「完結」ゾンビと片腕少女はどのように死んだのか特殊部隊員は語る

第二章 生存者たち

第八話 スーパーへの旅路

倉庫の薄暗さに朝の光が滲む。俺たちは工場での死闘を生き延び、川沿いで出会った生存者たち――健太と彩花という子供2人、山本、亮、玲子という大人3人――と一時的に身を寄せていた。詩織が子供たちに毛布を掛け、穏やかな声で「暖かいね」と笑う姿は、優しさに溢れている。佐藤、田中、由美が大人たちと話す中、俺は猟銃を手に外の気配を窺う。

山本が語り出す。「美奈子さんが工場で俺たちを引っ張ってた。彼女がお前らに川沿いの偵察を頼んだよな。」

「ああ。」俺が頷く。工場で会った美奈子は、短髪が首筋に沿って揺れ、静かな声で俺と詩織に指示を出した。女性らしい柔和さとリーダーの芯の強さが同居していた。「変異種の群れを見つけた。50体以上。病院で仲間を失い、戻るのが遅れて工場がやられた。」

「病院？」玲子が息を呑む。

「地下で戦った。高橋が死んだ。それが遠因だ。」俺が簡潔に答える。血の臭いと高橋の叫びが脳裏に残る。

「美奈子さんの指示が…」亮が呟く。

「彼女は状況を知りたかっただけだ。変異種が想定外だった。」俺が返す。美奈子の判断は悪くなかった。敵が賢すぎただけだ。

「彼女はどこに？」佐藤が聞くと、山本が答える。「スーパーだと思う。美奈子さんが店長だった場所。多摩川から西に少し。物資は豊富だが、窓が多くて守りにくいから放棄した。でも、彼女ならそこにいるよ。」

「なら、そこへ行く。」俺は決める。物資が乏しい今、スーパーは希望だ。美奈子が俺たちを知ってるなら、話は早い。「準備しろ。すぐ出発だ。」

詩織が子供たちに目をやり、俺に頷く。


スーパーへの道

朝が訪れ、俺たちは倉庫を出る。猟銃の弾は2発、佐藤のライフルは弾切れ、ナイフ、金属棒、鉄パイプ、バールが武器。食料は缶詰数個と水が少し。亮と玲子が健太と彩花を支え、詩織が子供たちの手を握る。俺が先頭を進み、佐藤と田中が両脇、由美が後方を警戒する。

多摩川沿いを西へ向かう。川面が朝陽に映え、遠くで風が木々を揺らす。1時間ほど歩くと、スーパーの看板が視界に映る。屋根は残るが、外壁が崩れ、駐車場に車が散らばる。

「気をつけろ。何か潜んでるかもしれねえ。」俺が言うと、全員が身構える。詩織が子供たちに囁く。「静かにね。私がそばにいるよ。」健太が頷き、彩花が詩織の手を強く握る。

スーパーに近づくと、割れたガラスドアから風が流れ込むが、人の気配がある。軽い足音と優しい声。俺が車の陰から覗くと、美奈子が現れる。短髪が耳元で揺れ、ショットガンを手に持つ姿に女性らしいしなやかさがある。俺たちを覚えているはずだ。

「お前らだね。」美奈子がショットガンを下げ、近づく。短髪を指で軽く整え、柔らかな笑みを浮かべる。「川沿いの偵察、どうだった？」

「変異種が50体以上いた。病院で仲間を失い、工場に戻るのが遅れた。あれが崩壊の遠因だ。」俺が報告する。

美奈子が小さく息をつき、短髪を首に沿わせる。「病院でそんな目に…私の指示で辛い思いをさせたね。ごめんよ。」彼女の声に女性らしい気遣いが滲む。

「ここはどうだ？」俺が聞くと、彼女が肩をすくめる。「物資は2週間分あるよ。でも、窓が多いからね。守るのは大変だよ。」

「防衛を固めよう。物資があればなんとかなる。」俺が提案すると、美奈子が頷く。

スーパーでの再会と新たな光

スーパー内部は賑わっていた。20人以上の生存者。子供10人、大人10人以上。テントが並び、缶詰や水が整理されている。美奈子の几帳面さが伺える。窓は多く、割れたガラスが目立つが、棚やカートで壁が作られている。

「無事に帰ってきてくれてほっとしたよ。」美奈子が俺と詩織に言う。短髪を軽く払い、詩織に目を向ける。「あなた、片腕でも頑張ってるんだね。すごいよ。」

「ありがとう。私、おじさんと一緒に戦ってるの。」詩織が照れ笑いする。

「いい相棒がいて良かったね。私も負けないように頑張るよ。」美奈子が詩織の肩を軽く叩き、短髪が揺れる。女性らしい温かさがそこにある。

詩織が健太と彩花を連れて中へ進み、他の子供たちと出会う。10人の子供が集まり、笑い声が響く。彼女が片腕でカートを押して毛布を配る姿に、生存者たちが目を細める。俺が近づくと、彼女が振り返る。「おじさん、子供たちがいっぱい。私、嬉しいよ。」

「お前のおかげだ。」俺は答え、彼女の背を叩く。「誰かを守る気持ち、忘れんな。」

ひとときの休息

その日、俺たちは休息を取る。美奈子が物資を分け、50代の男・藤田がスープを温める。香りが広がり、子供たちが目を輝かせる。詩織がスープを配り、健太が「美味しい！」と笑う。彩花が詩織の膝に座り、スープをすする。

「おじさん、あげる。」詩織が俺に缶を差し出す。俺は受け取り、温かさに体がほぐれる。

「お前も食え。頑張ったんだからな。」俺が言うと、彼女が自分の分を取って微笑む。「みんなと一緒だと幸せだね。」

佐藤と田中が壁に凭れ、由美が子供たちと笑う。美奈子が俺に寄り、短髪を指で払う。「変異種が厄介だね。お前らの偵察で分かったけど、私、もっと慎重にならないと。」彼女が柔らかく続ける。「ここをどうするか決めなきゃ。」

「窓を塞げばなんとかなる。敵の数は読めねえが、やるしかない。」俺が答える。

「なら、明日から補強だよ。私が仕切るから、お前らも頼むね。」美奈子が言う。彼女の声は優しいが、決意に満ちている。

夜が訪れ、スーパーが静まる。俺は駐車場の見張りに立ち、詩織が子供たちと眠る姿を見る。彼女が呟く。「おじさん、私、強くなったよね…。」

「ああ。お前は立派だ。誰かを守る心が強い。」俺は答え、猟銃を握る。休息は貴重だ。変異種が来るかもしれないが、今は生きている喜びを感じる。

平穏の終わり

深夜、風が強まり、割れた窓から冷気が入る。遠くで唸り声。俺は美奈子に目をやり、彼女がショットガンを手に立ち上がる。「何か来るかもね。」彼女が囁き、短髪を軽く整える。詩織が目を覚まし、金属棒を握る。

「おじさん、一緒に戦うよ。」彼女が言う。

「ああ。頼むな。」俺は頷き、闇を見据える。スーパーは新たな拠点だが、試練は続く。