んでくれた。
一階を店にし、二階には、かのんと大家さん夫婦が住んだ。
大家さん夫婦の二人の息子は、相変わらず復員ふくいんしてこなかった。
フィリピンから復員した男が言ういう。
自分は地獄の戦場から帰れたのは、運がよかったからだけだ。

銀座商店街の復興祭もおこなわれた。
戦時中に供出された鉄柱が新しく立てられ、街灯も復活した。
夜の街がはなやかになると、かのんの花屋も昼夜を問わずにぎわった。
昼間は一般の客に花を売り、夕方はバーやキャバレーやクラブに花を納めた。
仕入れる花は、すべて金次郎の馬車が運んできた。
かのんはジョーに恩義おんぎを感じていた。だから夜の店の納品が増えると、ジョーの仕事の邪魔をしているのではないかと心配した。
しかし、安心して商売しなとジョーがいっていた、と金次郎が言付けてくれた。

かのんは、おかっぱ頭の可憐かれんな顔のまま、店の経営者になっていた。
店の中央の棚には、ラジオが置いてあり、りんごの歌も流れたし、喉自慢のどじまんもやっていた。たずびとの時間には、相手の名前と探している人との人間関係や、かんたんないきさつが述べられた。
花に囲まれ、尋ね人の時間をききながら、かのんは、サクラのマキさんの消息をラジオで放送してもらおうかと、真剣に考えた。
『以前、銀座八丁目で商売をしていたサクラのマキさんをご存じの方、銀座三丁目松屋裏の花屋の店主さんがお探しです。ご存知の方、ご連絡をおまちしております』
サクラのマキさんは本名ではなかったし、銀座八丁目の商売といえば、娼婦しょうふであろうことぐらいさっしがついた。
尋ね人の時間で探せる相手ではなかった

かのんはほんとうに、お金をサクラのマキさんに返そうとした。
もっていたルビーのいきさつは知らないが、いくら食べ物が欲しくて苦しまぎれとはいえ、たわら一俵分の米では安すぎた。
ルビーを売ったお金のはんぶんで、バラックにちかかったが、小さな店が建った。
その金があれば、娼婦の職業からも足が洗えただろう。

だが、たったの一ヶ月で、サクラのマキさんと彼女たちのグループは消えていた。
あの家には、ほかの女性たちも住んでいた。
誰もいなくなった理由は、警察の夜娼やしょう狩りだそうだ。
そうではなく、全員がどこかの場末のキャバレーに流れた。あるいは、どこかの旦那衆だんなしゅうめかけになったとか、全員が第三国人にだまされ、外国に売り飛ばされたとか、噂はばらばらだ。
かのんは、銀座、有楽町、御徒町、上野、新橋の警察をめぐった。
だが、サクラのマキさんはどこにも拘束されていなかった。
ジョーにも相談したが、噂すら拾えなかった。


花屋ができ、二週間ほどしたときだった。
おめでとう、とGHQに勤務していたジェームス大尉があらわれた。
かのんに花束をわたしながら、いつになく真剣な顔つきでつづけた。
「わたし、ワシントン転勤になりました。かのんさん、一緒にアメリカにいきませんか?」
瞬間、かのんには意味がよくわからなかった。
「わたしと結婚してください」
いいなおされ、かのんは意味を理解した。
おどろき、花束をもったまま一歩後ずさりした。
「……わたしは日本人です。アメリカ人とは結婚はできません」
ようやく答えた。
頭のなかでは、理由など考えていなかった。
ただ、口からそんなことばがでた。

大家さん夫婦が、なにが起ころうとしているのかと、そばにきた。
二人は、ホウモンギのファンのジェームス大尉をよく知っていた。
「どうしたんだい?」
奥さんがきいた。
「ジェームスが、私と結婚してアメリカにいこうって」
「ええ?」
息を飲み、奥さんは手にしていた着物を胸にあてた。
「すごいじゃないか」
隣りの旦那さんも、あごをしゃくるようおどろいた。
「この人は、変なGIじゃないね。GHQの大尉だよ。日本のこともよくわかっているし。真面目で頭もよいし、すごい金持ちで血統もいいはずだろ」
旦那だんなさんが、いいことばかりをならべた。

