上 下
7 / 50

訓練

しおりを挟む
''救世主''と呼ばれている俺達は、無駄に広く、豪華な食堂で何処ぞの高級ホテルだと皆が目を輝かせるような朝食を取った。

異世界であるこの国と、地球の食事がどのように違うかまた、口に合うか等と不安はあったものの、不思議なことに食材などの物は地球と全く同じであった為安心できた。

こんな時にでも、思考の余地を設ける食事は、人間にとってどれほど大事なものなのか改めて実感出来る。

「さて、皆様には今日から訓練を行ってもらいたい」

そう言うのはこの国の国王だ。
どういう訳だが朝、突然現れて自己紹介をして以来、訓練の為に来た訓練所にまで着いてきているのだ。

「訓練って、私達は戦いなんてしたことありません! 」

委員長がそう言う。

「分かっておる。その辺の事はこいつに任せろ」

そう言って後ろに控えていた1人の男を示す。
王国の紋章だろうか、獅子を象った金色のそれが胸の辺りにひとつついている。
剣を腰に携え、体格のいい大男だ。

だが、年齢は若くない。顎に生えた綺麗にとは言えないがある程度整えられた髭と顔の所々にシワが現れている事から容易に推測ができる。

「俺は、この国の騎士団長を務めているラングラスだ。陛下から、貴殿らの指導の命を請け負った。よろしく頼む」
「と、言う事だ。今後は彼に指導して貰ってくれ。では私はもう行く」

国王は、幾分かの兵士と騎士団長を残してその場を立ち去った。

「では、早速訓練を始めたいと思う。だが、貴殿らは戦闘以前に基礎体力を付けてもらう。とりあえず、この訓練所を50周してからだ」

(は、50周? )

俺はその無駄に広い訓練所を見渡す。

その訓練所は、ソウが通っていた高校よりも広い。そんなにグランウドが広い高校では無いものの、それよりも断然広いこの訓練所を50となると、気が遠くなる。

「お、俺達が何故こんな訓練を! 」
「そうだ、俺達がする必要は無い! 」
「私……ムキムキになんてなりたくないわ!」

明らかに1人だけ違う趣旨の批判があるが、殆どのものがこの訓練を受けたくはないようだ。
みな、思い思いに批判の言葉を投げている。

「五月蝿い! 貴様らはこの宮殿で養われている。現に泊まる場所も食事も最高峰を与えたでは無いか! 」

そう言われると返す言葉がないようだ。
現に、最高峰のもてなしを受けているのだから。

だが、かと言ってこの訓練は俺も嫌だ。

ソウは、普段めったに開かない口を開いた。

「だが、俺達はそれを望んでない」
「なんだと? 」
「俺達は、わけも分からずこの地に飛ばされ、具体的な事は聞かされずにもてなしを受けた。と、言うより受けざるを得なかったんだ」
「なにを……陛下から承諾は得たと聞いているが? 」

余裕の表情を浮かべる騎士団長。
ここの時点でソウは既に分かっていた。

もし、自分達が力で反抗して王国側は数で抑え込む気だと。
ここに国王が来たのも、反発が起きることを予想して、その反発に対処しやすいつまり……兵士を集めやすい訓練所で全てを説明したのだり

恐らく、以前も召喚を行った事があるのだろう。
対応が完璧である。

だが、これは全て向こうが勝手に行ったこと。説明も録にされていない。
そんな状況で言い負けるほど、俺は馬鹿ではない。

「なんの承諾だ? 」
「決まっている。魔王討伐及びその為の訓練だ」
「それはおかしいな。俺達は魔王討伐をする必要があることは理解しているが、それを了承した覚えは1度もないぞ」
「な……そんなはず」

俺は、少し狼狽える騎士団長から目線を外し、すぐ側で見ていた王女を見る。

「王女様、俺達は魔王討伐をしなければ元の世界に帰れないとは聞いたが、だからと言って魔王討伐を行うとは一言も言ってないよな? 」
「えぇ、そうですよ。お父様、何を勘違いなさっているのでしょう」

これでハッキリわかった。王女が嘘をついているかは鑑定のスキルでお見通しだ。
この王女は、あちら側の人間ではない。

「だ、だからと言ってもてなしを受けたのだから、対価は払ってもらわねば! 」
「だから、それがおかしい。俺達に選択権は無かったのだ。言われるがままに行動したと言っただろう。俺達は、半ば強制的にここで寝泊まりし、飯を食った」

