31 / 59
ハルの葛藤
しおりを挟む「ハル?ハル?起きたの?大丈夫?」
ハルが目を覚ますと、以前にも見たことのある天井が目に入る。
騎士団長様の家だ。
「ここ……」
「ゼノウんちの屋敷だよ。ここは医者が常駐してるから連れてきたんだ。」
そう言う王太子様は人の姿に戻ってる。
なんだか夢でも見ていたような心地だが、体中痛いところだらけなので現実だとすぐに分かった。
「そうだったんですね・・・・。ありがとうございます。
あの後・・・・どうなったんでしょうか?」
体を見るとそこらじゅうに包帯が巻いてあり、話した時、口の端からはピリッと痛みが走った。
「ベレー子爵の息子とリンダンは逮捕したよ。今ゼノウとオリバーが後始末してる。リンダンは他国の王族だからうちの国の法律では裁けないんだけど、入国禁止にしてリリアナ王国に送り返す予定だ。
正式に抗議文を出すし、2度とハルの前には現れないから安心して。」
「そうですか・・・・。
でも、王太子様はそれでよかったんですか?
婚約者・・・・だったんですよね?」
「いや、婚約者じゃないよ。確かに婚約の打診はきてたけど断ったんだ。」
「えっ・・・・」
ハルは顔を上げて王太子様を見る。
穏やかに微笑んでハルを見ている王太子様は嘘を言ってるようには見えない。
見るたび仲睦まじく隣り合ってたから、てっきり・・・・
「結婚したい子は別にいてね。」
少し希望を持ってしまった瞬間、次の言葉で落とされた。
好きな人いるのか。
「で、でも、あの、お、王太子様は、その・・・・子供とか欲しかったりは・・・・僕、その・・・・」
あぁ、狡いこと言ってる。
王太子様が子供が欲しいなら一抹の望みがあるかもしれない。
ハルに子供ができたって知ったら・・・・もしかしたら好きな人よりハルを選んでくれるかもしれない。
そんな狡い考えでつい出た言葉だ。
「子供は・・・・いなくていいんだ。
好きな人とさえ一緒に居られればそれがなによりの幸せだって気付いたんだよ。
歳が離れてるけど弟がいるから、最近はね・・・・彼の子供が大きくなるまでは頑張って、それから王位を継がせればいいと思ってる。」
「そ、そうですか・・・・。」
ハルは唇をグッと噛んだ。
顔に力を入れておかないと、涙が溢れてしまうから。
狡いことを考えたからさっそくバチが当たったんだ。
「す、すみません。僕、つ、疲れているみたいで、もう・・・・もう少し、休ませてください。」
ハルはそう言うと返事も聞かず、レオに背を向けベッドに横になった。
シーツを被って流れる涙を隠す。
漏れそうになる嗚咽を我慢するために強く強く唇を噛んだ。
レオのほうから音はしない。
声も掛けてこない。
早く部屋を出ていってほしいのに。
思いっきり泣きたいのに。
一人で育てる覚悟だって出来たはずなのに。
あんなかっこよく助けに来られたら諦められないじゃないかっ・・・・!
16
お気に入りに追加
2,977
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる