よもやまメモ噺

広重の遺言噺

　「東海道五十三次」で知られる浮世絵師の歌川広重は、1858年に江戸でコレラが大流行するなか、病に倒れてしまったのである。

　コレラだと思った広重は家族に対して「……何を申すも金次第、その金というものがないゆえ、われら存じよりなんにもいわず、どうとも勝手次第身の納まり、よろしく勘考いたさるべく候」すなわちお金を残してやれないから、何にも言えないが、何とかして生きていってくれという意味の遺言を書いたのだ。

　だが、3日経ってもまだ生きていたので、広重は「葬儀は簡単にして、みえや飾りはいらない。湯灌もまねごとだけで、水をさっとかけるだけでいい。手数をかけるのはムダな骨折りだから、いらない。ケチはよくないが、ムダははぶくように。通夜にきてくれた人にはごちそうするように」と、2通目となる遺言をしたためたのである。

　改めて死期を悟った広重であったが、彼はそのあともまだ3日生きたとのことだ。

　では、今回はこの辺で失礼をば。