つまりと、ソウは続ける。

「騙されたんだ。俺達は」

何かを提供する時、あたかもそれが善意かのように振舞っていた。
対価、リスクなどを説明せずにだ。

これは、騙されたと言っても過言ではない。

後ろでは、普段口を開かない俺が饒舌な事に驚きを隠せていない物が多数いるようだが、俺は気に停めなかった。

騎士団長の顔はわかりやすく変化する。
余裕の表情が崩れ、赤く染まる。怒っているのは一目瞭然だ。

なんせ、王国側が俺達を騙したと、侮辱にも等しい言葉をかけられたのだから。

「我ら王国が、たかが平民如きを騙すなんて事をするはずが無い! 身分を弁えろ! 」
「この王国は平民如きに最高のもてなしをするのか。物好きな国もあるものだな」

俺はそう言ってさらに挑発する。

この世界の騎士団長の強さがわからない今、もし戦闘になっても良いように、思考能力を著しく落とすためだ。

人は、怒れば怒るほど冷静な判断が出来なくなると、何かの本で読んだことがある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

職業通りの世界

ヒロ
ファンタジー
この世界では、職業が全て。 勇者「俺が魔王を倒す!」 魔法使い「魔法で援護する!」 剣士「剣で切り刻んでやる!」 そんな中、主人公である館山陸人(たてやまりくと)の職業は…… 執事「何なりとお申し付けください」 予想とは裏腹に、万能な執事という職業で、陸人は強くなっていき、勇者をも超える存在に!? 投稿ペースは不定期ですが、投稿する時は20時に投稿します! 2作目になります。前作と繋がっているところはほとんどありませんので、気にせず読んでもらって結構です。 前作も良ければ読んで頂くと、かなり後の展開をより楽しめると思います。 誤字脱字の報告や感想はいつでもお待ちしております! Twitterもやりますので、感想を書くのが恥ずかしいとかある場合はそちらに是非!質問もある程度はお答えします! ヒロ @hi_rosyumi

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

最強魔力を手に入れ 魔王と呼ばれたぼっちは 人生をやり直すため 未来へ転生しました 〜来世の世界は魔法が衰退していたようです〜

夢咲 天音
ファンタジー
偶然と勘違いの連鎖で、人々に魔王と呼ばれ恐れられていた男がいた。 「魔王サクヤ!! お前を滅ぼし世界の平和を取り戻してやる!!」 勇者クロウはそう言い、曇り一つないミスリルの剣を振り、その剣先をサクヤに向けた。 だからどうしたというのだ。 誰かと関わるのが苦手で、ぼっちな人生を過ごしていた。 しかも魔王と呼ばれて、勇者に命を狙われる日々だ。 サクヤは、それに嫌気が差していた。 どうやら、生涯をかけて開発した、転生魔法を使う時が来たようだな。 この状況こそ、人生をやり直す大きなチャンスになるのだ。 勇者と戦う気の無いサクヤは、考えを行動に移した。 そして、サクヤは勇者との死闘の最中に、どさくさに紛れて転生魔法を発動する。 サクヤは勇者によって、消滅させられたかのように見せかけて、密かに生まれ変わったのだ。 今度こそ、人と関わって幸せな人生を過ごすという願いを込めて。 だが、そんなに上手くいくわけが無かった……。 「魔力が減ってる!! しかも、前世の半分も残っていないではないか……」 転生には成功したのだが、サクヤの魔力を含めた、全ての魔法の力が衰退した世界に生まれてしまったのだ!! さらに、転生した世界に存在する男によって、サクヤの人生は大きく変化するのだった! サクヤは本来の力を取り戻して、幸せな人生を掴む事ができるのだろうか!? ※習作ですが、よろしくお願いします。

女神の心臓

瑞原チヒロ
ファンタジー
「ねえ、精霊。もしもいるのなら――どうしてお母さんを助けてくれなかったの?」 人間と精霊が共存する世界。森に住む少年アリムには、精霊の姿が見えなかった。 彼を支えていたのは亡き母の「精霊があなたを助けてくれる」という言葉だけ。 そんなアリムはある日、水を汲みに訪れた川で、懐かしい姿を見つける。 一方その頃、町ではとある青年が、風精の囁きに応じ行動を始めていた。 表紙イラスト:いち様 pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=1688339 ■小説家になろう、エブリスタ・カクヨムにも掲載。 ★現行の「女神の心臓」は、勝手ながら現状の第二話をもって終了となります。  そして、作者に余裕ができたらリニューアルして新「女神の心臓」として復活させます。ちょっと雰囲気変わります。  現行の分を「完結」表示にするかは、まだ決まっておりません。  作者にその余裕ができるのか謎ですが…。現行のお話を読んでくださったみなさま、本当にすみません。そしてありがとうございます。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...