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イヴァンのお話 その六
しおりを挟む話題の4人はというと、皆んなの熱視線を避けるべくバルコニーで涼んでいた。
会場の中が暑いとは感じていなかったが、いざ外に出ると知らぬうちに火照っていた体が夜風を心地よく感じる。
「あの・・・・イヴァン様、これ・・・・。」
申し訳なさそうにハルが差し出した手の中には先ほどの壊れた髪飾り。
イヴァンはそれをそっと受け取ると一番大きなカケラを月明かりにかざした。
「綺麗だな。」
こんな綺麗なモノをイヴァンに似合うと思って選んでくれたなんて・・・・
それだけで嬉しくてつい口元に笑みが浮かんだ。
暫く眺めるとハンカチに包んでズボンのポケットに仕舞う。
懐にしまおうと思ったら、そういえば上着を貸してしまったんだったと思い出したのだ。
「イヴァン様、すみません。」
「イヴァン、ごめん。」
ハルとゼノウの謝罪が重なった。
「二人ともなぜ謝るんだ?ハルは私の代わりに怒ってくれたんだろう。嬉しかったよ、ありがとう。
ゼノウも私のためにこんな綺麗なモノを選んでくれてありがとう。」
本心からそう言ってるのだが、二人は苦い顔だ。
レオは、ハルの顔を眺めて口元を緩ませている。
恐らく、『苦い顔のハルも可愛い』などと
思っているのだろう。
「でも、僕のせいでイヴァン様の髪飾りが・・・・」
「ハルのせいじゃないだろう。それを言うなら俺が・・・・」
「二人とも!!いいんだ、私が欲しかったのは髪飾りではないから。
ゼノウが私のためにあれだけの時間をかけて・・・・心を尽くしてプレゼントを選んでくれたということが何より嬉しいんだ。壊れてたってその事実は変わらない。
だから、私にはこれで充分なんだ。」
「・・・・イヴァン。」
ゼノウがイヴァンを力強く抱きしめる。
ゼノウのこの逞しい腕の中に収まれるのは自分だけなのだと、今回のことで改めてイヴァンはその幸せを噛み締めた。
「イヴァン、俺はお前のことがこんなにも愛おしい。あまりにも愛おしすぎて胸が酷く痛むんだ。たまにお前と溶け合って一つになれたらいいのに、なんて本気で考えてしまう。」
「ふふっ、そしたらこうして抱きしめ合うことができないよ、ゼノウ。」
そう返したがイヴァンも時々、同じように考える時がある。
どれだけ触れ合っても足りず、もっともっと深く、長く、それこそ溶けて混ざりあえたらいいのに、なんて思ってしまうのだ。
「まーた俺らの存在忘れられてる。
ハル、俺たちもそろそろ部屋に帰って愛を確かめあおっか?」
「う゛っ、愛を確かめ合うかについては置いておいてお邪魔なので他所に移るのは賛成です。」
そんなレオ達の会話が耳に入らないくらい、イヴァンは幸せに浸っていた。
■◇□◆
「ふーん。そんなことがあったんですね。全然知りませんでした。そして相変わらずイヴァンはゼノウに甘いですね。」
オリバーはお茶を飲むとしみじみ言った。
「オリバーはあの時、相手がいないからって執務室で仕事してたしね。」
「何が悲して他人のイチャイチャを眺めるイベントに参加しなくてはいけないんですか。
まぁ、今年は私もパートナーがいるのでゼノウの二の舞にだけはならないように気をつけますよ。」
オリバーが揶揄うように言うと、ゼノウがムッとして言い返す。
「俺だって反省してあれ以来イベントごとに興味持つようになった。
あの後、壊れた髪飾りのブルーサファイアだけ取って、土台はオーダーメイドにして作り直したんだ。イヴァンと相談してな。」
今もイヴァンが髪につけている髪飾りがそれだ。
毎日大切に使っている。
イヴァンとゼノウは顔を見合わせると、当時と同じく幸せな気持ちで微笑み合った ───。
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