二人とも、ジェームス大尉に好意を抱いていた。
かのんは店を経営し、生活に困っている身ではない。
それでもジェームス大尉との結婚は、大家さん夫婦から見れば、シンデレラのようだった。
「わたしには、特攻とっこうにいった夫がいます。ここで帰りをまっているんです」
思いだしたように、かのんは口にした。
そこにいれば、どんぐりさんもピストルで撃たれた服部も、父も母もどんぐりさんの両親とも、思い出と一緒に生きていける。

「かのんさん。あなたにはカミカゼの旦那さんがいたんですか?」
ジェームス大尉の深い青い目が、見ひらかれた。
「いいえ、婚約者です。東京上空でB-29にぶつかりました」
思わず答えていた。
「東京上空で……B-29と……」 
ジェームス大尉が、おどろいたように口ごもった。
「ジェームスさん、どうしたんですか?」
奥さんが日本語できいた。
ジェームスはそれくらいの日本語なら理解した。
「私はご存知のように、アメリカ空軍の大尉です。実は戦時中はB-29に乗っていたんです。東京上空には何度もやってきました。そしてあの空で、勇敢ゆうかんな日本軍の戦闘機と戦い、撃墜げきついされたんです」

ジェームス大尉は、店の入り口から背後をふりかえった。
PXになっている松屋デパートのコンクリートの建物に、直線で区切られた青い空が見えた。
B-29のパイロットだったときいて、こんどは、かのんがおどろく番だった。
おかっぱの前髪の下の二つの目が、大きくまたたいた。
「あなたの婚約者は、どんな飛行機に乗っていましたか?」
半歩まえにでて、ジェームス大尉が訊ねた。
飛燕ひえんです」
かのんはジェームス大尉を見上げ、小学生のように答えていた。
「トニー……」
ジェームス大尉はつぶやいた。

アメリカ側は、日本の戦闘機の飛燕をトニーと呼んでいた。
そしてジェームス大尉の乗ったB-29は、まさしくそのトニーにやられたのである。
B-29に乗っていた、ときいたかのんも大家さん夫婦も、息をのんでアメリカ軍の空軍の将校を見守った。
ジェームス大尉の話は、意外な方向に展開した。


ジェームスが初めて東京上空を飛んだのは、三年前だった。
パイロットとしての初出撃だった。
九十機の編隊で、攻撃目標は中島飛行機武蔵製作所だった。
太平洋では八百メートル上空を飛んだ。
日本近海で高度を上げ、富士山上空で編隊を組みなおした。
爆撃進路を航行しながら、何事もおこらないでくれ、と乗組員たちは神に祈った。
すでに同じコースを飛んだ編隊のうち、十数機が撃墜されていた。

眼下に霞んだ街の広がると、東京上空だった。
まっていたように敵機があらわれた。
たちまち対空砲火の幕ができた。
いままで仮想空間で体験していた戦闘を、ジェームスは目の前にしていたのだ。
おののいている暇はなかった。
四機の戦闘機が、一列になって襲ってきた。
B-29の機銃と敵の機銃の弾丸が、火をきながら左右に交差した。
当たるなと首を縮め、ジェームスはB-29の操縦桿そうじゅうかんを握りしめた。

一度めの攻撃をかわすと、こんどは下方から一機が襲ってきた。
機銃を発射しながら、ジェームスのB-29すれすれをかすめた。
敵は、体当たり覚悟の攻撃だった。
ジェームスは、はっきりそれを感じ、身震いした。
二波の攻撃をかわし、前方のB-29の編隊の群れに目をむけると、対空砲火をあびた全機が黒煙のなかだった。
すると味方の一機が、突然爆発し、火をふいた。
がくんと機首をさげると、そのまま垂直に落下していった。
その機は墜落のとちゅうで爆発し、さらに粉々に吹き飛んだ。
パラシュートは一つも開かなかった。十一人のクルー全員が即死だった。

