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ゼノウのお話 その一
しおりを挟むこの日、ゼノウはこの上なく機嫌がよかった。
親友のレオはとうとう愛する番を見つけたし、大苦手だったリンダンは自国に送り返した。
今後二度と入国は禁止なので、もう会うこともない。
その上、今回の手柄で大隊長に昇格したのだ。
父の背中を追いかけ、必死に訓練を積んできたが、自分の夢まであと一歩のところまで来ている。
それに今日は天気がいい。
最近随分寒くなってきたからこんな暖かいのは久しぶりだ。
レオの執務室に書類を提出しに行った帰り、中庭を少しゆっくり歩きながらその陽気を楽しんでいた。
「ーーーっだよ。」
中庭の隅の大きな木と建物の間、陰になっているところからなにやら声が聞こえる。
穏やかじゃないその声に、ゼノウは足を止めた。
「なんだ?」
せっかく気分良く歩いていたというのに。
足音を立てずに近づいていくと、小柄な男たちが一箇所を囲んで何か喚き散らしている。
大きい体を縮こませて、壁際に追い込まれてる彼はゼノウもよく知る人物だ。
「お前たち、何をしている?」
「ゼ、ゼノウ様!僕たち彼にここでの振る舞い方を教えて差し上げていたんです」
「そうです。この方、元は平民の出と聞いたので、分からないことも多いだろうと思いまして。」
先ほどより一オクターブ高い声でキーキー言い訳をする彼らは王宮に勤めるオメガたちだ。
ゼノウに上目遣いでシナをつくり、オメガらしい可憐な容姿を存分に活用している。
そして彼らに囲まれていたのがハルだ。
小柄なオメガに囲まれるとハルは頭一つ分大きいにも関わらず、ここにいる誰よりもぷるぷると小動物のように震えている。
「それはお前たちの仕事ではないし、彼はレオの番だ。態度には気をつけたほうがいい。」
「でも、まだ噛まれていないんですよね?この人、本当に王太子様の番候補なんですか?
だって、この人見るからに・・・・ねぇw?」
馬鹿にしたようにハルの全身に視線を走らせると皆してクスクスと笑う。
ゼノウはそれを見て眉を顰めた。
「今しがた、態度に気を付けろと忠告したはずだが?
このことはレオに報告させてもらう。」
ゼノウが語気を強めてそう言うと、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
まぁ、逃げたところで顔は覚えたが。
「ハル、そろそろレオも休憩すると言ってたから執務室まで一緒に行こう。」
そう言ってゼノウはハルの手をとる。
しかしその瞬間、反射で咄嗟に手を離した。
「あっちぃ!!!」
ゼノウは手をぶんぶん振って熱を飛ばす。
掌がヒリヒリして赤くなっていた。
「すみません。暴力振るわれた時用に体温を火にかけたヤカンくらい上げておいたので。わー、スゴい赤くなってる!本当にすみません(汗)」
ハルは一気に体温を下げるとゼノウの焼けた手を両手で包み込む。
「おー、冷たくて気持ちいい。」
熱が急激に冷やされ、痛みが治まってきた。
プルプル震えてたわりには案外強かに対策うってることに思わず笑ってしまう。
そして、必死にゼノウの手を冷やすハルを見て、こうも思う。ハルもだいぶ明るくなったな。・・・・と。
前は顔を長い前髪で隠していつも俯いていた。
話し方だってこんなにハキハキ受け答えできなかったはずだ。
その成長にしみじみと感慨深いものを覚えたゼノウは、無意識のうちに微笑んでいた。
「何してるんだ?二人とも」
ちょうど通り掛かったイヴァンがおかしな様子の二人に気付いて声を掛けた。
「い、イヴァン様。あの、今、ゼノウ様に助けていただいて、手を、その・・・・」
ハルは未だにイヴァンを敬愛していて、アイドルにでも遭遇したかのように頬を染め上げる。
イヴァンもそんなハルを弟のように可愛がっていた。
「ハル、もう大丈夫だ。イヴァン、飯どっか行くよな?ハルをレオのところに送り届けてくるから先に詰所で待っててくれるか?」
ゼノウはイヴァンにそう言って笑い掛けると「行くぞ、ハル」と元来た道を戻る。
「あの、イヴァン様、失礼します。」
ハルもペコリとイヴァンに挨拶して急いでゼノウの後を追いかけた。
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