もしパラシュートで降下し、捕虜ほりょになったら、知っている事実はすべて喋っていい、とジェームスたちは軍司令部からいわれていた。
日本軍が捕虜から情報をひきだしたところで、いまさら手の打ちようがない、とアメリカ軍側は余裕だった。
しかし、そうはなりたくなかった。
ジェームスは、自分の飛行機の腹に抱えている爆弾が、にわかに恐くなった。
対空砲火をまともに食らえば、孕んでいる火薬が爆発し、今見た仲間の飛行機のように粉々になる。
ジェームスは、前方を飛ぶ指揮官の機に注目した。
はやく爆弾を投下しろ、はやく、と頭のなかでくりかえした。
爆弾は、指揮官機と同時に投下するきまりになっていた。

ついに、指揮官機の腹の扉が、左右にあいた。
目標の上空に到達したのだ。
「扉開け。投下」
ジェームスの命令がとんだ。編隊を組んだほかのB-29の腹からも、いっせいに破壊用の爆弾が投下された。
同時に、対空砲火の弾丸がすぐ近くで炸裂さくれつした。
機内に炸裂さくれつ音が響き、操縦席そうじゅうせき閃光せんこうが走った。
が、腹のなかの爆弾をだしてしまったからなのか、あまり恐怖は感じなかった。
地上には、世界最大の都市が亡羊ぼうようとしてひろがっている。
いま下にいる日本人たちは、どんな思いをしているかと、ジェームスはふと考えた。よい気分ではなかった。

そのときジェームスは、はじめて日本の戦闘機のトニー(飛燕)を見た。
突然、上空から三機がひるがえったのだ。
味方の機銃の閃光弾が、敵機をめがけ、糸を引いて集中した。
トニーからも機銃の弾丸が飛ぶ。
三機はそのまま編隊をかすめ、飛びさった。

初飛行は無事、任務を遂行した。
だが、数回目の東京上空の飛行でジェームスは、爆撃連隊の隊長機を失った。
その機には大佐が二人、少佐が一人搭乗していた。
トニーに体当たりされ、墜落ついらくしたのだ。
トニーはきいていたとおり、勇敢で厄介やっかいだった。
戦争が終わったあとで調べてわかったのだが、ぶつかった相手は調布の飛行第244戦隊の隊長機だった。
かのんの許婚者がいた隊である。しかもその隊長は、落下傘で飛びおり、生還せいかんしていた。


首都、東京をいくらB-29で爆撃されても、日本はひるまなかった。
もちろんアメリカ軍は、B-29がやられる以上に、日本の戦闘機を撃墜していた。
それでも日本の戦闘機は、隙をつくように、頭上から、あるいは下方から、忽然こつぜんと姿をあらわした。
B-29よりも性能が劣るので、すべては待ち伏せ攻撃である。
トニーだけではなかった。
あらゆる種類の戦闘機が、B-29の編隊を奇襲した。
太陽を背にし、きっちりと編隊を組んでつっこんでくる。
みんなよく訓練されていた。
ジェームスは、機首を引き起こし、すんでのところを、何度も体当たりをかわした。が、すぐにつぎの敵機が太陽を背に、ひるがえった。

その回の爆撃のときは、隊の右側の一機がとらえられた。
エンジンが破壊され、制御不能におちいり、編隊の下方によろりと滑空していった。B-29の爆撃隊は、編隊を組んでいる。だから、墜落していく味方の機との衝突をさけようと、各機が隊をはなれる。
一時的に全体がばらけるのだ。
すると、はなれた機を狙い、戦闘機が襲ってくる。
さらに一機がやられ、煙を吐きながらジェームスの操縦する機のはるか下方に、きりもみ状態で落下していった。
ようやく安全地帯に到達する。
ジェームスはいつも汗びっしょりだった。
靴下までもが濡れていた。

そのつぎの出撃のときは、すぐまえの機がやられた。
やはりトニーだった。
ジェームスの前方の機は、襲ってくるトニーにありったけの機銃をむけた。
トニーは、B-29の機銃から発射された曳光弾せんこうだんに包まれながら、つっ込んできた。
トニーとB-29、双方の翼が吹っ飛んだ。
二機とも空中でばらばらに分解し、八千メートル下方の地上に墜落していった。
そのB-29の操縦士は、ジェームスの友人だった。

日本の戦闘機が、どんなに恐かったことか。
B-29の乗組員、十一人全員は、いつ自分の番がくるのかとつねにおびえていた。
東京上空の飛行は、死と隣りあわせの地獄だった。
気が滅入ったのは、焼夷弾しょういだん爆撃だった。
出撃のミーティングで、自分たちのB-29の腹のなかに、焼夷弾が詰めこまれていると知ったとき、みんなはうつむいて口をきかなかった。
ジェームスは、これが戦争なのだ。
あれだけやられても降参しない日本が悪い、
明日にでも降参してくれれば焼夷弾を落とさなくてすむ、と本気で考えた。

夜間の東京上空には、B-29を捕らえようと、巨大なサーチライトが照射された。
サーチライトが一機を捕らえると、ほかのサーチライトが一斉に光を交差させてくる。銀色に光ったB-29の周囲に、対空砲火の砲弾が幾つも炸裂する。
それでもB-29は飛行を続ける。
すでに先行のB-29が焼夷弾を落とし、地上には火がひろがっている。
煙が雲のかたまりになり、六千メートルもの上空に立ち昇っている。
目的の地域は火の海で真昼のように明るい。

ジェームスたちは、その地獄にさらに焼夷弾を落とすのだ。
地上からの灼熱の上昇気流で操縦桿そうじゅうかんをしっかり握っていないと、機体がひっくりかえりそうになる。
立ち昇る気体には、焼ける人の臭いが混ざっている。
息がつまった。
ジェームスの仲間のあるクルーは、東京上空の焼夷弾爆攻撃のときは、落下傘をつけなかった。
もし自分たちの機が墜落したときは、無事に落下傘で地上にたどり着いたとしても、怒り狂った市民に殺される。
しかも、まともな殺され方などしない。
それならいっそ、機体とともに墜落していったほうがいい、というのだ。

焼夷弾攻撃のあとのサイパンまでの七時間の飛行中、ジェームスたちはだれも口をきかなかった。
自分たちは日本の都市や工場を爆撃し、多くの人々を殺戮さつりくした。
もういいだろう、はやく降参してくれ、やはくこの戦争を終わらせてくれ、と願う。その一方、出撃した敵の都市の上空で、それでもなお攻撃をしかけてくる日本の戦闘機の恐怖に、みんなは心底おびえつづけた。
精神的苦痛は極限きょくげんだった。
出撃のたび、B-29は、三百機、四百機と編隊を組むのだが、十機、十五機と毎回撃墜されていた。

そして、焼夷弾攻撃が一息ついたあとの出撃で、ついにジェームスに地獄行きの番がまわってきた。
頭上からひらめくようにトニーがあらわれ、機銃掃射をしてきた。
弾丸が、ジェームスの右腿わずか十センチの操縦席を貫いた。
機首が破壊され、操縦不能におちいった。
機の平衡を保ちながら、隊長のジェームスはクルー全員に脱出命令をだした。
搭乗員は間隔をおき、つぎつぎに脱出していった。
最後にジェームスが脱出した。

外気は凍っていた。
着ていたのは飛行服と空軍のジャケットだけだった。
パラシュートを開らかず、そのまま落下しつづけた。
地上千五百メートルほどのところで、やっとパラシュートを開らいた。
眼下は緑の畑だった。千葉の上空であった。
と、ジェームスは、自分にむかってくる三機の戦闘機を見つけた。
恐怖と絶望がジェームスを襲った。見たこともない固定脚の単発機だった。

戦闘機は、一直線に接近してきた。
近づくと、落下傘の周りを旋回せんかいしはじめた。
ジェームスは覚悟し、目を閉じた。
だが、いつまでたってもなにも起こらなかった。
ふたたび目を開けてみると、一機だけが残っていた。
その一気のパイロットが手を振っていた。
ジェームスは、旋回する戦闘機を見守った。
おどろいたことに、日本人のそのパイロットはジェームスにむかい、敬礼けいれいをしていたのだ。
ジェームスも落下傘の紐にぶら吊がりながら、夢中で敬礼をかえした。
住民たちはこのようすを見物していた。
だから、地上に降りたジェームスに襲いかかるような真似はしなかった。

ジェームスは捕虜ほりょになり、戦後をむかえた。
GHQ勤務になったとき、このときのパイロットを探しだした。
そして本人に会えた。千葉県の横芝を基地にしていた第三九教育飛行隊の海江田伍長であった。
海江田伍長はジェームスにこういった。
『日本には武士道がある。西洋には騎士道がある。だから私は、戦い終わった兵に敬意を払ったのです』


ジェームスは一ヶ月後に帰国した。
かのんは、ジェームスに特別な好意を抱いていたわけではなかった。
それに、B-29のパイロットだったジェームスを、どう理解していいかわからなった。
ジェームスの心境は理解できたが、あくまでもアメリカのB-29は、自分の両親や知人たちを焼き殺した、非情な殺戮者さつりくしゃたちだった

かのんが通訳したジェームスの話のあらすじに、神妙な顔をしてきいていた大家さん夫婦やいあわせた近所の人たちだった。
かのんにその気がないと知ると、もったいないことをした、アメリカ人になれて、金持ちになって、すごい家に住めたのに、とみんなで残念がった。
かのんもそう思う。ジェームスは心の優しい、いい男だった。
だからといって、はい、と答えるわけにはいかないのだ。

かのんの花屋は順調だった。
バラックが多かった銀座の商店街も、かのんの店のように、しだいに復活していった。
銀座にはPXがあり、休暇でやってくるGIたちも東京見物にきて、銀座をぶらついた。
大通りはアメリカ人であふれ、ますます賑やかになった。
そしてGIたちは、ところかまわず日本人女性たちを誘った。
PXの日本人店員たちは、物を売るのとデートの申し込みを断るのに大忙しだった。
だから銀座の商店街では、若い女性はうっかり店に立てなかった。
かのんの店にもGIがやってきて花を買い、かのんをデートに誘った。
乱暴者が、アメリカ人はなにをしてもいいとばかりに、手首を掴んでひきたてようとさえした。

こいつはなにかやりそうだなと感じると、かのんは片手に柄杓ひしゃくをもって対応した。
そして無理な行為にでようとするGIの額を、柄杓の底で殴りつけた。
カコーンといい音がし、そんな対応をする日本女性におどろく。
しかも英語で、ふざけるな馬鹿やろう、といわれるので呆気あっけにとられてしまう。
やんわり断る場合は、わたしはGHQに大尉の恋人がいます、とかのんは答えた。
この話を、馬車で花を運んでくる金次郎がジョーにしゃべった。
「ねえちゃん、気に食わないGIの客がくると、柄杓で殴りつけているっていうじゃねえか」
ソフト帽を被って、いつものようにジョーがふらりとやってくる。
「あいつらは、日本に勝ったからなにをやってもいいと思ってやがる。そして、恥じらいを見せる日本人の女性には、強引にでればなんとかなると考えてやがる」
おかっぱ頭の小柄なかのんを眺め、はははと笑う。

「ジョーさん、あのひとたちのなかにはアメリカ人のくせに、英語もろくにしゃべれないのがいるし、お釣りの計算もできないのだっているんだよ。そんなGIと日本人の娘が結婚し、むこうにいったらどうなるんですか」
かのんは、気になって訊ねた。
「どうにもならないだろうね。やつらはだれもが、ニューヨークみたいな都市からきてるわけじゃない。電車もビルも見たことのない田舎いなかで、まわり一面は平原で、ひざくらいの雑草がやっと生えている荒地みたいなところで方言しゃべって生活してる」
「そんなところで、そのアメリカ人はどうやって暮らしているんですか」
「バッファローっていう野生の牛追っかけて、その肉食って、ときどきインデアンと戦ってる。ここじゃあこがれのアメリカ人で通ってるけど、国に帰ればただの田舎者いなかものさ。よくてトウモロコシ畑たがやしているくらいだな。みんなろくに学校にもいってねえ。ねえちゃんはそういうやつの正体見抜いて、日本なでしこを代表し、柄杓でぽかぽか頭叩いているってわけだ。こいつはおもしれえや」
胸を反らし、ジョーはなおも笑う。

父親に捨てられという意味もあってか、アメリカ人をよく思っていないようだ。
「店は順調かい。なにかあったら遠慮なくいってきなよ」
銀座では、愚連隊ぐれんたいやヤクザ者が闇市やみいちのショバをめぐり、きったはったの暴力沙汰が日常だった。だが、ジョーは子分も連れて歩かず、いつも一人だった。
                                                                   ●6章終

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